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熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
守りたいひと

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#6



世界はそうそう変わらない。

変わるのは、いつだって人の方だ。そして考え方次第で日常は取り戻せる。

簡単に巻き戻せるし、先送りだってできる。運命を待つのではなく、自分から拾いに行くんだ。


時々気を取られて転びそうになることはあるけど。……あの人が言ってくれたように、俺の居場所は十年前から決まっているから、大丈夫。




「……もしもし。あ、雅冬さん! ……はい、ありがとうございます。あはは、おかげさまで元気ですよ」

日が沈む前に家に帰り、洗濯物を畳んだ。その最中電話がかかってきた為、手を止めて耳を傾ける。

『あ~、このゆるい感じこそ白希だ。良かった……本当に良かった』

雅冬さんと話すのも久しぶりだ。今の白希にホッとしていることが、電話越しでも伝わってくる。


でも、こちらも密かに安心していることがある。十年前の自分は、不器用なりに現実を受け入れ、前を向いていたようだ。周りの人達の話から察するに、一番孤独に苛まれていた時期の自分なのだろう。


そんな自分が十年後の世界で目覚め、周りから優しくされたら……戸惑うに決まっている。むしろ少し不憫に思えた。


「雅冬さん。ちょっと前の私は、何か失礼なことをしませんでしたか?」

『ん? 宗一はヤンチャだって言ってたけど、俺は特になかったよ。何てことない、今どきのドライな感じだから安心しな』


今どき……がいつも分からない。苦笑して誤魔化し、お礼を告げる。

『十年前だろうと十年後だろうと、白希は白希だろ。心配することなんて何もなかったんだろうな』

「……」

スマホを片耳にあてながら、白希は床に腰を下ろす。体育座りをして、自分の膝に手を乗せた。


「なんなら今の俺より素直で、強い部分がたくさんあったかもしれません。断片的な記憶しかないけど、村の人達にも立ち向かうことができていたし……一番、純粋だったところを切り取って出てきたのかな」


そして大切に隠しておいた、祖母への想いも一緒に出てきてしまった。

村に戻ることはないと思っていたけど、やはり祖母の墓参りだけは行きたい。すぐには無理だけど、追追宗一さんに相談して考えよう。


『白希は基本純粋だと思うけどな。そうそう、手紙の内容を考えてる時とか。あれは動画で撮っておくべきだったな。失敗した』


宗一なら高値で買ったのに、とおどける雅冬に、思わず顔が熱くなる。

「恥ずかしいから勘弁してください……」

『いやいや、いつもあれぐらいワタワタしてるぞ? ……と、それはさておき。十年前の白希は手紙書けたの?』

指先がわずかに跳ねる。数拍置き、白希はゆっくり肯う。

「……書けて、ちゃんと渡せたみたいですよ。すごい子です」

『ははっ。自分を褒めることになっちゃうのか』

二人で笑い合う。だけど実際、十年前の自分は見習いたいほどの行動力を持っていた。


再び村人達に襲われ、宗一さんや大我さん、道源さんに助けられた日。十年前の俺は疲れきって、泥のように眠ったらしい。まる一日寝ているものだから宗一さんが病院に連絡すべきか迷ったらしいけど、夜中にひょっこり起きてきた為安心したという。

その時はまだ十年前の“俺”のままで、特に何も言わずに宗一さんの膝枕で寝たみたいだ。


そして朝には、元の人格である白希が目覚めた。


戻って安心したはずなのに、どこか寂しい気もする。


少しの間とはいえ、十年前の自分は間違いなく今の世界を生きた。彼がいた証が褪せないよう、胸の中に大切に仕舞っておくつもりだ。


それに、雅冬に伝えた通り彼が残してくれたものもちゃんとある。

かつて、白希が宗一に宛てた手紙の数々。もう更新されることはないと思ったのに……新たに追加された一通の手紙は、文通を始める前の自分が書いたものとなった。


照れくさいし、周りの人達にたくさん迷惑をかけてしまったけど、俺は十年前の自分を誇らしく思う。


『本当に、不思議な夫婦だな』

「俺はかなり変わってますけど、宗一さんはしっかりされてますよ」

『あいつのはちゃっかりしてるって言うんだよ。……とにかく、一緒になったことが奇跡だと思うんだよな』


なるほど、確かに。

妙に納得して、電話なのに何度も頷いてしまう。

出逢えたことはもちろん、惹かれあったことも……全ては偶然だけど、可能性は低いんだから、これはもう奇跡と言っていい。


奇跡は、運命にも等しい。


「ありがとうございます、雅冬さん。……あ、多分宗一さんが帰ってきたので……。ええ、切りますね。また改めて」


玄関の方で音がした為、通話を切り、素早く立ち上がる。

それまで落とされていた照明が点いたように、突然視界が開ける。彼がいると思うだけで何故こんなにも景色が変わるんだろう。


不思議だ。人を好きになるということは、未知の力を秘めている。


廊下まで駆け、ドアが開いたと同時に声を掛けた。


「宗一さん、おかえりなさい!」

「ただいま、白希」




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