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15/緊張ってやばい

ドックン・・・ドックン・・・ドックン・・・


何も聞こえない・・・。

何も見えない・・・。


「じゃ〜んけ〜ん」


何も聞こえない…。

何も見えない…。


「あの…?」


あれ?俺、どうしたんだっけ?


「あの…もしもし?」


「あぁ!?」


うるさいな!今考え事してんだよ!ちょっと待ってろ!


「すいません…サーブかレシーブかじゃんけんで決めようかと思って…」


…はっ、そうだ!これから試合じゃないか!何をやってるんだ俺は。


「ごめんごめん。じゃ〜んけ〜ん、ぽん」


俺が負けたので、相手がサーブを取った。

なんかショックだなぁ。じゃんけん負けたの。


審判の試合開始の合図とともに、相手がサーブの構えをとった。

ゆっくりとした動作で球を打ち出した。

流れるようなフォーム!

そして繰り出された球は……。な、なんて凶悪なサーブなんだ!速すぎて目で追うのがやっと。

くそっ!とれない!


『フィフティーンラブ』


くっ、こうなったらフォームを見てコースを読むしかない。


パコォン


くっ、とれない!なんでだ!体が思うように動かない。

っていうかフォームも普通だし球の速さも普通だった!

何もかも普通かよあいつ。


「お兄ちゃん!しっかり!」


「何やってんのよ!藤宮!」


何も見えない。

何も聞こえない。


『サーティラブ』


相手がサーブの構えをとる。


パコォン


今度はしっかり返した。そしてラリーが始まる。


ミスしちゃ駄目だ。

絶対ミスしちゃ駄目だ!


俺のボールが浮いて、アウトになる。


『フォーティラブ』


駄目だ……。

このままじゃ…負けてしまう。

結衣と、約束したのに……。

結衣が、見てるのに……。


相手がさっきよりためを作ってサーブを構えた。


恐らく速いサーブがくるだろう。

俺はそれを予測して、後ろに下がった。


パコン


俺の予測に反して、相手は俺が下がった後にネット前に落ちるようなサーブを打った。

後ろに下がりすぎていた俺は、追いつけるわけがない。

それでも追いかけた俺は、足をつまずかせてコートに転んでしまった。


『ゲーム阿曽、コートチェンジ』


頭の中が真っ白になった。

それが緊張からくるものなのか、それとも敗北の恐怖からくるものなのかはわからない。

何もわからなかった。


ただ、真っ白だった。


それから俺は、自分が何をやったか、何回ボールを打ったのか、何ゲーム取られたのか、それすら分からないほどに困惑した。


この感じ、自分が何をしたのかすら覚えていないそれを、困惑というのだろうか。

何か適当な言葉を知っているやつはここに来て、俺の代わりに説明してほしい。


『ゲーム、阿曽。コートチェンジ』


いくつゲームを取られただろうか。

俺はあまり動いていないにも関わらず疲れきってしまっている体をベンチに投げた。


数十秒たってから、やっと思考が開始する。

テニスって、こんなに苦しいものだったろうか?


情けない。


この一言しか浮かんでこなかった。

足が痛む。

さっき転んだ傷がより情けなさを際だたせる。

本当に……情けない。



「情けないですね。何をやっているんですか?」


不意にかかる一声。


聞き覚えのある声に俺の体が強張る。

この強い口調、凛とした雰囲気。

顔を見なくても分かる。間違いなくあの人だろう。

俺には、その声が怒りか、悲しみか、どんな感情を帯びているのか分からなかった。


だから、顔を上げた。


きっと、今にも泣きそうになっている顔を。


「どんな試合をするのか見ていたら、こんな情けない試合をするなんて」


「…」


何も言い返せなかった。


「そんなテニスで、楽しいですか?」


……楽しくないよ。


「負けたらペナルティーですからね」


こんな時になに言ってるんだ。


「それも1番辛いやつです」


ははっ、それは御免だ。


「嫌でしょう?」


「嫌だね」


「なら、勝ってきてください」


俺は目をつむった。


何をゴチャゴチャ考えていたんだろう。

勝負とか、結衣とか、情けないとか……。


そうじゃないだろ!


テニスってそうじゃないんだ。

俺はテニスをしに来たんだ。

テニスを楽しむために来たんだ。


フェンス越しにすみれさんが見える。

その表情はいつもの無表情。それが、妙に頼もしく感じる。

すみれさん、ありがとう。

俺、やってみるよ。


「しゃあ!…勝ってくる!」


俺はかけ声と共に自分の両頬を叩き、気合いを入れた。


そうだ、テニスって楽しいんだ。


みんなが見てる。

だからこそ、楽しまなきゃ損じゃないか!


俺は、3回ほどボールを地面についてから、ボールを天高く放り投げた。




***




「お疲れさん、蓮」

「お兄ちゃん、お疲れ様」

「…」


俺がコートから出ると同時に、結衣と彼方とすみれさんが出迎えてくれた。

もちろん無言はすみれさん。

もっとこう…なんかないのだろうか?

一応教え子である俺が勝ったんだから、もうちょっと喜んでほしい。


「とりあえずペナルティは次に持ち越しですね」


ちょっと笑顔で言うすみれさん。


俺にかける第一声がそれかい。

あなたの頭の中はペナルティ以外に無いんですか?

