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2 相談者

桜井家は鎌倉の花鳥風月四大名家と呼ばれる内の一つです。

私、桜井優姫は桜井家の末子ですが家の行事に1番多く出ています。

姉達に比べ、私が一番背が高く落ち着いた雰囲気のためだといいます。

つまり、年相応ではないようなのです。

私は、横開きの玄関戸を開けると長女の舞美が学院の制服姿で出迎えてくれました。

「優姫、お帰りなさい」

「マミ姉さん、ただいま帰りました」

「何処に行ってたの?」と不思議そうに尋ねる舞美姉さんに私は「穂花に行ってきました」と伝える。

「もしかして、コウさん?」と舞美は言う

孝さんとは、孝助さんを指す舞美姉さんの独自の呼び名です。

「はい、相談を受けたので孝助さんを紹介しようと思いまして」

「ふぅん」と手を腰に当て考える仕草をする舞美姉は、ふぅと溜息を吐く。

「まぁ、仕方ないか」と呟いた。

私達三姉妹は、私立の中高一貫校の私立七里ヶ浜付属学院に通っている。

偏差値も高い学校であり、鎌倉女子学院に並ぶ有名校である。

姉の舞美は、七里ヶ浜高等学校の二年生であり生徒会会長を務める秀才である。

常に学年一位を獲得しており、人望があり生徒や教師からの信頼も厚く、他校の教師や教育委員会の人とも交流がある。

ウェーブのかかった栗色の長髪と整った顔はやはり姉妹だと私は感じるが、残念な事に長女の舞美は三姉妹の中で一番背が低く、頭脳や思想は実年齢より高いが、身体の成長は小学校五年生から止まっている。

長女は一番年上であるが、見た目は末子なのであった。

仕方ないかという呟きは、恐らく会長に就任してから相談が減ったことを憂いていると察しました。

舞美姉は人望も厚いが見た目とは裏腹に高嶺の花ともいえる存在でした。

気さくで優しく皆の姉のように男女区別なく受け答えていたのですが、生徒会長に就任すると学校行事や部活、委員会を相手にするのが忙しいらしく一般生徒との関わりが減ってしまっていました。

