12/テニスってかい
「…カッチーン」
やってやるよ。勝負だろうがなんだろうが。
「で、なんの種目にするんだ?」
「…テニスなんてどうでしょう?」
え?テニス?なんでよりによってテニス?もっとこう・・・誰でも出来る球技じゃだめなの?
「わかった」
え?俺今わかったって言った?今わかったって言ったよね!?なんで!?
全然わかってないし!テニスだなんて不満が多数存在するし!
「それじゃあ、また来週会いましょう。行くよ!彼方兄!」
え?ちょ、待って!まだ言いたいことが!っていうか彼方俺と飯食べてたんだよ?
「え?俺も行くの?」
彼方はずるずると引きずられて行ってしまった。まぁ、あれは気にしないでおこう。
テニスかぁ。はぁ……どうしよ…。
俺が彼方の引きずられてった方を眺めていると、木の陰で何か動いた。
ん?あの木の影に隠れているのは…結衣?
あれで隠れているつもりだろうか。
「何してんだお前」
「え!あー、お兄ちゃん。どうだった?」
どうだったとは?っていうか君がどうしたの!?
「…何が?」
「いや、あの、えーと、その」
そっか、結衣が桜ちゃんに頼んだんだな。それであんなに俺を挑発したのか。
いつもならすぐに気付くはずなのにな。相当頭に血が上ってたみたいだ。
「不本意ながら桜ちゃんの口車に乗せられたよ」
「…ってことは、お兄ちゃん勝負するの?」
「そういうことになる」
はぁ、ほんとどうしよう。
「お兄ちゃん大丈夫?無理してない」
何を今さら。でも自分のことを心配してくれている女子にそんなことは言えない。
それが結衣ならなおさらだ。
「まぁ、あんまり気は進まないがやるからには頑張るよ」
「ほんと!?楽しみだなぁ」
心から嬉しそうに笑う結衣。俺もつられて頬が緩んだ。
不思議と俺は、気が進まないとか、頭にきてたとか、そんなことは全然よくなっていた。
「時に結衣、テニス、やったことあるか?」
「ううん」
いきなりなんやねんあんた!見たいな目で見ないで。これは重要な問題なんだ。
「俺も無いんだ。でもテニスで勝負らしいんだ」
「……それってやばくないですか?っていうかなんでテニスにしたんですか?」
そうです。やばいんです。ほんとなんでテニスにしたんだろう?
その場のノリっていうか、なんていうか、ねぇ。
っていうかなんで敬語なんですか?
その時、結衣の頭の上に豆電球が浮かんだ…ような気がした。
「あ!そういえばすみれさんが前テニスやってたって!」
「ほーう。で、そのすみれさんはどこに?」
「もしかしたら今日いるかもしれないから家に帰ったら紹介するね」
なんで家に?もしかして今日来るお客さんとか?まぁ、テニス経験者がいるなら是非紹介してもらいたい。
***
放課後
***
キーンコーンカーンコーン
「結衣、迎えに来たよ」
ここは中等部の校舎。今日はすみれさんなる人に会うということで、結衣と帰ることになったのだ。
「あ、お兄ちゃん、私掃除だからちょっと待っててね!」
結衣が教室からひょっこり顔を出したかと思ったらまたひっこんでしまった。
「はいはい」
掃除かい。急いで来て損してしまった。なんだか中等部は落ち着かない。俺は高等部の者なんだし、堂々としてればいいんだけど、なんだか落ち着かない。
「あ、蓮さん。お久しぶりです」
この中学生の癖に妙に落ち着いた声は…香奈ちゃんだ。
「あぁ、久しぶり」
「そういえば、彼方さんと本当に勝負するんですか?私冗談のつもりだったんですけど」
じょ、冗談!?君のせいで俺は彼方にコテンパンにされる予定が立っちゃったんだよ?
そんな予定絶対立てたくなかったんだよ?
「蓮さんやりたくないんですよね?結衣ちゃんに聞きました」
俺の心叫びを感じとったのか、もしかしたら俺の目つきがきつかったのか分からないが、香奈ちゃんに「ごめんなさい」と一言謝って、俯いてしまった。
「いいよ。俺も結構楽しんでるから」
なんだかしおらしい香奈ちゃんに俺は嘘をついてしまった。俺が頭を撫でると、俯いていた顔をあげてくれた。
香奈ちゃんはお礼の代わりに笑ってくれた。
「やっぱりお兄ちゃんほしいなぁ」
香奈ちゃんはふと呟いた。なんでそんなに兄に憧れるんだろう?
