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19/50

18/素敵な(最悪な)めぐり合わせ

「………はぁ?」


まいどどうも、蓮です。


球技大会が終わりを告げてから、早一日。

っていうか昨日まで球技大会やっていたわけなのだが……。

あ、ちなみに結衣と香奈ちゃんはバドミントンで決勝を戦い、香奈ちゃんが勝利していた。

どちらも譲らないいい試合で、どっちが勝ってもおかしくなかったと思う。


って、そんなことはどうでもいいとして、今日俺は懸案事項を抱えていた。

っていうかたった今抱えたんだけどね。なんだろうこのどっかのベタベタな漫画の中にありそうな訳の分からん展開。


神様、いくら展開に困ったからってこれはないだろう。

そろそろ分かってきたやつもいると思うが、俺の下駄箱の中に三通のピンク色の手紙があるのだ。


それにしても一体なんだというのだ。

今までノーマークだったはずの俺に何を血迷ってこんな物を。

もしかして……誰かのイタズラか?

それはないと思うけど。これ、どうしようか。


「どうしたんだ蓮」


なぜこのタイミングで……。

俺はため息と共に振り返った。

彼方が靴を履き替えながらこちらを見ている。

そして、俺の手中にあるブツを発見。


「おほ、蓮モテモテだなぁ!」


モテて嬉しいのはモテない男だけだろうが。

まぁ俺もその中に入るかもしれないが。

や、モテたいわけじゃないよ?


「やっぱりテニスが効いたのかな?」


俺に聞かれても困る。

っていうか効いたってなんだよ?

なにその狙い通りみたいな目!わかってんだよ、狙い通りじゃないことくらい。


「さぁな」


俺はブツを鞄にしまうと、さっさと歩き出した。

彼方も、後ろから早歩きでついて来る。


「それにしてもさ、ひでーと思わねー?」


彼方が突然言い出した。


「何が?」


「蓮には悪いんだけどさ、多分球技大会やってさ、かっこよかったからっつって告白してきたんだろ。それってなんかなぁ」


「確かにな」


彼方の言いたいことはよーく分かる。

だからさ、多分血迷ったんだって!

若気の至りってやつ。相手が俺でよかったね。大丈夫、公表はしないから。

俺の思い出として机の中に大切にしまっておくから!

っていうかラブレターを懸案事項としか思ってない俺の方がひどいかもしれないけどね。


「でもま、蓮のかっこよさに気付いたんだからオーケーか」


何が?何がオーケーなの?っていうかそれをお前が言うか!?

嫌みかこのやろー。


「もしかしたらファンクラブとかできたりしてな」


「まさか」


そんなことあるわけないだろ。芸能人なわけじゃないし、俺みたいな平々凡々人並み月並みな人間にファンクラブなんてできようものなら、きっと総勢二人程度の活動内容不明の怪しいクラブになるだけだろ。


その後も彼方の意味不明な言動を流しつつ、教室に向かった俺であった。




***




さて、本日の授業も彼方の言動並みに軽く流し、時刻は放課後を迎えたわけなのだが、俺は帰らずに屋上への階段を上っていた。なぜ屋上なのか?というと、順を追って説明しよう!


古典の授業で同じ日本人とは思えないような言葉を聞いていた俺は、明らかに退屈していた。

まぁ古典の授業が退屈なのは日本全国共通の思いだろう。

さすがに退屈しすぎていた俺は、鞄にラブレターらしき物が入っていたことを思い出した。

周りの目を気にしつつも、間が差したのだろう、そうとしか思えない。

なぜだかラブレターの内容が気になってしょうがないので、中身を見てみた。

一通目、二通目はなんのことはないただのラブレター。

これを書いたやつ、できれば授業を忘れるくらい面白い文章にしろ!


っと、それはさておき、三通目がひどく気になるような内容だった。



『放課後、屋上で待つ』



せめて………名前くらい書こうよ。しかも赤い字。

もしかしたら殺人予告なんじゃ………。ってか殺人者なんているかぁ?この界隈に。

でも最近は物騒だからなぁ…。


というかさ、こんな怪しいのに屋上なんて行くわけ無いじゃん……なんて思いつつ、なんかみんな用事があるとかで、一人で帰るのもあれだってことで、現在に至っているわけである。や、別にふてくされてなんかいないよ。


ただ暇だからね。


この学校は屋上は年中無休24時間休み無く開いている訳で、昼休みは生徒が多数いるのだが、放課後にもなればまず人はいない……と思う。


とかなんとか考えていると、もう屋上は目の前だ。


さて、誰がいるのでしょうか……オープン!



ガチャ……………。



これは、ドッキリか?

屋上には人影が見当たらない。


「あーあ、イタズラかよ」


少なからず期待してしまった俺の淡い心を返せ!という気持ちでもう一度当たりを見回したあと、俺はもときた道を戻ろうとした。


その時!


「動くな」


首筋に、ヒンヤリとした感覚が走る。いた!殺人者いた!!

その場の空気が、ピンと張り詰めたように緊張感に包まれ、俺のこのくそ役立たずの体は、律儀にも相手の言うとおりに動かない。

ってか動けない。

まじこっえー!

首になに当ててんですか?ナイフ?ナイフなの!?


「動いても殺す。話しても殺す。ただ私の質問にYESかNOで答えろ」


待て……待て待て待て!!!

なんだこれは?こいつはなに言ってる?俺を殺す?