また、高嶺の花の存在が更に生徒会長という役職と肩書きを持つ事により更に高く恐れ多く感じると同級生は語っていたのを思い出します。

舞美姉さんとしては、忙しくとも相談すれば乗ってくれるのですが名家の長女であり生徒会長ともなると恐縮してしまうのだろうと思います。

「そっか・・・どんな相談なの?」と舞美姉は私のスリッパを取り出して言う。

「ノヤマユカリさんについての相談です」と応える。

「野山由香里・・・」と呟いてから思い出したのか頷く「あの事件?」と言った。

「はい…相談者は野山さんのご友人で私の友人でもありますが」と応えた。

「どんな相談内容だったの?」

「それはまだ…明日です」と応える。

私は、靴を脱ぎスリッパを履くと奥から次女の花奏姉さんが袴姿で玄関にやってきました。

「お帰り優姫」といつもしているポニーテールを解き肩口まであるミディアムヘアを揺らしながら笑顔で出迎えてくれます。

恐らくは、稽古から帰ってきたばかりなのでしょう。

「ただいま帰りました。カナデ姉さん」と私も笑顔で応える。

桜井花奏は、私と同じくらいの身長であり厳密に言えば少し私が高いくらいです。

花奏姉は、三姉妹の中で一番の運動神経があり剣道幼い頃からしている。

運動部からの信頼もあり、よく試合の助っ人をしています。

また、剣道では全国大会で優勝を何度かしており叔父の拓いている剣道の道場「中西塾」のエースでもある。

舞美姉と同じく気さくで少し男勝りな性格であり男女共に人気があり成績は芳しくないようだがスポーツや武芸に長けているため保留とされています。

まだ、孝助が姉達の家庭教師であった頃に渋い顔をして花奏を叱っていたのを覚えています。

私は、姉達と共に居間へ移動しつつ相談の内容が気になっていた。


「幽霊にやられた」と病室のベッドで上半身を起こした友人の野山由香里は頭に包帯を巻き、御見舞に来た私にそう言った。

「幽霊」の単語で思い起こすのは、私の通う

七里ヶ浜付属学院の美術準備室に美術室に現れるという男子生徒の幽霊だった。

しかし、美術室の幽霊が空き教室にも現れたのだろうか・・・と不思議に思いつつも応えたくない事だと瞬時に気付く。

つまり、事故なのではないか・・・と

羞恥心は誰にでもあるもので、恥ずかしいものは過去であれ今であれ恥ずかしいものであり、それについては笑い話にできる人とできない人もいる。

自虐ネタを好む人ならいざ知らず、友人の由香里はその手の類ではない事を小学生から知っていた。

私は「そうなんだ・・・」と応えベッドの横にある椅子に腰を下ろす。

「痛む?」と少し声量を抑え訊ねると彼女は少しね…と言った。

「何で空き教室にいたの?」

私の一番の疑問であった。

「写真」と私から目を逸らして応える「写真を撮ってたのよ」

「写真?」

「そう写真」

「あそこから何か見えるの?」

由香里は顔を横に振り「海岸と江ノ電」と応えた。

「江ノ電?」

確かに江ノ電は校舎の目と鼻の先を通っている。

「江ノ島電鉄線よ。釣りバカとか有名じゃない」と横目で私を見ながら言う。

私は彼女が電車に興味がある事を知らなかったため驚きつつも疑惑が心の奥底で燻るのを感じていた。

「由香里が電車に興味があるの初めて知ったよ」

「鎌倉に住んでいるなら電車と江ノ電は別物よ。クッキーと鳩サブレが別物のようにね」

「そうかなぁ」と苦笑する「私の家だと大体御茶請けは鳩サブレだよ」

「鎌倉市民なら8割そうでしょ」と瞬時に応える由香里に私は引いていた。

彼女は鎌倉が好きなようだ。

「警察の人には正直に答えたよね?」

その言葉に由香里は目を細め私を睨みつける。

「どういう意味?」

「だって・・・」しどろもどろになり応える「幽霊にやられたなんて警察は信じないでしょ」

「なら不幸な事故よ」と言う

『なら』とはどういうことなのだろう…

「本当に事故なの?」私は少し前のめりになる「何か言えないことあるの?脅されてるとか?」

そう言うと由香里は目を見開いたあと先程よりも強く私を睨め付ける。

「何でそんなこと言うのよっ」と由香里は怒鳴るように吼える。

何か怒らせるようなことを言ったのかわからず不安になる。

「加奈子、もう帰って信じてくれないなら・・・もういい」

そう言うと由香里は布団を頭まで被り身体ごと背ける。

「ごめん」と言い「でも心配なんだよ私」

由香里は何も応えない。

「幽霊が存在するとか存在しないとかは別として、納得できないよ」

そう言って立ち上がる。

私も、怒っていた。

本当の事を言わない友人に対して・・・

「また来るね」

そう言い残し病室を後にした。


私は、病院を出るとお昼時のせいか強い日差しと温度で汗が出た。

蝉の合唱と太陽の紫外線から逃れるように駐輪場の側の木陰に移動する。

学生鞄からスマートフォンを取り出し操作し耳に当てる。

数コールの内に相手が出た。

「はい、桜川です」と落ち着いた声が聞こえる。相手は友人の桜川優姫だ。

「私だよ加奈子」

「加奈子さん、いかがされました?」

「今から会える?」

私の質問に「少しお待ち下さい」と電話越しに物音が小さく聞こえる。

「はい、特に夜も予定はないので大丈夫ですよ」と聞こえた。

先程のは予定表でも確認していたのだろう。

「北鎌倉女子高の交差点の近くに喫茶店あるでしょ?」

「えぇ、何度か姉と行きましたね」

「そこに・・・」私は腕時計で時間を確認する「一時に来れる?」

少し沈黙の後に「大丈夫ですよ」と返答が来る時間を確認していたのだろう。

私は「後でね」と言い電話を切ると駅に向かう。

北鎌倉駅で降りた私は、冷房の効いた車内との温度差で汗が出るのを不快に感じつつ改札を出る。

国道21号線の歩道とは呼べない道路脇を真っ直ぐ歩き、新聞社の看板を目にすると手前の喫茶店に入る。

いらっしゃいませの声と扉の鈴の音を聞きながら店内を見渡すが不在のようなので適当なテーブル席に腰掛ける。

お冷やを配膳するウェイトレスに「カフェオレ」と伝え、ハンカチで汗を拭う。

お冷やを飲んでいると、桜川優姫がチェックのワンピースとカーディガンを羽織った清涼感ある格好で入店し私を見つけるとウェイトレスに待ち合わせですと伝え会釈し歩いてくる。

