6 絵画は語る
16
今回の依頼に俺が興味を示したものは実は無かった。
桜川優姫がとても悲しそうに言うのがいけない。
俺は片瀬山駅に着くとタクシーを拾い鎌倉駅前まで送迎してもらう。
乗り換えが面倒で仕方がない。
こう堕落してしまうと中々抜け出せないのが怠惰の厄介なところだろう。
そう理解しつつも次からなどと先送りにしてしまうのは、成る程さすが大罪に数えられるだけはあると納得する。
折角の会社から頂戴した夏休みを謎解きで終わらせるのも嫌であったが、かといって穂花で珈琲を飲み煙草を飲み文庫本を消費するのは非生産的だと思ってしまう。
いや、思わされてしまったのかもしれない。
俺もアイツとの付き合いは長い、さすがに助けてくれというSOSのシグナルを確報か誤報かを読み違えるほど浅くはない。
だから、俺が優姫の依頼を受けるのは仕方ないといえる。
そう心の奥で言い訳をするのは口に出したくないからだろう。
口にすると本物に変わる。
それが、本心であるなしに関わらず。
ぼんやりと考えていると鎌倉駅前西口側に到着する。
料金を支払い車を降りる。
穂花は閉店しているだろう。
俺は無性に珈琲が飲みたいのだった。
俺は駅に入り東口へ渡り、喫茶ルノアールに入店する。
スターバックスもあるが、煙草が吸えないので喫煙者には残念で忍びない。
俺は喫煙席に腰掛けアイスコーヒーを注文する。
配膳されたアイスコーヒーをストローで吸う。
美味いとは思うが、穂花の珈琲に比べ香りやコクが薄い気がした。
あそこの珈琲は魔性だから仕方ない。
俺はさっさと珈琲を飲み終え煙草を一本吸って退店する。
俺はニノ鳥居前の交差点を右折し鎌倉雪ノ下教会を横目に歩き住処のマンションであるハイツ小町に着く。
ちなみに実家は常栄寺と比企谷幼稚園の中間ぐらいにあり意外と近い。
俺は入口前で一度鍵を差し込み自動ドアを開ける。
エレベーターで八階まで行き「805」の数字が打ち込まれた扉に鍵を差し込み引く。
しかし、鍵が閉まっており開かない。
俺は溜息を吐くともう一度解錠作業をし引く。
入るとシャワーの音と微かに石鹸の香りがした。
姉貴だ・・・とすぐ理解する。
姉である寺岡さやかは週に三度程こちらに来る。
実家よりも駅に近いため泊まりに来る。
2LKの部屋なので、一つを貸し与えている。
リビングのダイニングテーブルの椅子に腰掛け煙草を吸う。
「孝助、帰ったのか?」と風呂場から声がする。
「あぁ」と力なく返事をする。
「相談に乗ったそうじゃないか」
何故、春奈といい詩穂といい知っているのだろうか。
恐らく三姉妹の次女あたりが言いふらしたのだろうと考え着く。
風呂場のドアの開閉の音がし、リビングへとさやかが入ってくる。
白地に水色の縦線が入ったノースリーブシャツに黒の短パンの姿で長い黒髪を団子状に後ろにまとめ風呂場から出てきた。
「先にシャワーを頂いたよ」と軽く微笑む。
その微笑みに対して初対面なら見惚れるだろう。二回目ならば威厳を感じるだろう。それ以上なら冷たく感じる・・・それが姉貴だ。
俺の二歳年上の二十六歳には見えない若々しさとすらりとした細身だが豊満なところは豊満である。
では、俺は姉貴にどのように見えるのかというと上官だ。
軍人のような冷静で落ち着いた声と命令権を誇るような口調と威圧感を持つ。
「孝助も浴びてくるといい、その間に夕飯作るから」
俺は頷くと煙草を灰皿で揉み消した後、自室に入り部屋着と下着を持って風呂場へ行く。
シャワーを浴び、リビングに行くとさやかがテーブルに夕食を広げていた。
姉貴は、心理学部の助教授である多忙の身であるが家庭的であった。
旦那になる人が可哀想に思う。
収入で負け家事で負け、存在の意義を問いたくなる。
それを俺は経験していた。
本日の献立は冷しゃぶ、玉子焼き、ポテトサラダ、茄子と西瓜の糠漬け、のり汁だった。
「さぁ、食べよう」と言ってさやかは席に着く。
俺は向かいに座り手を合わせ「頂きます」と言う。
「どうぞ」とさやかが応えたのを聞き俺は箸を持つ。
のり汁を啜ると、生海苔の爽やかな磯の香りと甘みが口に広がる。
「その生海苔はね由比ヶ浜の叔母さんがくれたのよ」
同じくのり汁を啜りさやかが言う。
確かに美味い。
冷しゃぶに胡麻だれがかかっているが、白胡麻の擦った粉末がかけられ胡麻の香りが際立っている。
ポテトサラダは、昨日姉貴が仕込んでいたのを知っていた。