どんなSだよ。

あ、ごめんドS。

兎に角ペナルティは御免だな。

勝つしかないのか。

目が本気だもんすみれさん。

1番キツいペナルティってなんだろう?

やばっ。嫌な予感しかしねぇ。

しかもドS。会話が切れたところで、俺はさっきのお礼を述べる。


「すみれさん、ありがとう。すみれさんが居なかったら・・・多分あのまま負けてたよ」


俺は精一杯の感情の意を込めて言った。


「テニス……楽しいですか?」


「楽しい。本当に楽しいよ」



「それなら、教えたかいがありました」


この人も、テニスを心から楽しんでいる人の1人。


その中に、俺も入れたのだろうか?

そんなことを思った。


「お兄ちゃん、格好良かったよ!」


すみれさんとの会話が切れたとたんに結衣が話しかけてきた。


「ん?あぁ、そう?」


「そうだって!一試合に何回スマッシュしてんだよ!」


結衣の話に彼方がのっきた。

あー、確かにスマッシュはたくさんしたな。

相手が……相手の名前なんだっけ?

俺は素早くポケットから対戦表を取り出し、名前を確認する。

や、そんな、対戦相手の名前が出てこないなんて失礼極まりないなんてことはない。

確認だよ、確認。


「あ、阿曽?がたくさんうちごろのボール上げてくれたからな」


もっと簡単な名前にしてほしい。


「そうそう!格好良かったぁ」


なんで結衣そんなに興奮してんのさ?

ちょっと落ち着いてよ。

あと彼方の前でカッコいいとか言われてもね。


その時、彼方を呼ぶ試合のコールが鳴り響いた。


「お、俺の番か。行って来るは」


軽い足取りで彼方が去っていった。

試合は多分10分後くらいだろう。


「見に行かないの?」


不思議そうに言う結衣。


俺だって見たいけど、彼方の試合を見て自信を失うのは避けたい。

そんなことは結衣に言えるはずもなく、渋々ながら連れて行かれたわけなのだが。


コートにつくと、アップをしている彼方の対戦者らしき人物が見えた。

それに比べて彼方は、フェンスによっかかって桜ちゃんと話している。

やる気はあるのか無いのか非常〜に微妙だ。

特に感情のこもっていない頑張れを彼方に言うと、なんとなく周りを見回してみた。

そうしたら、なぜかちょっぴり遠くから彼方を見ている神谷がいた。


桜ちゃんと結衣が話込んでいるすきに俺は神谷の方へ歩みよった。


「よかったわね」


俺に気付いた神谷は俺に祝福の言葉をかけてくれるが、全然心がこもっていない。

今まさに始まろうとしている彼方の試合を凝視している。

そんなに睨んだら対戦相手に呪いがかかってしまうんじゃないだろうか?

こいつにそんな意味不明な力があるとは思えないが。


「瀬戸は?」


「今試合やってるわ」


「見なくていいのか?」


「綾にこっちの試合を見るように言われたのよ」


「あそう」


なんだこの一問一答のような会話は。

ま、神谷と2人の時は無言かこんなもんなんだけど。


「お前俺の応援してくれなかったよな」


「いたわよ」


「どこに?」


「1回くらい叫んだわよ?それよりあんた、綾の試合見に行かなくていいの?」


あ、俺の試合の応援の話題より瀬戸の試合なんだ。


「…なんで?」


「別に」


自分から話振っといて別には無いと思う。更に言えば、こいつは苦しくなったり返答に困ったりすると別にを使うのだ。


……と、彼方が言ってた。









彼方は、危なげなく……ってこともなく、ストレートで一回戦を勝ち上がった。

いやぁ、素晴らしい試合でした。

更に言うと俺はちょっと落ち込み気味だ………っていうのは冗談で、彼方と俺はおおむね互角な感じに見える。

むしろ若干俺が勝ってるんじゃないかな。

こりゃ、一週間の地獄の特訓のかいがあったってもんだ。


「ふー、勝った勝った」


楽勝ってな感じで彼方が帰ってきた。


彼方が勝ってあら妙に上機嫌な神谷軽く煩わしく思いながらも、彼方に心のこもっていないがナイスゲームと一言だけ言ってやった。

彼方は何も懸念せず、「サンキューで〜す!」なんて叫んでいた。

バカなやつだ。


ちなみに瀬戸もテニスに出ていたのだが、さっさと負けて帰ってきたようだ。

お世辞にも瀬戸は運動が上手なわけじゃない。

というか運動音痴だ。

テニスを選んだのも個人競技だからだそうだ。


その後、とんとん拍子に俺と彼方は上手い具合に勝ち上がっていった。


そして、俺にはいつもどうりの緊張という感覚がなくなり、まぁなんとか向かってくる敵は全員なぎ倒し、彼方は彼方で遊んでるようにしか見えないが確実に駒を進めていき、不本意ながら妹共が所望する決勝で対戦というドラマのような現実の話が実現してしまった訳であるのだが………。


まぁ、ここまま彼方にも勝って優勝したいところだったんだがな、どうやらそうもいかないみたいだ。





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