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4 女教師

私は加奈子さんと長谷駅で別れてから穂花に戻ることにした。

どうしても、先ほどのやり取りが気になったからでした。

穂花に入店すると孝助さんと目が合いテーブルに近づく。

「帰らなかったのか?」

「はい」と応え向かいに座る「気になることがありまして」

「何だ?」

「孝助さん、七里ヶ浜学院の卒業生ですよね?なのに何で調べるように言ったのですか?」

「俺の知ってる空き教室とは限らないからな、それに中等校舎なんて10年前だとっくの昔に忘れたよ」

「そうですよね」と私は苦笑する。

「まぁいい」と言い煙草に火をつける「ちょうど訊きたいこともあったし」

「何でしょう?」

「幽霊の噂っていつからあったんだ?俺の時には高等部の時を含めてもなかったぞ」

「噂が出たのは、去年の九月頃だったと思います」

「約一年前か・・・どんな内容なんだ?」

「そうですね、私の聞いた話ですと美術室の男子生徒の幽霊ですね。」私は咳払いをする

「とある女子生徒と友達が遅くまで部活の自主練習をしていて夜になってしまったそうです。慌てて帰ったのですが駅に着く前に宿題のプリントを忘れた事に気づいて急いで学校に戻りました。そして、どこからか視線を感じるので、ふと校舎を見上げると二棟の二階の美術室あたりの薄暗い教室の窓から此方をじっと見つめる男子生徒がいたそうです。女子生徒達は怖くなって逃げるように帰った・・・というお話です」

