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13/たかがテニスされどテニス

今回はほのぼのとしています。

いつも以上に気軽に読んじゃってください。


パコォン


黄色い球がコートの上を行き来する。


パコォン


男性が打った球を更に速いスピードで女性が打ち返す。


男女の差を感じさせないラリーが続いた。


しばらくその繰り返しが続いたあと、試合が動いた。


女性の打球が少しだけ浮いたのを見逃さず、男性は大きくテイクバックをし、渾身の力を込めて今までで最速の球を打った。


女性は力負けしたのか、返すのがやっとで、ボールが山なりのロブとなった。


男性は勢いをつけ、ジャンプ。またも渾身の力を込めてラケットを振り下ろす。


しかし、男性のラケットは空を切った。

簡単に言えば空振りである。


「しまっ……!」


着地した後、驚異的なスピードでボールを追いかけるも、追いつくのがやっと。


男性の打ち上げた球は絶好のチャンスボールとなった。


今度は女性が大きく振りかぶり、ラケットを振り下ろした。


ボールはラケットの中心に当たり、いい音を奏で、男性に一直線に飛んでいく………


「うわっ!…なんで当てるんすか?」


ボールがワンバウンドしてから男性こと俺、蓮のラケットに当たった。

というかすみれさんが当てた。

相変わらずなんてコントロールなんだろう。

っていうか当てないでほしい。

おかげでラケットが飛ばされてしまった。


「さっきと同じミスを繰り返したからです」


だからってなにも当てることないだろう。

俺の寿命がまる三秒ほど縮んだじゃないか。

三秒縮んだってことは最後の一言が途中で終わってしまうじゃないか。

こいつは一大事。


ちなみに同じミスとは、スマッシュのミスのことだ。

すみれさんはロブを上げた時に、ボールにスライス回転をかけたため、球が異常に伸びたのだ。

それに気付かずに飛んだ俺は、タイミングも距離も会わず、空振りに終わった。

このミスは、これで今日は3度目。

まぁ、すみれさんが呆れるのも無理ないだろう。



「今日はここまでにしましょうか。日も暮れてきましたし」


言われるまで気付かなかったが、もう夕暮れ。

遙か遠くでカラスが俺を慰めるように鳴いている。

カラス、君のことは忘れない。

今日はね。


「そうだな。…あんたには感謝してる。非番の日まで付き合わせてしまって」


「気にしないで下さい。私もそれなりに楽しんでいます」


だそうだ。とてもじゃないが楽しんでいるように見えないが、楽しんでいるらしい。・・・・嘘だと思う。


「…嘘だ」


「本当です」


「嘘だろ」


「本当です」


「うそ…」


「本当です。いくらなんでもしつこいです。そんなんじゃ女性に嫌われますよ。もう手遅れかもしれませんけど」


せめて最後まで言わせて下さい。

ってうかそこまで言うことないじゃないですか。俺に恨みでもあるんですか?

俺?俺はありますよ。

厳しいとは言われたけどあれはないと思う。同じミスを繰り返しただけで繰り返されるペナルティーの数々。

その度にぼろ雑巾のようになる俺。それをうっすらと微笑を浮かべて見下ろすすみれさん。

思い出しただけで俺の目頭が熱くなる。よく耐えた俺の体。

今日は多めに睡眠をとらせてあげるからね。

俺が物思いにふけっていると、すみれさんが口を開いた。


「明日、球技大会でしたよね?」


そういえば、みたいな感じでさみれさんが言う。


「うん…。なぁ、俺って強くなってるかな?」


俺は一番気になっている疑問をぶつけた。すみれさんとしか打ったことがないため、その辺がよく分からない。

一呼吸おいてからすみれさんが答えた。


「はい。ご自分でどう思っているか存じませんが、私とまともに打ち合えるのだから相当お強いはずです」


しれっと言ったよこいつ。しれっと言い切ったよ。

さすがチャンピオン、言うことが違うね。

すみれさんは現役時代に全国制覇したらしい。そんなに昔の話じゃないはずだ。

それはともかく俺は強くなっているらしい。


「明日、頑張って下さいね。私も応援に行きますので」


「あぁ、来てはくれないと思うけど精一杯がんば…え?」


今なんとおっしゃいました?


