最後の一枚 ――僕とじいちゃんを繋ぐ切符――
「ねえ、きっちゃん。『銀河鉄道の切符』の噂、知ってる?」
小学生の僕は、友だちのまひるにそう聞かれた。
「どこでも行けるってやつじゃないっけ。どうしてそんな事聞くんだ?」
「ええ?それってすごくロマンじゃない」
確かに、それはまひるの言う通りだ。
どこでも行けるのであれば、行ってみたいモノだ。
その時、丁度下校のチャイムが鳴る。
「じゃあ、また明日話そうよ」
「ああ」
こうして2人は教室を出た。
▪▪▪
その日の帰り道、急に雨が降って僕は雨宿りと、普段入らない寂れた商店街に入っていった。
(お、おっかないけど、屋根がついているから大丈夫)
そう言い聞かせて進むと、ふととある脇道の方が気になった。
なんだろう、と考えるとアーケードから脇道の境目に何かが目に入った。
(……?)
手に取ると、どうやら長方形の小さな紙。
古い字で読み辛いが、『鉄道』の文字だけは読み取れた。
「これって、もしかして」
『銀河鉄道の切符』は都市伝説の噂によると、デジタル化された今の切符とは違い『紙』で出来たものだというのを思い出したのだ。
僕の手が震えている。
まさか、自分が手にするとは思いもしなかったからだ。
脇道から、風が吹いている。
僕を誘っているかのよう……
(……行ってみよう!)
そう僕は脇道に一歩を踏み出した。
▫▫▫
脇道を歩き始めてから5分。下り坂の先に、木造の駅が見えた。
「ここ、今の駅舎じゃない……」
見た感じ、使われてもいない感じだ。
建物の中から、一人の男性が出てきた。
駅員の格好をしているが、帽子を深く被って目元は見えない。
「……坊や、『電車』の乗客かな」
駅員は静かにそう言う。
「え、あっ、はい」
僕は徐ろにさっき拾った『切符』を見せる。
駅員はそれを手に取る。
「……この切符は、片道しかございません。その代わり、行きたい場所を案内します。どこに行かれたいですか?」
僕は少し俯く。
そして、脳内に浮かんだことを駅員に言う。
「ぼっ、僕、病気のじいちゃんに会いに行きたい!」
駅員の口元が、少しほほ笑んだように見えた。
「承知いたしました。もう間もなく電車が来ますので」
駅員は『切符』に穴を空け、僕に渡した。
『それでは、よい旅を……』
▪▪▪
僕は駅にある、1両しかない電車に乗り込んだ。
その電車はゆっくりと走り出したかと思うと、空へ浮いたのだ。
どんどん街が小さく見え、不思議な感覚に陥った。
「こっ……これが、『銀河鉄道』なんだ」
窓を見ながら、僕はそう呟いた。
電車は雲を抜け、まだ登っていく。
『間もなく終点、終点です』
とアナウンスが鳴り、雲の上にある小さな駅舎に着いた。
降りると、駅のベンチにじいちゃんの姿があった。
「じ、じいちゃん……?」
僕が話しかけると、じいちゃんは気がついたようだ。
「聖志、か」
「うん!」
僕はじいちゃんの隣に座った。
「ねえ、じいちゃんって病気だったよね。何でここに居るの?」
僕が聞くと、じいちゃんは少し悲しそうな顔をして、僕の頭を撫でた。
「あんたに、最期の挨拶をしたいと思ってな」
「えっ、それってどういう事……」
僕がそう呟くと同時に、目の前に居るはずのじいちゃんの身体が消え始める。
「……じ、じいちゃん?じいちゃん!?」
あまりにも突然過ぎて、理解が追いついてこない。
「せめて、理由を……」
その光景を最後に、僕の目の前は暗くなった。
▪▪▪
「……聖志、聖志!」
誰かに揺さぶられて、僕は目を覚ました。
商店街にある脇道の所で、母に揺さぶられていた。
「母ちゃん、なんでここに?」
「なんでじゃないわよ!心配したの!」
母は安堵したのか、涙を流す。
どうやら帰らない僕を心配して、家族や友だち、近所の人が探してくれたらしい。
「あんた……明日、みんなに頭を下げるよ」
頬を手の甲で拭いながら、母が言う。
「う……ん、分かった」
▫▫▫
あの後、じいちゃんが亡くなった事を聞いた。
『最期の挨拶をしたい』、という言葉は本当の事なのかな、と思った。
数日後、僕はじいちゃんの葬式に出るために実家へと帰った。
葬式が終わり、両親が親戚たちと話している間、僕は実家の中を見て回った。
その時、気になるものを見つけた。
『鉄道日誌』と書かれたノートだ。
「おばちゃん、これ見ていい?」
実家の近所に住むおばさんに言うと、「ええよ」と言ってくれた。
僕はそれを捲り始める。
そこには、じいちゃんが駅員をしていた頃――大昔の頃――の写真が載っている。
「………っ!?」
それを見て、僕はびっくりした。
僕を案内してくれた駅員の姿に似ているのだ。しかも、駅舎や電車も同じモノなのだ。
(こんな偶然って、あるのかな)
そう思いつつ、最後のページまで見ると写真の中のあるモノが目に止まった。
―――それは、あの時拾った切符のモノと一緒だったのだ。
▪▪▪
この都市伝説は、まさか自分の身近にあるものだとは思いもしなかった。
……じいちゃん、僕のことを気にしていたから、最期のプレゼントをしたかったのかな。




