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四話 奢り

琴音が走り出したのを確認し、改めて目の前の鬼を見据える。


「死神・・・」

年齢不詳、性別不明の吸血鬼。

残忍にして凶悪、なにより推定危険度はSクラス。

通常の吸血鬼が軒並みBであることから、こいつの異常性はとんでもないことがわかる。(ちなみに親父はSSSランク。ちょっとでも見かけたら逃げろ。らしい)

「おい、そこの・・・」

死神は俺ではなく、ローグを指差し、話しかける

「お前・・・貴族だな??お前の血は・・・うまそうだ」

「こいつ、いきなり何を・・・」

一瞬だった。死神の姿が消え、ローグの目の前に現れ・・・




その顔面に、俺の渾身の蹴りがクリーンヒットしたのは。

「・・・?」

ローグたちは何が起こったのかわからないという顔をしている。

「ローグ、今すぐここから逃げろ。今のでわかったろ、お前たちじゃあいつの動きについていけない。」

視線は死神から離さず、いつでも対応できるようにしておく。

正直、俺よりも速いかもしれない。さっきのは予測する材料があったからこそ先回りできたが、次はこうはいかないだろう。

「お前・・・ひゃやいな。戦ったら・・・楽しそうだ。」

どうやら歯にクリーンヒットしてしまったらしい。

死神に意識を集中しつつ、頭の片隅でもうひとつのことを考える。

「でも、お前からは貴族どころか・・・鬼の血すら感じない。何で、お前が私についてこれる?」

・・・やっぱりか。

貴族種と最強の祓魔師のハーフとはいえ、その血はそれぞれ半分ずつ。その辺の吸血鬼ならともかく、接触禁忌クラスともなると、『ただの人間』と同じように見られてしまうらしい

「・・・いや、かすかに感じるぞ・・・お前、黄金、だな?」

予想は外れたらしい。こいつ、たぶん感覚が鈍いな。

いや、実際、俺の中の鬼の血は今、非常に薄くなっている。




ここで少し、真琴や真琴の母、琴音ら祓魔師の話をしよう。

祓魔師というのは、吸血鬼に対抗するために、体内で『白の原子』と呼ばれる特別な成分を生成、放出できる人間のことを指す。この『白の原子』、自分の意思でコントロールできるとはいえ、緊張や恐怖など、自身でコントロールできない感情があふれたときには、無意識のうちに放出してしまうことがある。



つまり、琴音は先程のキスに動揺し、無意識のうちに白の原子を俺の中に放出してしまった。それが原因で俺の中の鬼の血は一時的に力を失い、感じ取れなくなっているというわけだ。

ちなみに、俺は初めから白の原子を作れない。

「おい、真琴・・・だったか。」

ローグが俺に近づき、名前を呼んでくる。というか、早く逃げろよ。狙われてんのお前だぞ。

「お前の中の鬼の力をほとんど感じない。お前まさか、さっきの娘の『白の原子』を受けたな」

ローグはそこまで言うと、自らの肩を露出する。どうでもいいが華奢な体だな。吸血鬼の癖に。

「何のつもりだ、俺に男色の気は無いぞ。あきらめろ」

「いらん深読みをするな。俺の血を吸え。貴族種の血だ。お前の中の鬼の血を目覚めさせるには十分だろう。」

・・・そうきたか

「ずるい。」

またも一瞬。死神は俺とローグの後ろに音も無く移動し、ローグの肩に手を伸ばす。

「それ、私の貴族」

「・・・!!」

とっさのことで反応が遅れる。俺とローグが振り返ると、すでにその手は鋭利な刃に変わり、最短距離でローグへと迫っていた。

まずい…間に合わない…!!

「うおおおおおお!!!!」

そんな叫びとともに、死神の手を、自らの体を盾に止めたのは、アルトだった。

「アルト…?」

突然のことに動けないローグに向かって笑いかけるアルト。こいつ…貴族種じゃないはずなのに、この判断力はなんだ…?