甘みのあるジャガイモとキュウリ、ハム、コーンがありとても美味い。
何でも冷蔵庫にジャガイモも保存すると甘みが出るそうだ。
玉子焼きは出汁巻きでふわっとしていて大根おろしととても合う。
茄子と西瓜は実家の菜園から貰い、西瓜の白い部分を残すように切り取り赤い実はデザートで食べ残りを糠漬けにしたものだ。
茄子は漬けていても皮に張りがあり糠の塩気と茄子の甘みが充分に感じられる。
西瓜はさすがの瓜科だと感じるほど爽やかで糠の塩気がいい具合に口に広がった。
食事を終え、さやかと食後のお茶を飲んでいるとさやかが口を開く。
「どういった相談なんだい」とお茶を啜り姉貴が言う。
「別に・・・」
「孝助の推理力を甘く見ているわけではない。私の興味本位で聞いただけだ」
「七里ヶ浜学院の幽霊の話だよ」
「君はいつから霊媒師に転職したんだ?」
「していない」と若干苛ついて応えた。
「なるほど、大体察したよ。新しい謎解きか・・・話してみろ。点数をつけてあげよう」
俺は溜息を吐くと鞄から写真やしおりを出し資料を見せながら相談のあった謎と自分の推理を話す。
それを聞いた後、姉貴は軽く微笑む。
「九十点だな」と言った。
低評価だった。
この人は百点以下は零点にする。
「孝助、もっと深く見るべきだ。本当の加害者と本当の被害者が誰だか気付いていない」
「本当の?」
「ヒントはここまでよ。君は相談を大切に扱うべきだ・・・だから見落とすし足りない。本当の加害者と被害者にそれぞれ減点五点だ。そこらの相談の回答は適当でいいだろう、本気で人生観まで変える応えなど君には求めないよ。けれど、謎解きの解答は別だ。人間関係の崩壊をさせてしまうのだから。それと、想像の中だけでも救わなければならない人を忘れては駄目よ。探偵君」
そう言うと、さやかは立ち上がる。
「おやすみ孝助」と言うと部屋に入って行く。
また、あの人は平気で人の思惑を握り潰す。
俺はどこかで適当になっていたのだ。
謎の話と俺の推理を聞いて、間違いを正すほど深く速く真実に辿り着いた姉貴。
俺は額に指を当てる。
姉貴は俺に喧嘩を売った。
なら、俺は真実を暴いてみせる。
考えろ・・・考えろ・・・
あの人は本物の加害者と被害者がいると言った。
それは、誰なんだ・・・
思考を止めるな、深く深く速く速く潜れ。
突き止めてやる真実を・・・
17
翌日の午後一時に穂花に来るよう優姫に連絡を入れた。
俺は昨日の晩、三時間かけ納得のいく解答を用意できた。
壁時計を見ると午前十一時を指していた。
出よう。
マンションを出て鎌倉駅から江ノ島電鉄で長谷駅に向かう。
穂花に入店し、いつもの席に向かう途中でカウンターに立つマスターにブレンドを頼む。
窓際の四番目の席の奥の通路側が俺の指定席だ。
珈琲が運ばれ一口啜る。
美味い。
文庫本を取り出し煙草を吸う。
ささやかな休憩を俺は取ることにした。
午後一時前に優姫と加奈子は到着した。
カフェオレを二人は注文し品が運ばれてから俺は口を開く。
相談の解答を始めよう。
「今回の依頼である野山由香里の怪我の事件を解く前に幾つかの事件がある」
「事件ですか?」と加奈子が言う。
俺は頷くと優姫が言う。
「幾つかというと複数あるということですよね」
「あぁ、全部で四つだ。野山由香里は第四の事件になる」
四つの言葉に二人は反応する。
「これを解くことで野山由香里の隠し事も怪我も全部説明がつく」
俺は依頼人の加奈子の顔を見る。
「聞くか?」と決断を求めると加奈子は小さく頷く。
「お願いします」と言った。
「では、始めよう」俺は珈琲を一口啜り気合いを入れる。
「まず、第一の事件。美術室にでた男子生徒の幽霊についてだ・・・これは、幽霊ではないが男子生徒がいたのは本当だろう」
「実在する人物なんですか?」と優姫が言う。
「勿論だ。ただ、場所は美術室でなく隣の美術準備室だろう」
「でも、何のために準備室にいたんですか?」と加奈子が言う。
「まぁ、順を追って説明しよう。男子生徒を男子Aとしよう。Aはある目的で準備室にいた。そして、外を見たんだ」
「何のためにですか?」と加奈子が言う。
「美術準備室は二棟の三階にある。そして外から見えるのは正門だ。つまり、人の出入りを確認したかったんだよ」
「確認ですか?」と優姫が言う
「そう邪魔が入らないようにな」
「どういう事でしょう」と優姫が首を傾げる。
