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5 恋人

13

翌日、私と優姫は七里ヶ浜学院に来ていた。

優姫も絵が気になるそうだ。

夏休みで補習でもないのに制服を着るのは少し恥ずかしさを覚える。

他の人の視線を気にしすぎているのかもしれない。

しかし、隣には成績優秀の優姫がいる。

優姫はお姉さんの舞美さん同様優秀な生徒だ。

一緒に歩いていれば、学校の用事だと周りも思ってくれるだろう。

ちなみに去年は補習だったので、そう考えてしまうのも仕方ないと思う。

進学校の宿命でもあるのだろう。

一度、職員室に寄り鍵を受け取る交渉をするが優姫が言うとすんなり鍵を貸し出してくれた。

格差社会でしょうか・・・と独りごちる。

私と優姫は美術室に入ると四方の壁に飾ってある複数の絵画を眺める。

目的の物はすぐに見つかった。

優姫は美術室に入るのが初めてらしく壁の絵画を一枚一枚眺めている。

優姫は絵から目を話し私に向き直り言う。

「ここに本当に幽霊なんて出るのでしょうか?」

「どうだろうね」と私は笑う。

わからない・・・が私の答えだからだ。

「幽霊は犯人なのか、目撃者なのか微妙だよ」と私は呟く。

「孝助さんの昨日の言葉を覚えていますか?」

「絵を撮影しろってやつでしょ」

「いえ」と優姫は目を伏せ「由香里さんが復讐をしたと言ったことです」

「あれは私を慰めるためでしょ」

さすがに私もわかる。

あの場で、辛辣な言葉をかけるほど性格が悪い人には見えなかったからだ。

「それもあると思いますけど、恐らくは何か分かったのかもしれません」

「そっか・・・」と応えた。

私は目的の絵の前に立ち「これだよ」と言う

「これ・・・ですか」

優姫の声が少し落ちていた。

私もこれを見たときは変な気分になった。

怖いのか悲しいのか気味が悪いのか、よくわからないがマイナスの方面の感情を抱いたのを覚えている。

何度か授業で嫌でも目に入ってしまうため慣れているのではと思ったが、今見ても変な気分になる。

絵は油絵でルネサンス期に描かれたのヴィーナスの誕生やプリマーヴェラに似ている。

徳山先生の画力に驚かされたのは覚えていた。

絵の中身は、両手に一冊づつ本を持ち驚いた顔をしている大人の女性に鎖で繋がれ胴体に数字が描かれた白色の大型犬が舌と涎を出し飛びついている。

後ろには校舎が見え右側の空には不気味に笑う太陽と左の空には涙を流す三日月が描かれていた。

優姫はハンカチで口元を押さえ言う。

「題名は『あやまち』ですか」

「みたいだね」

私はカメラを構え遮光に気をつけながらシャッターを押す。

あとは帰りに写真部により現像するだけだった。


14

穂花の着き寺岡の向かいに座り私と優姫はアイスカフェオレをストローで飲んでいる。

昼食がまだだったのでマスターに優姫が頼みクラブハウスサンドイッチを作ってもらった。

女性のためか、他の店で見るより小さく切られており一口サイズになっていた。

具はレタス、トマト、キュウリ、ローストビーフ、ベーコン、スクランブルエッグ、チーズであり、マヨネーズとマスタードで味付けされていた。

トマトは肉厚で口の中に程よい甘みと酸味を広げキュウリは薄く切られているのに食感でわかるほど固くしっかりしている。

優姫が言うには、キュウリとトマトは店の裏で有機栽培されているものらしい。

レタスは冷水でさらしたのかシャキシャキしており少し厚めに切られたジューシーなローストビーフの脂を和らげてくれる。

カリカリに焼かれたベーコンはとろけたチーズと合わさりマスタードの辛味とマッチしている。

マヨネーズとケチャップはスクランブルエッグと合わさりオーロラソースのように程よい甘みを広げてくれた。

私が食べていると、二人の視線を感じた。

「みんな、美味そうに食うよなソレ」と寺岡が言う。

「美味しいですよ」と優姫がプラスチックの楊枝で刺されたサンドイッチを差し出す。

寺岡は手を振りいらないと言う。

「美味しいですのに」と優姫は少し拗ねるように言った。

珍しい鎌倉市の優しき美姫が拗ねるのを見れるのは一生に一度だろうと思いながらサンドイッチを食べる。

ふとカウンターを見ると無愛想なマスターが笑顔だったので「美味しいです」と言うと。

丁寧に会釈を返してくれた。

こんな素晴らしいサンドイッチは初めてだった。

女性用に一口サイズに切り分けてくれる気配りもあるがマヨネーズやマスタードは市販のものではない気がした。

寺岡は絵の写真を見ながら言う。

「マスターは以前は桜川家の専属料理人だったんだよ」