戦闘したときのアルトは唯の鬼という感じだった。

でも、普通の鬼は仲間を助けることはしない。

血に冒された頭は、そもそも仲間というものを認識すらしないのだ。

奴らが群れをなすのは狩りが効率良くなるから。

だとしたら…

「じゃ、ま」

一瞬の間の後、死神はつまらなそうにそう言うと、アルトの体を貫いた刃を力任せに引き抜き、アルトを蹴り飛ばす。

血を撒き散らして吹き飛ぶアルト。それを呆然と見つめるローグを一瞥してから、俺は宙を舞うアルトの血を飲む。

やっぱり普通の血だ。

そんな感想とともに、俺の体は血を得たことにより、鬼に近づく。

「ローグ、アルトのとこに行ってこれを飲ませろ。」

死神は興味深そうに俺を観察している。それから視線を離さず、俺は腰のポーチから小さな瓶を取り、ローグに渡す。

「これは…?」

「俺の血だ。それで傷は塞がるはずだ。」

そこまで言って、目の前に現れた死神の仮面を叩き割る。

「待たせたな、死神。遊んでやるよ」

「お前…黄金?それとも…ひと?」

「両方だよ。」

そう言うが早いか、砕けた仮面の破片をつかみ、そのまま死神の肩に突き刺す。


「いたい…!!」


距離をとった死神の顔は、非常に整っていた。

左半分を除いては。


「その傷…白の原子による傷痕だな。」

「そう。私は生まれて間もない頃に、祓魔師に襲われた。」

仮面が割れたせいか、そもそもこれが元の話し方なのか。今までのような単語ではなく、普通に話し始める死神。

「まだ教会というものが生まれる前の話…その時代の祓魔師と呼ばれる人間たちは、束ねるリーダーがいない分、各地で好き勝手に鬼を狩っていた。人を襲う鬼は勿論、人と共存していた鬼すらも。」


死神の言葉に違和感を覚え、思わず声を出してしまった。

「人と鬼が…共存」

「そう。お前と私は同じ。人と鬼の間に生まれた。」


俺と同じ…??


「もっとも、お前のように完全に適合せず、鬼の血が濃く出た、という点では、私とお前は違う。」


そこまで言って、死神は後ろの建物を見る。

「人間…ただの人間には興味はない。私が狙うのは祓魔師だけだ。だから行け。」


どうやらその建物の陰に人が隠れていたらしい。その人は慌てて逃げていく。


そうか、こいつ…


「祓魔師のみを喰らう鬼か。珍しくもない…けれど。」

銀十字を地面に突き刺し、創造した刀を死神に向ける。

「悪いが、俺は吸血鬼を滅ぼすために祓魔師になった。言いたいことはわかるな?」


「お前…鬼を滅ぼすって…」

ローグがいつの間にか後ろに立っている。ちらりと顔を見ると、瞳から動揺が見て取れる。

「無論お前たちもだ。お前たちもいつか『俺が』滅する。」


「いずれ滅する鬼を助けるとは…」

そう言ってアルトも後ろにつく。良かった。回復したみたいだな。

「助けられている身とは言え、問わせてもらう。なぜ俺を助けた?そして…」


「なぜ俺の血を適合させた?」


俺の血。つまりは大魔騎の血と祓魔師の血をを引いた者の血を飲めばどうなるか。俺は理解していた。

人に飲ませれば退魔の力を付与し、鬼に飲ませれば鬼の血は適合する。

「俺がお前を助けた理由はシンプルだ。お前が俺を意図せず庇ったからだよ。」


もしアルトがあの時出てこなかったら。

俺は身を挺してローグを守った。

死神に力を与えないために。


「これでお前の中の血は安定する。安定していれば、滅するのも楽だ。」


それを聞いたローグとアルトは、険しい顔のまま離れていく。

そうだ。それでいい。


「死神、悪いがお前を滅する。文句ないよな?」


「お前が祓魔師だと言うならば、私はお前を殺さなきゃならない。」


双方合意。体内の白の原子もほぼ効果をなくした。


「じゃ、こっからは本気で相手してやるよ。」


そう言って聖魔の力を解放する。

髪は白く、瞳は紅く。両親の特徴を併せ持つ異形。


「聖魔…私がなれなかった姿か…」

どことなく悲しみを帯びた死神の声色は、すぐにかき消えた。

音速を超えた足運び。縮地法をベースとした我流の歩行術。そこから繰り出される退魔の力を帯びた一閃。空気すら断つその一撃を、死神は止めた。

刀を、俺を、街を、国を、世界を。

時間を止めた。


「固定。どんな威力があれど、私には届かない。私はありとあらゆるものを止める。」


「そうか、あの時一瞬で目の前に現れたのも…!」

速いのではなく、時間を止めて移動したからか…!