「よろしいですか?」と笑顔で向かいの席の椅子を手差しする。

「うん」とだけ応えると優姫は向かいに腰掛けウェイトレスからお冷やを受け取り「カフェオレ」と伝えた。

彼女も薄っすらと額に汗をかいていた。

何故か、その汗の姿ですら美しく思えるから不思議である。

彼女、桜川優姫は私と同じ私立七里ヶ浜付属学院に通う花鳥風月四大名家の一つ桜川家三姉妹の末姫であり私の知る中で一番に信頼できる友人である。

腰まで伸びた黒髪と中学3年生とは思えない大人びた仕草と容姿で私達の中では彼女が実は長女ではないかと疑っていた事もあるほどであった。

同性ですら魅了する彼女を嫉妬する人は今のところ見聞きしていない。

お冷やを口にするのも両手を添え小さく微量に口に含み飲む姿は流石は茶道や日本舞踊などをしているな…と感じるほど優雅であった。

「お話しとは何でしょうか?」とお冷やをテーブルに戻し優姫は言う。

「由香里のこと覚えてる?」と言う。

優姫と私は友人なのだが、由香里は優姫にとって友人の友人という仲であり、由香里と優姫が正反対の性格や感性のため一緒に行動をした事は数える事すら必要としないほど少ない。

「えぇ、野山由香里さんですよね3年D組の」と応える。

「よく覚えてるねクラスまで」

「実は時々お話しをするので」と応えた。

私は、その事実を知らなかったため「えっ」と呟いた。

優姫は申し訳なさそうに目を伏せ続ける

「ですが、数えるほどしかありません」と微笑を浮かべたが顔には謝罪の色が見えた。

「別に悪いなんて言ってないよ・・・私も由香里が優姫と仲良くしてくれるのは嬉しいから」

と本日二度目のしどろもどろになり応えた。

「それでさ」と閑話休題を込めて少し強く言うと優姫も両手を膝に置き真剣な顔つきになる。

「由香里が、隠し事をしてるようなんだ」と伝える。

私は、御見舞に行った時の事を伝えると、優姫は顎に指を当て考える仕草を見せたあとに私を見る。

「加奈子さんは、その隠し事が気になるのですね?」と真剣な声音で言う。

私は気圧された気分になり、小さく頷く。

「どうして気になるのですか?」

「だって・・・」と私は俯いて続ける「幽霊なんて答えるのはおかしいと思うし…誰かを庇っているのかなって思う。」

優姫は頷く。

「それに、聞く限りだと・・・脅されてるかもしれないから」と応える。

優姫は口を開きかけるが、私と優姫のカフェオレが配膳されたので口を閉ざす。

配膳を終えたウェイトレスが下がり優姫はカフェオレに手をつけず先程の続きを始める。

「もし、加奈子さんが宜しければ謎解き専門の相談ができる人をご紹介致しますよ」と言った。

謎解き専門と言うと浮かぶのは警察か探偵だった。

「お金かかる?」と聞くと優姫は顔を横に振る。

「その方は、気まぐれで必ず相談に応じてくれるかは存じませんので、もし請求されたのなら私がお支払いします」と応える。

私の猜疑心が伝わったのか優姫は言う。

「私も由香里さんの事を知りたいので」と応えた。

「その人って探偵とかやっているの?」

「いいえ」と応え「家庭教師が本職ですよ。それと、喫茶店の常連です。」と言った。

喫茶店の常連という言葉で思い出す。

前に優姫が相談なら私よりも喫茶店相談所にするといいと言っていた事があった。

「お願いしてもいいかな」と反応を伺うように訊ねると優姫は笑顔で「はい」と応えた。

私たちは、カフェオレを飲み干してから直ぐに喫茶店を出る。

優姫は、その相談する人に会いに行くと言ったからだ。

「加奈子さん、相談内容はまとめておいてください。」

「どうして?」

「私から簡単にお話しをしますが、全てではありません」と言い「オッカムの剃刀ですよ三つぐらいに要点をまとめて伝えるのが分かり易いのです」と言った。

「それと、喫茶店相談所の事ですが解決でなく解答なのでご了承ください」と言う。

解決はしないが解答はするの意味を知るのは、もう少し後のことだった。

その日の夕刻近くに優姫から連絡があった。

「相談を受けて頂けるようです」と・・・

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