「男子Aは、そこで人と待ち合わせしていたんだ。だから、人の出入りを確認するために外を見た。そこを見られたんだろう」
「待ち合わせしていた人って・・・」と加奈子の言葉を遮り言う。
「それは、徳山美津子だ」
「えっと・・・何のために待ち合わせを?」
優姫はまだわからないらしい。
「夜の校舎、男子生徒、女教師でわかるだろ?」
優姫は首を傾げるが加奈子はわかったのか、はっとする。
「逢引だよ」と俺は言った。
優姫は目を見開き両手で口元を隠す。
「徳山美津子は男子Aと恋仲だったのだろう。しかし、外で会うわけにもいかない。見つかるリスクが高いからな。だから、夜の校舎で会うことになったんだ」
「待って下さいっ」と加奈子が言う「徳山先生は高山先生とお付き合いされていたはずです」
興奮気味に加奈子は言った。
俺は小さく息を吐き言う。
「それが第二の事件になるんだ」
「高山先生とお付き合いするのが、第二の事件なんですか?」加奈子は言った。
「俺は、徳山美津子と高山は付き合っていないと思う」
俺は鞄から絵の写真を取り出しテーブルに置く。
「これが証拠だ」と言って写真を指さす。
「この絵の犬。これが高山なんだ」
「犬が・・・高山先生」と加奈子は呟いた。
「この絵を分解するとわかる。本を持つ女性は徳山美津子だろう。そして、犬が高山だ。理由は犬の絵にある」
犬の絵は白い大型犬が女性に襲いかかっているシーンだ。涎を垂らしXと=の首輪と∞の鎖が後ろの校舎に繋がれ胴体には14 20 18の数字が書かれている。
「まず、数字の意味は二つある。一つは後で話すが数字を扱う者だ。そしてXと=の首輪は『X=』という意味になる。そして、鎖は∞の数学で極限を用いる時に使用する。そして鎖は校舎に繋がっている」
俺は一呼吸置いて言う。
「要約すると校舎で『X=』と数字を扱い極限を使用する科目は数学しかない」
「でも、高山先生が恋人でない証拠にはならないです」と加奈子が言う。
「それが、数字のもう一つの意味になる。俺が注目したのは女性の持つ本だ。Englishとpictureと二冊とも英語なんだ。最初は14 20 18を英語にしたが意味不明だ。だがアルファベットにすると意味がある」
「アルファベットですか?」と優姫が言う。
「アルファベットの14 20 18番目のアルファベットなんだ?」
優姫は指折で数えて言う。
「えっと・・・Nと・・・T・・・Rですね」
「NTR」と加奈子は呟いて目を見開いた。
「何ですか?それ」と優姫は言う。
「NTR・・・寝取られたという意味だ」
そう言うと優姫も驚いた顔をする。
「高山は徳山美津子が男子Aと付き合っていることを知った。現場を目撃したかカマをかけて暴露させたかして、そして黙る代わりに肉体関係を迫った」
二人は沈黙して俺の話を聞いている。
「徳山美津子は恥辱を受けた。だが、不幸は続く野山由香里が接触してきたんだ。恐らく男子Aとの関係を目撃しているとでも言ったのだろう。徳山美津子は罪悪感と屈辱感で押し潰されそうになった。そして・・・退職を決意したんだ。だが、何とかして自分に起きている事を誰かに伝えたかった。高山や野山由香里に復讐しようと考えた。言葉で伝えるわけにもいかない。自分が学校を去ってから誰かに解いてもらいたいと思い絵を描いた」
俺は絵の写真を指さして言う。
「この絵は、そういう意味で描かれたものだった」
二人は泣きそうな顔をして黙っている。
「そして、第三の事件だ。これは、野山由香里が徳山美津子が高山に襲われた事を知っていたのだろう。もしかしたら、徳山美津子に暴露した音声を録音させたのかもしれない。実際は、不明だが何か証拠を持っていたのは事実だろう」
「どうして・・・そう思うのですか?」と加奈子は言う。
「野山由香里の金銭面についてだ。ブランドバックを複数しかも本物を所持できるほどの大金をどこから得たか、バイトもできず宝くじでもないとすると・・・・恐喝だ」
「脅したってことですか?」
「そうなる。野山由香里は幽霊の噂の事実も知っていた・・・前に言っていただろう。噂が流れた時に徳山美津子は夜の美術室には近づかない方がいいって・・・これは認めているも同じなんだ。徳山美津子は噂を聞いた誰が流したかも知ったのだろう。だから野山由香里には、すんなり喋ったのだろう」
俺は、珈琲を一口啜る。
「そして、高山にも同じようにした。あんたがやった事を黙る代わりに金を寄越せと言う風にね。そして、お金の受け渡し場所が空き教室だったんだ。」