「優姫は誰から聞いたんだ?」

「私は由香里さんから伺いました」

「野山由香里からか・・・」

そう呟くと、孝助さんは紫煙を燻らせながら考える姿勢をとる。

何が気になっているのかは、私には想像できませんでした。

「それと、噂が出始めた後に何か変わったことはなかったか?」

「変わったことですか?」

「例えば誰かが虐められたとか、付き合い始めたとか」

私は指を顎に当てて考える仕草をし、変わった事で思い出した事を話しました。

「虐めとかではないのですが、先生が一人退職するのはありましたね」

「定年退職は変わった事ではないだろう」

「いえ、まだお若い方でした。多分二十代後半の方でした」

「異動でなく?」

「はい、確か去年の二学期の終業式でお別れの挨拶をされてましたから、地元の九州に戻りますと言ってたような気がします」

「どんな人だ?」

私は顎に指を当てて言う。

「確か美術を担当している先生だったと思います」

「美術だと?」と孝助は前のめりに訊ねてくる。

「はい、私は選択の芸術科目は音楽なので詳しくはわかりませんが・・・加奈子さんは美術を選択していたはずです」

「そうか・・・他には?」

「あまり、覚えていないですね」

私は噂話の類は嫌いなので、殆ど聞き流しているため覚えていないではなく知りたくないが正解の気がした。

噂話といえば軟らかいニュアンスにはなるけれど陰口には変わりないのですから。

実在するしないの問題ではなく、人を悪く云うのは好きでなかったのです。

「そうか」と孝助は応え珈琲を飲む「ちなみに女の先生か?」

「はい、女性の方ですね」

「そうか」とまた応え黙ってしまう。

孝助は、先ほどから指を額に当てぐりぐりと押している。これは孝助の考えている時の癖であった特に推理している時にしている。

「私も帰りますね」と言うと孝助さんは顔を上げる。

「わかった、気をつけて帰れよ」

「はい、また明日」

私は、そう言って席を立ち玄関に出入口に向かう。

マスターに「ご馳走様でした」と言うと、会釈・・・角度からして敬礼だろうをしてくれた。

私は外に出て長谷駅に向かって歩き出した。


10

夜、私は自室である和室で座布団に正座し暇なので花を生ける事にしました。

夏椿と桔梗、利休草、リンドウを使って漆の花器に剣山を置き生けていく。

趣味というほどではないが、作法として宗徧流茶法や小原流華道、若柳流日本舞踊などを習っている。

姉達は、小学生の時は習っていたが中学に上がるとパタリと辞めた。

長女の姉は勉学に励むために、次女の姉は武道に励むために。

恐らく、合わなかったのが原因なのだと姉達は云うが違うと私は思う。

私は姉達は他の事に「努力を応用」したのだ。

長女の舞美は励む姿勢と達成感を学び勉学へ応用した。

次女の花奏は耐え抜く心構えと優越感を学び武術へ応用したのだ。

私こと優姫は作法と雅に共感したのだろう、中学に上がり日数は減ったものの続けている。

だからだろうか、私は桜川家の末子でありながら顔役を仰せつかっています。

姉達よりも身体が大きく、中学生にしては成長してしまっている身体の部位が年相応に見えず遠縁の親戚と会った時に私が長女だと勘違いされるのです。

それに、舞美は今や七里ヶ浜学院では知らぬ者がいないほど優秀で生徒会会長を務める人なので忙しい。

舞美本人も大学は法学部に入り弁護士になると言っている。

花奏の進路はわからないが、剣術で鍛えた身体と運動大好きな姉は体育会系の進路に進むだろうと推測する。

すると、私だ。

私は姉達のように飛び抜けてはいない。

どちらかと言えば中間なのだ。

勉学は舞美より悪く花奏より良い。

運動は花奏より悪く舞美より良い。

すると、私に誇れるものは努力をしたもの、作法だった。

御家が私を指名したのも容姿だけでなく、そこではないかと思う。

それに、私としても苦ではなく楽しいと感じていました。

人と接することやお持て成しをする事が楽しいと思えるのです。

なので、顔役をするのは嬉しい事ではありました。

簡単に言ってしまえば適材適所なのだろうと思います。

そう思うとバランスの取れた三姉妹だと思い軽く笑ってしまう。

気がつくと部屋に飾る盛花が完成していた。

漆の花器を掛け軸のある床に盛花を置く。

掛け軸は孝助が去年の誕生日会の時に贈り物でくれたのだが、あの人は私がどのように見えているのか理解できなかった。

中学二年生の乙女に対して掛け軸はないだろうと思っていたが、誕生日会に参加していたハルナさんやシホさんに怒られていたので良しとした。

そろそろ食事だろうと思い、居間に行こうと立ち上がるとスマートフォンのバイブが震えた。

液晶画面を見ると「田岡加奈子」の文字が見えるLINEメールだった。

私はスマートフォンを操作しLINEのアプリケーションを開くとメッセージに加奈子からの一文があった。

『明日、午後一時に穂花に行きます』と書かれていた。

私は加奈子さんとはLINEを交換してから最初だけしかやり取りをしておらず、話す事も沢山あったので、あとは電話で話す事になりました。

なので、久しぶりにLINEメールがきたのが不思議だったがメールで返信をすることにします。

『畏まりました。明日長谷駅に十二時半で如何ですか?』

と送ると既読が表示され『わかった』と返信が来ました。

ですが私は胸が騒ついたのを忘れられませんでした。



11

翌日の朝、胸騒ぎが治まらず早目に家を出て長谷駅に降り立つ。

手首に付けたブレスレット型の腕時計を見ると午前十一時半を過ぎた頃だった。

心を洗おうと、私は収玄寺に寄ることにしました。

日蓮宗ではありませんが、この寺の庭は大変風情があり真夏の昼時であるのだが吹き込む風は心地よく感じるので好きでした。

私は参拝を済ませ一度長谷駅に戻ると制服姿の加奈子さんを見つける。

腕時計を見ると、まだ十二時前だった。

「こんにちは、加奈子さん」と声をかけると加奈子は虚ろな目で私を見た。

「うん・・・こんにちは」

おかしいと私はすぐにわかった。

目が赤いのだ、泣き腫らしたように。

それも、つい先ほどのような気がする。

制服を着ていることから学校に行ったのだろうと思い当たり察します。

何か見つけたのだと。

そして、加奈子を裏切るようなことなのだと。

私は何も気が付いていない振りをして

「行きましょう」と言った。

そう言うと、加奈子さんはこくりと頷き後をついてきた。

穂花に到着し入店すると、孝助さんが注文したのであろうアイスコーヒーをテーブルに置き煙草を吸っていた。

私と目が合うとマスターにアイスコーヒーを追加で二つ頼み手招きする。

私は加奈子さんに席を譲り座るのを確認し腰を下ろす。

孝助さんの事なので直ぐにわかったのでしょう。

「江ノ電見えなかったのか?」と言います。

その言葉に俯いていた顔を上げ孝助さんを見つめる。

「俺も七里ヶ浜学院の出身だ。わかるよ君の顔を見れば」

「はい・・・」と鼻をすすり涙目になっている加奈子さんに私はハンカチを差し出す。

加奈子さんは「ありがと」と言いハンカチを受け取ると目を押さえた。

「これは、推理の途中なのだが」と前置きをして孝助さんが言う「由香里さんは、誰かの復讐のために空き教室に行ったのだと思う」

加奈子さんの肩の震えが少し弱くなった。

孝助さんはちらりと私を見る。

孝助さんが言いたいのは『復讐』のワードが私を怒らせないか気になったのでしょう。

私は復讐は嫌いです。

昔、何かがあったというわけではありません。

ただ、傷つけられたから傷つけるという行為が嫌いなのです。

ハムラビ法典は特にそうです。

ですが、孝助さんが加奈子さんを慰めるために言ったのだろうとは察しているので怒りましませんでした。

前に孝助さんは、復讐は悪い事でも良い事でもない悲しい事だと言いますが、屁理屈だと思いました。

加奈子さんは、落ち着いたのか顔を上げて言う。

「それでも、私は受け止めるべきなんです。由香里を知ろうとしてるのですから」

「いい心構えだ」と孝助さんは言う。

私も微笑んでいました。

加奈子さんは強くなる人だなと思いながら。


12

優姫と一緒に穂花に来て泣いた私は、落ち着いてから一応撮影したのを部室現像した写真を渡す。

「見事に写ってないな」と寺岡が言う。

私が撮影したのは『江ノ電と海』でなく『松の木と海』だった。

電車は通らなかったが、通ったとしても写らないだろうと経験でわかった。

寺岡は煙草を灰皿で消して「加奈子さんは、去年辞めた美術教師を知っているかい?」と言った。

「徳山美津子先生ですか?」

「トクヤマミツコ?」と寺岡は首を傾げる。

「私と由香里の美術の先生でした」

「なるほど」

「それと」と私は区切る言いづらいからだ「写真部の顧問でした」

「何だって」と寺岡は驚く。

そして「待て待て」と小さく呟いた。

「徳山先生は何か言っていなかったか?」

「何か・・・ですか?」

「辞める前に何か残しておきたい言葉とか」

私は腕を組んで考える・・・何かなかったか。

三分ほど考えると一つ思い出した一枚の絵の存在を。

思い出したと同時に「絵」と呟いた私に寺岡が言う。

「絵?」

「はい、徳山先生は絵を描いてました。今も美術室に飾ってあります。」

「どんな絵なんだ?」と私と優姫を見て寺岡が言う。

優姫は首を横に振る。確か選択科目は音楽だった。

「変な絵です」と私は応える。

「変な絵?」

「女の人とか犬とか描かれていました」

「それ、撮影してこれるかな?」

「はい大丈夫です」

そして、私の第二の調査が始まった。


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