WHY?なぜ?

なんなんだこの状況は。

っていうか、YESとNOは話すってことになんないの?やだよ俺、そういう誘導尋問。

俺がYESって行った瞬間ザクッみたいな。

ただの揚げ足取りじゃないかよ!


「お前の元の名は浅田だな?」


これ、ほんとに答えても大丈夫だよね?

ザクッとなんないよね?


「死にたいのか?」


「…YES」


あっよかった…揚げ足取りって線はないみたい。


ってかなぜ知ってる?

待てよ?

この声には聞き覚えが……?

あるかもしれないしないかもしれない。

っていうか今気付いたが、首に突きつけられているのはナイフではなく、スプーンだった。

やってらんねー!

スプーンにまじでびびっちゃってたよ俺………。いや、でもスプーンでも一応注意はしといた方が良かったりするのか…………?ってもういいよ!スプーンのことは!


そうじゃなくてこいつが問題。

俺はこいつのことを思い出したんだ。


「さっさと離せよ、環さん」


「はいはい」


そう言って、髪がアメリカ人みたいな色をして、長い髪をポニーテールにしている不良っぽい女子高校生、環は俺を離した。

そして、スプーンを捨てた。


「久しぶりだな、蓮」


「うん」


ちなみにこの人は、できれば会いたくなかった方に分類される人物だ。


「あんたがこの学校に来るなんてねぇ。宮崎の時も思ったけど、神様も粋な巡り合わせをするもんじゃない?同じ孤児院出身のやつを同じ学校に集めるなんてさ」


ほんとに偶然かよ?

なんて愚痴りたくなるくらいの巡り合わせだ。

ここから遙か遠くの孤児院の出の者が3人も同じ学校にいるんだから。


環さんは、俺と似たような境遇で孤児院に来た。両親を事故で無くし、親戚をたらい回しにされた結果、孤児院に預けられることとなった人。

で、そのうち遠いところの心優しい親戚が引き取っていった。


この人自体は非常に元気で、それはもう工事現場の機械音か、はたまた追跡中のパトカー並みにうるさい。

っていうか、やることがいつも豪快すぎるのだ。

つまり、心優しい親戚のおかげで俺の日常は守られたのだが、まさかここであってしまうとは。


「あんな手紙でよく来たな」


「暇だったんでね」


俺は精一杯ダルそうな感じを出して言った。

それを見た環さんはクスクス笑っている。


「なんで呼び出したか………分かる?」


「なんとなくな」


「なら話は早い。私と付き合え」


「断る!」


「即答!?」


俺のあまりにも早すぎる返答に、環さんは少々面食らった様子。


なんとなくわかってるって言ったでしょ?

先に答えを用意しとくこれ常識。


「なんで?あの時助けてくれたじゃん!」


あの時ってーのはつまり、昔々この人がまだ孤児院にいた頃、別れた男が孤児院まで押し掛けてきたことがあった。

ちっこい子供達が怯えていたし、俺自身、院長に怒られた後だったので、腹いせにその男の背後から跳び蹴りをかまし、その場を丸く収めたわけだ。

今でも思いだせる、その男は俺に蹴られた時、「ぷぎゃあ!」って言ったんだ。

想像してみてくれ、ぷぎゃあ!って…大の男がぷぎゃあ!ってマジで笑える。


いやー、それにしても跳び蹴りって決まると綺麗に飛んでくもんだね。更に、俺の苛立ちもすっきり飛んでくれたし。もちろん、子供たちは拍手喝さいを忘れなかった。


で、それからこいつはずっとこんな感じ。

何かと俺の気を引こうとしている。

引っ越してくれて平和になったのに…………はぁ。


「あれは子供達のためであって、あんたのためじゃない」


「とかなんとかいって、実は私のためなんじゃない?」


もう帰りたい……。

どこまでポジティブなんだこの人。


「そういや、自分のこと俺って言わなくなんたんだね」


「高校生にもなって、いつまでも俺って言うのもね」


「あんたがそんなこと言うと鳥肌が立つんだが…」


「それにしてもほんとに久しぶりだな!背のびたんでない?」


「聞けよ!」


なんだこのいっそ清々しいまでのスルー。そして俺と無謀にも背比べを試みている。

黙ってればそこそこ可愛いちょっとはっちゃけてる女子高校生だし、それなりのスクールライフを過ごせただろうに。


「で、本当は何の用?」


環さんは用も無いのに、無意味に人を呼び出すような人じゃない。

この人の行動には、必ず意味がある。


「さすが蓮、鋭いな。実はちょっと……困ったことになってね」


雰囲気が一変し、環さんはとてもいいにくそうにしている。

困ったことだぁ?どうせロクなことじゃないんでしょう?

やっと球技大会も終わって、落ち着いてきたと思ったのに…。

もっとこう、平和なほのぼのとした日常がいいんだけどなぁ。


「聞いてくれるかい?」


「俺じゃなきゃダメなわけ?」


「ダメっていうか…私は蓮に頼みたいんだ…」


上目使いで環さんが俺を見てくる。女子の上目使いってさ、絶対反則だと思う。


「……はぁ。いいよ、言ってみ」


俺、最近気付いた。

俺は、女の子に非常に弱い。


……………はぁ。










読んでいただいて、ありがとうございました!


次回、環さんの頼みごとが明らかになり、蓮の日常がまたもやデストロイされます。


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