俺は加奈子を見る。
「優姫に頼んで一度、空き教室を調べてもらった常に空き教室はカーテンが閉まっているそうだ。野山由香里は建前として風景写真を撮るためにと受け渡し場所を確保した。しかしカーテンを開けたことはなかった。だから外の景色を見たことがないと思う。何故なら目撃されたくないからだ。けれど電車の音は聞こえたのだろう江ノ島電鉄が走っているのはわかるからな。それに七里ヶ浜学院は海岸沿いにある。だから、野山由香里は江ノ島電鉄と海を撮っていたと言ったんだ」
「それで・・・」と加奈子は呟いた。
「そして、第四の事件が起きる。野山由香里はブランドバックを複数所持していた。他にも香水やら財布やらも買ったのだろう、物凄い大金だ。普通はそれに耐えられるかと言われると俺は無理だ。恐らく高山もそうだったのだろう、簡単に脅して証拠を奪おうと画策するが、誤って怪我をさせてしまった。運良く野山由香里は軽症だったが高山にしてみれば新しい恐喝材料が増えてしまう。これは、想像でしかないが高山は退職すると思う」
俺は柏手を打って言う。
「これが、俺の解答だ」
18
加奈子は、一度整理したいと言って帰宅した。
どのように解決するのかは彼女次第だ。
任せよう・・・。
俺は珈琲をお代わりし煙草を吸う。
向かいには、普段通りに復活している優姫がカフェオレを飲んでいる。
「孝助さん」と優姫が呼ぶ。
「いつ、男子Aさんと徳山先生が恋仲だと気付いたのですか?」
「まぁ、状況もあるが・・・確信したのは絵を見てだな」
「絵・・・ですか?」
「絵の女性の後ろには泣く月だ。高山が犬なら月は男子Aになる。つまり、男子Aに酷い結果にさせてしまった贖罪で月を泣かせたんだろう」
「本当に好きだったのでしょうか・・・男子Aさんも徳山美津子もお互いの事を」
優姫は俯きながら言った。
「愛し合っていただろうな」
即答すると、優姫が顔を上げる。
「わかるのですか?」
「絵の女性は三日月のペンダントをしているだろ?三日月が男子Aなら私は貴方を想い犬に抱かれますって伝えたかったんじゃないのか?」
「そうだったんですね」
「まぁ、絵画は語るってやつだな」
「ですが・・・男子Aさんは徳山先生を愛していたとは言えないのでは?」
「男子Aの正体なら解るさ」
「誰ですかっ?」と優姫は食い気味に言う。
「野山由香里の兄だよ」
「でも、お兄さんは大阪にいるのでは?」
「いや・・・大阪にはいないだろうな」
不意に昨日の姉貴との会話を思い出す。
『想像の中だけでも救われなければならない人を忘れては駄目よ』
「優姫、シカのある大学は何を想像する?」
「医学部の歯科ですかね」
「なら、動物の鹿なら?」
「奈良・・・でしょうか?」
「もっと夢ある解答があるだろう」
「夢ある解答・・・ですか?」
「徳山美津子は、どこ出身だ?」
「確か・・・九州だったと・・・あっ」と優姫は何かに気付く。
「九州に鹿のある大学があるだろ?」
「鹿児島大学ですね」
「大正解だ」
男子Aの野山兄は鹿のある鹿児島大学に行ったと思う。
実際に行ったのか断言できないが・・・
「会えていると良いですね」と優姫が言う。
「先生と生徒だ。応援したら不味いのではないかい?」
「在学中は褒められることではありませんし、別れるように進言します」
「だよな」と笑って言う。
だから『禁断の恋』なのだろう。
「ですが」と優姫は続ける「今は元教師と元生徒。一人は一般人、一人は大学生です。応援しても罰は当たりません」
「罰ねぇ」
『あやまち』という題の絵画は、月も女性も犬も太陽も『過ち』を犯していたと言いたかったのだろうな。
「孝助さんも、そう思いませんか?」
「応援についてか?」
「はい」と笑顔で言う。
「まぁ、想像の中だしな・・・会えてる事を祈るよ」
俺は照れ臭くなり煙草を加え窓からの景色を見る。
「ふふっ」と優姫が小さく笑う。
俺が本当は心から祈っていたことを見透かしたかのように。
俺は少し顔が熱くなるのを感じていた。
窓からの景色は、暑さを表すように陽炎が見えていた。
夏の鎌倉を舞台に…
まだ稚拙な部分もあるなと思いつつ書き上げました。
誤字や脱字もあるかもしれませんし、可笑しな言い回しも多いと思います。
できれば、その度に手直しはしたいと思います。
喫茶店相談所の第一弾は如何でしたでしょうか?