「専属料理人ですかっ」と私は驚いて隣の優姫を見ると恥ずかしそうに俯いた。

「えぇ、独立してこの店を経営されてます」

「ちなみに、ローストビーフ、マスタード、ケチャップ、マヨネーズはマスターの手造りだ」

「すごい・・・」

私は感嘆とするしかなかった。

サンドイッチを食べ終えた私達は、マスターが新しいカフェオレを配膳し空き皿を回収し下がったのを見送り寺岡が話し始める。

「この絵だが、題名はあるのか?」

その質問に優姫が応える。

「『あやまち』と平仮名で書かれてました。」

「『あやまち』か・・・」と寺岡は額を指で押し始める。

「一つ一つ分解しよう」と寺岡が言う。

「あの」と私は寺岡に言う「この絵は意味があるのですか?」

「多分だが、事件に関係していると思う」

寺岡は即答する。

私は頷くとそれを見て「では、始めよう」と言った。

「まずは、女性だ」と写真の女性の絵を指す。

「この女性は左手に「English」と書かれた本を持ち、右手には「picture」と書かれた本を持っている。」と寺岡が言う。

続けて優姫が「首から三日月のペンダントを下げてますね」と言った。

寺岡は他の意見を待ったが誰も答えないのを見て指を右に移動する。

「次は犬だ」と写真の犬を指す。

「白色の大型犬でテリアに似てるな」と寺岡が言う。

「数字も気になりますよね。えっと・・・「14」「20」「18」と描かれてますね」

も優姫が言う。

「何だか気味が悪いですね、涎を垂らして目も気持ち悪いです」と私が言う。

「鎖は∞(無限)で描かれているな、それで太陽の昼間の校舎に繋がっている」と寺岡が言う。

「首輪も変ですね、バツ印と=の二本線が繋がって出来てますね」と私が言う。

「次は背景だ」と寺岡は言う。

「背景は右側に太陽の昼間と左側に月の夜が描かれてるな」と言った。

「昼間と夜の両方に校舎が描かれてますね」

「空には不気味に笑う太陽と涙を流す三日月ですね」と意見が出た。

「何か気づいたことはあるか?」と寺岡が言う。

「不気味な絵とは思います」と優姫が目を細めて言う。

「徳山先生は何が言いたかったんですかね」

ふと何か思いついたのか寺岡が言う。

「そういえば、徳山先生に恋人はいたのか?」

優姫は首を傾げる。

私は思い当たる事があり言う。

「徳山先生は高山先生とお付き合いしていたみたいですよ」

「誰だタカヤマって・・・」

「確か・・・二年生の数学を担当されていた方ですよね?」と優姫が言う。

「そうだね」と応え恋バナが好きな私は言う「徳山先生が美術の先生なのに幽霊の噂で疑われなかったのは高山先生が恋人だったからだし」

そう言うと寺岡は目を細めて言う。

「徳山先生は疑われるような事を言ったのか?」

「疑われる訳ではないですけど、幽霊の噂が出てから写真部の部員にも美術の生徒の私達にも危険だから近づかない方がいいって言ったんですよ」

「それで、どうなったんだ?」

「徳山先生には高山先生がいるから満足しているはずだって話になって終わりましたよ」

私も下世話な話をするようになったなぁと思いつつ言った。

「なるほど・・・」と少し考えて続ける「学校からしおりのようなのを配られてないか?先生の紹介とか転入や転出する先生が載るやつ」

「私持ってますよ。全部ファイリングしてあるんです」と優姫が小さく挙手をして応えた。

「それを借りたい、できれば去年の二学期の終わりか三学期の始まりのやつだ」

「わかりました」と優姫は笑顔で頷いた。

「あと、今年の卒業生で知り合いとかいるか?遠くに行った卒業生なんだが」と寺岡が言う。

優姫は首を横に振る。

最近、優姫のその仕草が可愛く見えてきた。

「由香里のお兄さんが遠くの大学に行きましたね」

「遠くの大学?」と寺岡が訊き返す。

「確か・・・シカのある大学って言ってました」

「医学部の有名なところですか?」と優姫が言う。

「私もよく知らないんだよね」と笑う「由香里の親戚が大阪にいるから多分そこに行ったと思うって言ってましたよ」

「それって・・・ご家族の方は知らないのですか居場所を?」

「家出も同然で飛び出したみたいだよ、いつの間にか電話番号も変わってアドレスも変わってたみたい。でも、大阪の親戚の人がこっちに来てるとは言ってたみたいだよ」

「何があったんですかね?」と優姫が悲しそうな顔をする。

「疑われたんだよ」と寺岡が言う。

「疑われた?」と私は訊き返す。

「幽霊にだよ、美術室に忍び込んだかして疑われたんだ。だから、地元でなく遠くの大学に行ったんだ」

「だから、遠くの大学に行った卒業生って言ったんですね」

「あぁ」と頷くと、寺岡は立ち上がり言う