兄ってそんなに女子にとって憧れものなのだろうか。それとも何か特別な理由でもあるんだろうか。
俺がそれを問おうとた時、結衣が帰ってきた。
「行こう、お兄ちゃん!」
なんて間の悪いやつ。
「あぁ」
「じゃあね、結衣ちゃん」
「ばいばい!香奈ちゃん」
「蓮さん、球技大会頑張ってくださいね。応援してます」
「ありがとう。頑張るよ」
香奈ちゃんと別れ、そのあと結衣とも別れ、校門で合流した。
「で、すみれさんってどんな人?」
「お兄ちゃんも知ってる人だよ」
え?そんな人知ってたか?いや、知らないはずだ。
「知らないと思うんだけど?」
「まぁ、家に帰れば分かるよ!」
意味深な結衣の言葉を気にしながらも、俺は家路を急いだ。というか結衣が俺の腕をひっぱっていった。
家につくと、加奈子さんの姿が見当たらない。
その代わりに、いつかのメイドが出迎えてくれた。
そういえば加奈子さんは一泊二日の温泉旅行に行くと言っていたのをすっかり忘れてしまっていた。加奈子さんが出かけるときは、このメイドがうちに来る。
「で、結衣、すみれさんはどこに?」
「え?そこ」
結衣が指を指した方向を見てみる。あれ?なにもないぞ。あるといえばあるんだが。
一応、結衣の目線になって確認する。
結衣の横に立ち、少しかがんで目線を合わせる。
ちょ、この体制つら!
つらい思いをした割には俺の目に映るものは変わらなかった。
なので、結衣の指を少しずらしてみた。
すぐに元に戻される。
次の手は、結衣の位置を変えてみた。
指差す方向は変わらない。
「次は…」
「もういいよ!」
なんでかキレ気味の結衣。別に俺遊んでたわけじゃないんだけど。
「この人がすみれさんなの!」
この人、俺と結衣のほかに人間は……メイドしかいない。っていうかさっきから結衣が指差しているのもメイドだ。
「…すみれさんてあんたかい」
「そうですけど、何か?」
この少し喧嘩腰の野郎……野郎じゃないな、女性がすみれさんらしい。
俺が藤宮家に来た最初の日、俺を影から笑いやがった野郎…メイドだ。
っていうかなんで喧嘩腰なの?
「テニス教えてくれ」
「嫌です」
ええ!?即答!?…もうちょっと……もうちょっとくらい考えてくれてもよくない?仮にもメイドだよ?そんなんじゃ恥ずかしくてアキバ歩けないよ?
「なんでだよ?」
「あなたからはテニスを楽しもうという姿勢が見受けられません。誰かに無理強いされてテニスをしても、つまらないだけです」
なんでそんなに俺の現状を把握してるんですか?
それにしても、つまらない…か。言い返す言葉がない。
でも、約束したんだ。彼方に、桜ちゃんに、香奈ちゃんに、そして結衣に。
頑張るって、やれるだけのことはするって。
テニスが楽しいっていうんなら……ここはバシッと決めてやる。
「なら、あんたが俺に教えてくれよ。テニスの楽しさってやつ」
決まった…。完璧だ。全くと言っていいほど欠点が見つからない。強いて挙げるなら少し恥ずかしくて顔が赤いかもしれないというだけだ。
シーン…………。
あれ?何この静寂。なんかこう…リアクションなし?
なぜだか怖くて二人の顔が見れない。
これはもしかして…滑った?
もしかしてこのコメディーという世界で禁忌を犯してしまった!?
や、こっちの話。
恐る恐る2人の顔を見ていると、顔を俯かせて赤くさせていた。
なぜ?
まぁ、滑るというこのコメディーの世界ではやってはいけないことはしていないみたいなので、一安心だ。
や、こっちの話。
「…テニス、教えてさしあげます。今日は準備していないので、明日からということで」
顔を俯かせてすみれさんが言った。
「本当か?ありがとう」
「私は厳しいですよ?覚悟しておいて下さい」
「……了解」
何はともあれ、これから一週間のテニスのトレーニングが始まった。
打倒、彼方!
閲覧ありがとうございます。
前に比べて更新が遅れ気味です。
すみません。