本来は全て孝助の視点で書く予定でしたが、孝助を別の視点から見てみたいと思い書きました。
もし、絵画は語るを全て孝助の視点で書いてあるのをお読みしたい方は、仰って頂ければ書きたいと思います。手間ではありませんので
今回、読んで頂いた方々は地の文に違和感を持った方もいらっしゃるのでは?と思います。
これは、優姫の時は丁寧で加奈子の時は冷たいのか。
それは加奈子が孝助を舐めている事を伝えたかったのです。
人に舐めてかかる人は内心で毒付く人もいるでしょうが無自覚の方が多いです。
つまり、無自覚さを伝えたく敢えて毒付かせる事なく書き上げることにしました。
そして、本当の被害者と加害者についてですがこれは敢えて作中に出さず読者の方々に推理して頂こうと思いました。
ヒントは実は出ています。ほぼ答えに近いですが孝助の独白にあります。
最後にもう一つ、寺岡孝助というキャラクターについてです。
寺岡孝助は家庭教師で夏休みのため喫茶店穂花に居続ける変な人です。
最初は、絵画は語る事件はシリーズでも最後の方に出そうと思っていました。
(実はシリーズは10個ほど物語はできています)
キャラクターを作るにあたって必要なのが物語です。
探偵を出すのは王道ですし、刑事を出すのは正道でしょう。
しかし、実際に刑事を出すと安心感が生まれます。
それは絶対に事件が解決するということです。
犯人も捕まり万々歳というのは物語的に謎らしく見えない気がしていました。
そして、探偵はというと王道すぎてつまらなくなると思いました。
探偵が出て現場にしゃしゃり出る。
実際にあるかと言われるとないでしょう。
私は、実際に起こりうる事件を書きたかったので。
すると、浮かび上がったのが誰かに相談し依頼人が解決をするという構図でした。
そうなると、死人を出すわけにはいきません。
そして、その解答者は一般人の方がいいと思い付きました。
けれど、ただの一般人を出しても意味がありません。
魅力は力無き者が力を発揮することで魅力を感じると私は思いました。
それなら、彼の周りには一般から懸け離れた人達を配置して寺岡孝助の平凡さを出したいと思いました。
そして、事件の解決法は相談というスタンスを取り事件の全容を明らかにするまでが孝助の役割にし、犯人の逮捕や説得、復讐は依頼人に丸投げすることにしました。
それが、相談というワードを使った意味です。
そして、人を殺さない物語でも人を殺す物語の共通点を作ることでミステリーとしての配置をしました。
すぐにわかると思いますが『隠し事』が共通です。
殺人犯は被害者との関係を、窃盗犯なら店との関係を隠して逃げ果せようとするのでしょう。
喫茶店相談所の場合は、人の心を隠します。
真意や本心、事実と真実を隠すことで人の謎を集めて固めて事件の謎に致しました。
それと、メモ帳片手に鎌倉を歩く人がいたら恐らく私です。
鎌倉の書きたい風景があるときは休みに歩き回ったりもしています。
少々長くなりましたが、絵画は語るは終了です。
ありがとうございました。
次回はシリーズの第2弾『透明の色付け』をお送りします。