#12
アラームが鳴るより先に目を覚ました。
宗一は目元を擦って寝返りを打つ。そのとき腕がなにかに当たり、「痛っ」という声が聞こえた。
「ん……あ! ごめん白希、当たっちゃった?」
ハッとして前を確認する。隣には、自身の額を撫でている白希が寝ていた。
「大丈夫です。……おはようございます」
「おはよう。本当ごめんね」
故意ではないが、彼の額をさすった。赤くもなってないし、ホッとする。
「白希、お風呂に入ろう」
一緒にシャワーを浴びて、バスタブに入る。他意はないのだが、足の付け根に手が触れたとき、また彼はビクッと震えた。
「あぁ、ごめん。……相変わらず、白希は敏感だね」
懐かしくなって笑うと、彼は耳まで真っ赤にした。ちょっと気の毒なぐらいで、思わず口を手で塞ぐ。
「貴方が変な触り方するからでしょ!」
「ちょっと手が触れちゃっただけだよ。下心はないから許してくれ」
両手を上げて謝るも、彼はまだ頬を膨らましていた。真剣な彼には申し訳ないが、その様子すら可愛い。彼の腰を引き寄せ、自分の膝に座らせる。
チェアが一脚しかない為、彼からスポンジを受け取り、身体を洗ってやった。最初こそ嫌そうに身を捩っていたが、次第に全体重を宗一にかけてきた。
あれほどぷんすか怒っていたのに、すごい変わりようだ。
これが無意識だとしたら、もはや悪魔に近い。そう思ってしまうほど、今の白希は蠱惑的だった。
中身なんて忘れてしまうほど……。
思わず見惚れていると、白希は力を抜き、だらんと寄りかかってきた。
「大丈夫?」
こくこくと頷き、彼は懐かしそうに目を細めた。
「気持ちいい、です。大我さんに洗ってもらった時もそうで」
なっ!
一瞬だが、思考が完全に停止した。
引き攣った笑顔を浮かべ、宗一は白希の肩を押し、顔を確認する。
「白希? 洗っ……って、まさか、彼とそういうことをしたのか?」
「そういうこと?」
何のことか理解してないようで、白希はきょとんとしている。すらっとぼけてるわけじゃなさそうだが、由々しき事態だ。久しぶりに胸の中で熱い感情が揺らめく。
「大我……くんと、何をしたんだい」
「別に。貴方と同じで、一緒にお風呂に入っただけです」
「いや、普通は一緒にお風呂に入らないだろう?」
自分のことは棚上げし、大真面目に言うと、彼は怪訝な顔で頷いた。
「俺がひとりで入ろうとすると、必ず付き添ってくれました」
……。
全身の血の気が引いていくのが分かる。
宗一はなるべく冷静に、心を落ち着けようとした。大学生に対抗心を持つのはどうかと思うし、そもそも彼を守れなかった自分が悪い。
とは言え、非常に複雑だ。今の白希が妙なところで抜けているのも分かってはいたが。
「まさか、体は触らせてないよね?」
頼むから違ってほしい。神に祈る気持ちで問うと、白希は首を傾げ、両手を宗一の膝の上についた。
「触られてません。私から、こうやって擦り寄ることならあります。……けど」
かろうじて耐えていた糸が切れてしまった。青ざめていた時間は短く、すぐに全身が熱くなる。
「んむっ!」
だがそんなことは気にもせず、宗一は白希の顎を掠め取った。
「起きたことはしょうがない……代わりに今上書きするよ」
私情を挟むべきではないと分かっているのに、体は反した行動をとる。
困った。白希と大我に、猛烈に嫉妬している。
「んあっ!」
彼の首筋に強く口付けする。そして両腕を押さえ、彼の口端に溢れた唾液を舐め取った。
「でもちょうどいいから覚えておいて。私はとっ…………ても嫉妬深いんだ」
「……っ!」
燃え盛る瞳で見つめられ、白希は身震いした。恐怖なのか、快楽の余韻によるものかは分からない。ただ間違いなく、体は宗一の支配下に落ちている。
「ま……前から思ってたけど、貴方って本当に重いです」
白希は身を引き、青い顔で呟いた。
狩られそう。ではなくて、もう既に捕らわれている。放し飼いにされていたから分からなかっただけだ。
こんなにも重い感情を引き摺る人だと分かっていたら、きっともっと早くに逃げ出していた。
「……ふ」
宗一は前髪をかき上げる。鼻先が触れそうな距離で、もう一度白希の唇を奪った。
「これからまた、嫌になるほど愛してあげるから。押し潰されないよう頑張ってね、白希」




