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最後の一枚 ――僕とじいちゃんを繋ぐ切符――

作者: 桜橋あかね
掲載日:2026/02/20

「ねえ、きっちゃん。『銀河鉄道の切符』の噂、知ってる?」


小学生の僕は、友だちのまひるにそう聞かれた。


「どこでも行けるってやつじゃないっけ。どうしてそんな事聞くんだ?」

「ええ?それってすごくロマンじゃない」


確かに、それはまひるの言う通りだ。

どこでも行けるのであれば、行ってみたいモノだ。


その時、丁度下校のチャイムが鳴る。


「じゃあ、また明日話そうよ」

「ああ」


こうして2人は教室を出た。


▪▪▪


その日の帰り道、急に雨が降って僕は雨宿りと、普段入らない寂れた商店街に入っていった。


(お、おっかないけど、屋根がついているから大丈夫)


そう言い聞かせて進むと、ふととある脇道の方が気になった。

なんだろう、と考えるとアーケードから脇道の境目に何かが目に入った。


(……?)

手に取ると、どうやら長方形の小さな紙。


古い字で読み辛いが、『鉄道』の文字だけは読み取れた。


「これって、もしかして」


『銀河鉄道の切符』は都市伝説の噂によると、デジタル化された今の切符とは違い『紙』で出来たものだというのを思い出したのだ。


僕の手が震えている。

まさか、自分が手にするとは思いもしなかったからだ。


脇道から、風が吹いている。

僕を誘っているかのよう……


(……行ってみよう!)

そう僕は脇道に一歩を踏み出した。


▫▫▫


脇道を歩き始めてから5分。下り坂の先に、木造の駅が見えた。


「ここ、今の駅舎じゃない……」

見た感じ、使われてもいない感じだ。


建物の中から、一人の男性が出てきた。

駅員の格好をしているが、帽子を深く被って目元は見えない。


「……坊や、『電車』の乗客かな」

駅員は静かにそう言う。


「え、あっ、はい」

僕は徐ろにさっき拾った『切符』を見せる。


駅員はそれを手に取る。

「……この切符は、片道しかございません。その代わり、行きたい場所を案内します。どこに行かれたいですか?」


僕は少し俯く。

そして、脳内に浮かんだことを駅員に言う。


「ぼっ、僕、病気のじいちゃんに会いに行きたい!」


駅員の口元が、少しほほ笑んだように見えた。


「承知いたしました。もう間もなく電車が来ますので」


駅員は『切符』に穴を空け、僕に渡した。


『それでは、よい旅を……』


▪▪▪


僕は駅にある、1両しかない電車に乗り込んだ。

その電車はゆっくりと走り出したかと思うと、空へ浮いたのだ。


どんどん街が小さく見え、不思議な感覚に陥った。


「こっ……これが、『銀河鉄道』なんだ」

窓を見ながら、僕はそう呟いた。


電車は雲を抜け、まだ登っていく。


『間もなく終点、終点です』

とアナウンスが鳴り、雲の上にある小さな駅舎に着いた。


降りると、駅のベンチにじいちゃんの姿があった。


「じ、じいちゃん……?」


僕が話しかけると、じいちゃんは気がついたようだ。


聖志(きよし)、か」

「うん!」


僕はじいちゃんの隣に座った。


「ねえ、じいちゃんって病気だったよね。何でここに居るの?」


僕が聞くと、じいちゃんは少し悲しそうな顔をして、僕の頭を撫でた。



「あんたに、最期の挨拶をしたいと思ってな」



「えっ、それってどういう事……」

僕がそう呟くと同時に、目の前に居るはずのじいちゃんの身体が消え始める。


「……じ、じいちゃん?じいちゃん!?」


あまりにも突然過ぎて、理解が追いついてこない。


「せめて、理由を……」


その光景を最後に、僕の目の前は暗くなった。


▪▪▪


「……聖志、聖志!」


誰かに揺さぶられて、僕は目を覚ました。

商店街にある脇道の所で、母に揺さぶられていた。


「母ちゃん、なんでここに?」

「なんでじゃないわよ!心配したの!」


母は安堵したのか、涙を流す。

どうやら帰らない僕を心配して、家族や友だち、近所の人が探してくれたらしい。


「あんた……明日、みんなに頭を下げるよ」


頬を手の甲で拭いながら、母が言う。


「う……ん、分かった」


▫▫▫


あの後、じいちゃんが亡くなった事を聞いた。

『最期の挨拶をしたい』、という言葉は本当の事なのかな、と思った。


数日後、僕はじいちゃんの葬式に出るために実家へと帰った。


葬式が終わり、両親が親戚たちと話している間、僕は実家の中を見て回った。

その時、気になるものを見つけた。


『鉄道日誌』と書かれたノートだ。


「おばちゃん、これ見ていい?」

実家の近所に住むおばさんに言うと、「ええよ」と言ってくれた。


僕はそれを捲り始める。

そこには、じいちゃんが駅員をしていた頃――大昔の頃――の写真が載っている。


「………っ!?」


それを見て、僕はびっくりした。

僕を案内してくれた駅員の姿に似ているのだ。しかも、駅舎や電車も同じモノなのだ。


(こんな偶然って、あるのかな)


そう思いつつ、最後のページまで見ると写真の中の()()()()が目に止まった。


―――それは、あの時拾った切符のモノと一緒だったのだ。


▪▪▪


この都市伝説は、まさか自分の身近にあるものだとは思いもしなかった。

……じいちゃん、僕のことを気にしていたから、最期のプレゼントをしたかったのかな。

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