「ですから、私も応援に行くと言ったんです。なにか問題でも?」


「問題か…強いて言うならあんたのイメージが若干壊れつつあるということだけだな」


「私、イメージとか作った覚えはないのですが」


「俺の中ではすでに構成されているんだ。それにしても意外だな」


「何がですか?」


「あんたが俺の応援にくるなんて思わなかったからさ」


「迷惑でしょうか?」


悲しそうな顔をして言うすみれさん。なんだかしおらしい。いつもとのギャップがより可愛く思える。香奈ちゃんと似てる気がした。


「そんなことない。けど、仕事はいいのか?」


「あ、加奈子さんに頼まれたんです。蓮様の応援に行ってあげて・・・と」


さいですか。俺のこの見直したっていうか、なんていうか可愛いとか思った気持ちはどこえ持って行けばいいんだろう。


「とにかく頑張ってください。私が一週間付きっきりで教えたのだから、優勝してくれなきゃ困ります」


なんで困る?とつっこもうとした俺をよそに、すみれさんは俺に一礼すると、車庫の方に歩いていった。その顔が、少し寂しそうに見えた。


俺はというと、そのままコートにバタンキュー。

球技大会前日という今日この頃、俺は今までの6日間、テニスをやり続けた。

今ではすみれさんとまともに打ち合えるようになったが、それでも彼方には遠く及ばないだろうと思う。


所詮は俺なんだ。なんて謙虚なんだろう俺って。


その時、俺のほっぺたに冷たい物が当たった。


「お兄ちゃん!ポカリ持ってきたよ」


「……ありがとう」


俺は未だにほっぺたにくっつけられているポカリを受け取った。


冷たいから早く放して欲しかった。


「お兄ちゃん、ずいぶん上手になったね。最初はどうなるかと思ったけど…。これなら彼方君にも勝っちゃったりして」


なんだか期待のこもった目をしている結衣。こんなに期待している妹を裏切るのは正直つらい。


「どうだろうな」


なので、あやふやに答えた。でもはっきり言って自信なし!っていうかさ、無理だから!


「あ、無理に決まってんだろって顔してる!大丈夫だよ、勝てる!」


何を根拠にこの子は。っていうかいつにもまして鋭いね。


「勝てるかどうかは分からない。でも……」


「でも?」


俺は一呼吸置いて言った。


「テニスって結構楽しいよ」


そう。テニス…というより、運動を久々に楽しめた気がする。

それは俺のやる気の問題かもしれないし、俺の周りの環境の変化のせいかもしれない。


「そっかぁ、楽しいんだぁ」


と声を漏らしてから、結衣はずっと俺の顔を見てニコニコしている。


俺はそれに気付いて始めて自分が笑っていたことに気付いた。


そんな自分に苦笑する。


俺は俺が思っているよりずっとテニスを楽しんでいるみたいだ。


「俺さ、今までずっと適当に体育とかやってた。適当に、チームの足を引っ張らない程度に動いてた」


「でも、お兄ちゃん楽しいんでしょ?」


含み笑いで結衣が言う。


「うん。なんでこんなに楽しいんだろうな」


なんで…こんなに楽しいことに今まで気付かなかったんだろうな。


「ね、お兄ちゃん。結衣にもテニス教えてよ」


「……?でも結衣はバドミントンに出るんだろ?」


「お兄ちゃんあんまり楽しそうだからやりたくなっちゃった」


「……いいよ。やろうか」


「ほんと!?ありがとう!」


本当は凄く疲れてたけど、俺も結衣とテニスがしたくなった。

だから、快く引き受けたんだと思う。




それから、結衣にテニスを教えた。

結衣の運動神経もかなりのもので、すぐにラリーができるようになった。


ただ、日が暮れるまでずっとラリーをしていた。


とくに勝負もせず、ずっと繋げるだけのラリーを繰り返していた。


いつの間にか数を数え初めて、いつの間にか頬がゆるんでいて、いつの間にか日が完全に暮れていた。



「……そろそろ、見えなくなってきたな」


「そうだね…」


楽しい時間はすぐ過ぎる。その後には、名残惜しさだけが残る。


だから、人は約束をするんだと思う。次を求めて。

それは、俺だって例外ではない。


「また…やろうか」


「うん!約束」


結衣が俺に向かって小指を差し出してきた。


「あぁ、またやろう」


俺もまた結衣の小指に自分の小指を絡み合わせた。





読んでいただきありがとうございました。

これからも私の小説「姫と騎士と彼女と俺と」をよろしくお願いします。

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