マガイモノ
今宵も彼女は細くて暗い路地の片隅で紛い物の石を並べている
ここは駅まで向かう近道で両脇は無機質な壁に固められ街灯もない
通行人はほとんど通らないが
たまに通る人は並べた紛い物の石を綺麗だと
目を輝かせて喜ぶから彼女は石を差し出す
紛い物の石はカラーもクオリティもカットも最高級だから
人は紛い物の石なんて気付かない
綺麗だよ 輝いている
今日もそんな声が聞こえた
時々彼女は胸が重たくなって潰れそうになる
薬も効かないときは胸の中を抉じ開ける
そこにあるのは溜まりに溜まった本物の石たち
引っ張り出してみる
彼女の胸には無数の穴があいていた
とても大きい石を掴み出すことが出来た
これは何カラットだろう
紛い物の石の中に本物の石を置いてみる
紛い物の中のいちばん大きい本物
けれど人は誰も本物には見向きもしない
なぜなら光らないから
彼女は今日も暗い路地裏の片隅で紛い物の石を並べる
路地裏は駅までの近道
かつて彼女はそこを足早に通り過ぎた
どうしてそこへ戻っているのか
どうしてそこから動かないのか
(わたしはナニモノですか?)
紛い物の石はもうすぐ底をつく
彼女は灯かりを点せない
静かな喧騒
賑やかな静寂
じ えんど?
彼女は意志を持たないマガイモノ
彼女を消してしまうのはホンモノの意志
でも崩れやすく脆くなってしまった意志は怯える
愚か者はマガイモノに寄り添ってただただ抱かれるばかり