流氷にのって
「流氷にのって」
流氷にのって、クルクルクルクルと。
見渡すかぎり360度の水平線に漂流する氷。
見上げれば大きな目玉がわたしを見下ろす。
台風の目がガジガジと大気をかじりながら移動していく。
空はおちくぼんだ灰色。
おちくぼんだ穴から、時々小石が投げ込まれ、二へん三べんと空を滑っていく。
浜辺には子供達が浮輪を持って戯れているのだろう。
クルクルクルクル……
私は巡る。
見渡すかぎり南極の最果て。見えるかぎりの岸辺から、アシカが次々と海へ飛び込んでいく。
幾重にも列をなして、とんぼ返りを繰り返す。
見上げれば天井から、いつのまにか彼らが着点しなくてはならないボールが浮かんでいる。
見事にボールは跳ね飛ばされ、私は空を見上げたまま、目をつぶる。
クルクルクルクル……
音など聞こえないと思っていたけれど、ピチョンポチョンと滴のたれる音が響く。
雨垂れの音だ。
そして、アマガエルが小さな水しぶきとともにもっと小さな水たまりを壊して跳ねていく。
クルクルと回る流氷。
漂流する私。
いく当てはない。
近くにたたずむ王様ペンギンが言う。
「魚を取り初めてはや3年。君ところじゃ私の息子がごやっかいになってる。妻は目玉焼きを焼くので悪戦苦闘で、私のことなど振り向きもしない。君には分かってもらえるだろうけど……」
私はそっと目を伏せて王様ペンギンの事情を考える。
流氷の上に魚があふれ、いまにもひっくりかえりそうだ。
クルクルクルクル……
王様ペンギンが魚をおいていくのは何のためかしら? 流氷は魚の重さに耐え切れず、とうとうひっくりかえった。
宇宙だ。
私は空へ飛んだ。
羽を広げて、短すぎて不慣れな……
流氷のひっくりかえった世界は、無重力の不透明で、ずっと青に近い透明な宇宙。
私たちは飛んでいこう。
クルクルクルクル……流氷は流れ去った。
私は流されていく。