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間違えた旦那さま  作者: 兼田深瑜
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お嬢様2

買い物から帰ると、夕食は母と姉が支度してくれた。

姉はわたしよりふたつ歳上の27歳。

24の時に結婚したのだけど、結婚してすぐに旦那さまが海外に転勤になってしまい、以来遠距離別居中だ。借りていた新居も家賃がもったいないという理由で出てしまい、実家に帰ってきていた。

名前を(みなと) 乃莉恵(のりえ)と言う。

新居に住んでいたくない理由は他にもあったに違いない。

例えば旦那さま不在の間に、湊の義母が訪ねてきたことがあったらしい。

旦那抜きで義母と対峙したくなかったんだろうな…と、わたしにはわかる。


乃莉ちゃんはお姉ちゃんだというのに、小さいときからいつもわたしの後ろに隠れて、ビクビクしているような子だった。

知らない子とは話せないし、遊べない。

いつもわたしが橋渡しをしていたように記憶している。

湊さんだって、わたしの前の会社の先輩だった。

若手筆頭の出世株で、20代で管理職になったのは湊さんが初めてだった。

涼やかな切れ長の目に、キリリとした眉毛。スッと真っ直ぐな鼻筋に、銀縁の眼鏡が知的だ。

背も高くて、スーツが似合って、スポーツマンらしい爽やかな笑顔をいつも見せてくれて。

素敵な先輩だと、密かに憧れていた。

その話を乃莉ちゃんにしたら、会ってみたいと言う。

男性に限らず、わたしが好きだという人は、もれなく乃莉ちゃんの興味をひくらしい。

だからいつものように乃莉ちゃんを湊さんに紹介した。

確か、会社の飲み会が終わって、乃莉ちゃんに車で迎えに来てもらった、その時に。

いい忘れたが、乃莉ちゃんは色白の美人さんだ。

性格がこれでなかったら、ミスコンのひとつやふたつ優勝できそうなスタイルに、こぼれそうに大きな瞳はいつもうるうると潤っている。

まぁ、これはいつも半泣きなだけだ。極度の人見知りからくるものらしい。

そして、初めて湊さんと会ったあの日も、夜のネオンの下で、いつもより白く見える肌に輝く瞳の乃莉ちゃんは、湊さんのタイプどストライクだった。


一目惚れした湊さんが乃莉ちゃんと付き合うことになったのはそれからすぐ後のこと。結婚までは1年もかからなかった。

乃莉ちゃんは、『莉理亜が好きな人に悪い人はいないわ』と、何やら小悪魔な台詞とともにお嫁に行った。

こんな風に言うと、なんだかわたしが僻んでいるように聞こえるだろうか。

実はそんなつもりは微塵もない。

乃莉ちゃんを紹介したことも、湊さんが乃莉ちゃんを選んだことも、何も悔いるところはないし、むしろ心は凪ぎのように穏やかだ。

乃莉ちゃんを選ぶ人は男女に関わらず多い。

わたしが紹介しなければ、ひとりの友人もできなかったかもしれないけれど、ちょっときっかけを作ってさえやれば、乃莉ちゃんは外見だけでなく内面も好ましい性格だ。

すぐに友人になれる。

そして、割合は少ないけれど、乃莉ちゃんよりもわたしを選んでくれる人だっているのだ。

それこそいろんな人がいるもので、外見でさえもわたしが好みと言う人だってたまにいたりする。

だから、わたしは湊さんが乃莉ちゃんでなくわたしを選ぶ可能性もあると思っていたし、もし乃莉ちゃんを選ぶならそれはそれで構わなかった。


こういう考え方になるまでは、乃莉ちゃんに嫉妬したこともあった。

中1の時初めて付き合った男の子を乃莉ちゃんに紹介した途端、彼はわたしより乃莉ちゃんに惹かれ、別れることになった。

乃莉ちゃんはその時他に彼氏がいたし、中1の男子なんかに興味はないようだったけど、それでも彼は乃莉ちゃん一筋に、中学の3年間ずっと乃莉ちゃんにアタックし続けていた。

わたしの目の前で。

あのときは情けないやら悔しいやら、複雑な気持ちだったけれど。

今思えば、付き合う前から乃莉ちゃんに出会っていたら、そもそも彼はわたしと付き合いさえしなかったんだと思う。

その程度の気持ちで付き合ったんだ。

ならば、後から乃莉ちゃんを紹介するなんて危険なことをしたわたしも悪い。

はじめから乃莉ちゃんを紹介して、それでもわたしを選んでくれる奇特な人を選べばいいだけのこと。その人はきっと、わたしを幸せにしてくれるに違いない。

まぁ今までわたしが恋した人の中にはいなかったけれど。きっとこれから現れるのだ。

たぶん。


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