「一旦、考えをまとめたい。俺の方から優姫に連絡するから待っててくれ」

「はい」

私達も立ち上がり寺岡が会計を済ませ退店する。

長谷駅で私達は別れることになり、寺岡は去り際にぽそりと私に言い優姫と共に歩いていく。

優姫は嬉しそうに寺岡の隣を歩いていた。

帰りに寺岡が優姫の家に寄るようだ。

私は寺岡の言った一言が気になった。

『悪いな・・・』

あれは何に対してなのだろうか・・・


15

私は孝助さんと伴って自宅へと帰宅している。

長谷駅から江ノ島まで江ノ電で行き湘南江の島で湘南モノレールで片瀬山で降りる。

私の家は、徒歩8分程で到着する。

孝助さんが久しぶりに我が家にお邪魔する事になった。

家の四脚門の前に着くと門を見上げて孝助さんが言う。

「いつ見てもでかい屋敷だな」

「そんなことないですよ」

「それ絶対に俺の親父の前で言うなよ」

孝助さんは、少し悲しそうに言いました。

「はい」と私は素直に返事をする。

門をくぐった所でふと思い出して言う。

「でも、この間にサヤカさんが来て同じこと申しましたら笑って『お父さんに聞かせてあげたい』と仰っていましたよ?」

「姉貴が?」

孝助さんは嫌な顔をする。

孝助さんのお姉様の寺岡さやかさんは素晴らしいお方で、頭も良く運動もでき空手の有段者でスタイルも良く今は横浜の大学で心理学の助教授をしている。

孝助さんは、絶対に敵わない相手だと仰ってました。

確か、コノミさんも似たような事を仰っていたような気がします。

池を架ける橋を渡り数分歩くと本邸が見えてきました。

私は横開きの玄関扉を開けると、ちょうど舞美姉さんとハルナさんとシホさんが玄関の近くで立ち話をされていました。

「お帰りなさい、優姫」と舞美姉は笑顔で言います。

そして、後ろにいる孝助さんを見て目を見開きます。

「孝さんっ、お久しぶりです」と抱きつかんばかりに駆け寄ります。

「よう、県内模試でまた一位だってな」

と言って頭を撫でてます。

「舞美は優秀だし、私が担当の家庭教師だもの当然よ」とハルナさんが言います。

「春奈、今日は舞美の日か?」

「えぇ、また孝助は相談に乗ってるそうじゃない」と呆れた顔で春奈さんは言います。

「なんで知ってる」

「花奏ちゃんだよ、孝助君」とシホさんが微笑んで言う。

「詩穂はなんで居る?」

「実はね、明日から私が三人の理系科目の担当になったからご挨拶かな」

「マジか・・・」

「あら、お鉢が回ってくると思ってた?」

「少し期待してた」

「会社が違うんだから無理よ。転職しなければよかったのに」と春奈さんが言います。

「しょうがないよ、春奈もあの時は孝助君の決断で助けられたの知ってるよね?」

「わかっているけど・・・さ」

昔、三人の間に何があったのか気になりますが前に大人の事情だと孝助さんに詮索を禁じられたので黙ることにします。

栗色の長髪をポニーテールにした背が高くスタイルのいい美人は川島春奈さん。

白いワイシャツの上から薄い黄色のカーディガンを羽織り黒地に赤と白のチェックのはいった膝上までのスカートと黒のニーソックスを穿いている。

そして、ショートボブの黒髪の前髪をヘアピンで左に流し童顔に眼鏡をかけた背は私と同じ位の美人は朝比奈詩穂さん。

白のワイシャツにグレーのカーディガンを羽織り紺色の膝下までのスカートを穿いて紺色のソックスを穿いている。

春奈さんと詩穂さんは孝助さんの小学生からの幼馴染みで七里ヶ浜付属学院のOBでもある。

大学に入ってからは、孝助さんだけ学科が違うため同じ家庭教師の派遣会社に勤めるまでは長期休暇以外は会えなかったと聞いている。

そして、春奈さんと詩穂さんは喫茶店相談所のメンバーでもあります。

春奈さんと詩穂さんは帰るらしくヒールの低い靴を履くと2人は「またね」と言うと出て行った。

孝助さんは私に顔を向けて言う。

「しおりを貰ってもいいか?」

私は「はい」と頷くと舞美姉と一緒に自室に向かいます。

居間で舞美姉と別れ自室に入り本棚の一番下から『学校』とシールの貼ってあるファイルを取り出し去年のページを開くと二学期終業式と三学期始業式とシールの付箋を貼ってあるしおりを抜き取り中を見分します。

徳山美津子先生と高山先生の紹介が書かれており顔写真が載っているのは二学期終業式のしおりだったので、それを持って孝助さんに渡します。

孝助さんは「またな」と言って出て行きました。

そうです。今は加奈子さんの相談が最優先でした。

でも、少し寂しくなったのは私だけの秘密にするつもりです。


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