「お前の敗因は、そう。私の能力を考慮してなかったこと。聖魔の力は無敵じゃない。力そのものを止められてしまえば、お前は半端な分弱体化してしまう。」


そう言って、俺の頬に小さく傷を作る。

そして、そこから流れた血を、死神は飲む。


「これが聖魔の血か…もう少し貰うぞ。真琴。」


一口、もう一口と血を飲んでいく死神。つーか直に飲むな。

「ふむ、これで顔も…」

そう言って死神は鏡を取り出して自分の顔を映す。そこに写された顔を見て


「やっと元どおりになった!」

先ほどまでのキャラはなんだったのか。やたら元気に飛び跳ねる。

「おいこら死神…いい加減に…!!」


「琴夜さんの言った通りだったね。」


死神が口にした名前。それは親父の名だった。


「なんで親父の名を…」


「あ、言ってなかったっけ?私は琴夜さんの部下だよ。死神はコードネームね。」


…頭がついていかない。


「琴夜さんの部下。正確には元部下なんだけどね。琴夜さん鬼の世界じゃ死んだ事になってるし。私は元から知ってた、というか結婚式呼ばれたし。」


…え?なに?どういうこと?


「ちなみに、君が生まれた時も抱っこさせてもらったし、物心着くまでは時々おうちに遊びに行ったりもしてたよ。君の両親が忙しい時は代わりにお世話もしたことあるよ。」


「…え?つまり…?」


「えっとね。私の今の仕事は君を見守ること。君は最強の血を引いてはいるけど、今回みたいにそれが通じないってことを教えることも仕事の一つだよ。報酬は、顔の傷が治る位の君の血。」


「じゃあ、さっき言ったことは…?」


「それは本当。全部ね。私も鬼と人の子だよ。まぁ私の場合は魔公とただの人だったから、鬼の血が強いんだけどね。幼い頃に祓魔師に襲われたのも本当。でも、そんな私を助けてくれたのも祓魔師なんだよ。というか君のお母さん。」


「ちなみに、私に気づいちゃったからそれっぽく振舞ってみたけど、あのキャラ疲れるんだよ?無理して低い声出したりとか…って聞いてる?」


「あんのクソ親父がー!!!!」


「呼んだ?」

俺の慟哭に合わせたのか、親父がひょっこり姿を現した。


「呼んでねーよ!つーかどういうことだこの野郎!」


「どうもこうも、メイリから聞いただろ?」


「聞いた上での質問だよ!全く意味がわからねえ!」





その後、親父を問い質し、一通り説明を受けた。

「彼女の名はメイリ。死神って呼ばれてるのは祓魔師のみを狙って襲うから、祓魔師にとって死神って事。僕の部下だったんだけど、彼女だけには僕の事を教えて、真琴を守る仕事を与えたんだ。報酬は知っての通り、真琴の血で顔の傷を治すこと。」


改めて説明を受けてなお、半分も理解しちゃいないが…


「とりあえず親父が動けんのはなんでだ?そして俺はいつまで止まったままなんだ?」


「あ、ごめんごめん。ついでに君たちも、もう興味ないから行っていいよ。」


俺と、ローグ、アルトの停止を解除するメイリ。すると二人は


「待て。いや…お待ちください。大魔騎琴夜様。」


そう言って膝をつき、頭をさげる。


「顔を上げていいよ。僕はもう大魔騎じゃない。」


「そういうわけにはいきませぬ…知らなかったとはいえ、ご子息に対して無礼な行動…どうか我々に罰を」


ローグ、アルトの頭は上がらず、父さんの言葉を待ち続ける。


「はぁ、分かったよ。…大魔騎が命じる。そなたらはこれから、我が息子、真琴の側近として働け。」


「「御意!」」


「御意!じゃねーよ!側近ってなんだよ!」

納得いかない。


「側近と言うか友達だね。」


「そうじゃない!父さんは俺の目的知ってるだろ!?」


「知ってるよ。だからこそだ。」

父さんの目が鋭くなる。

「真琴。確かに君は強い。でも、今のままで全ての鬼を滅するなんて出来るのかな?例えば…」


「今、僕と戦って、勝てると思う?」


そういうのとほぼ同時に、父さんの殺気が迸る。


その殺気に中てられて、指一本動かせない。


「ほら。ちょっと殺気を出したら動けない。ちなみに今のは2割位だよ。それに、大魔騎は僕を含めて5人。僕の後役がいるから6人。そしてその上にもたくさんの鬼がいる。」


「分かったよ…」


しぶしぶ了承する。確かに、俺は両親の力に依存して闘っていた。


それ故に。


アルトやローグですら動くことができた父さんの威圧に、ただ一人気圧されていたのだから。

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