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熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
失くしもの

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#11



「……」


宗一はお茶を飲み、伏し目がちに白希を見た。

「あぁ。……分かった」

掠れた声を振り絞り、額を手で押さえる。その姿を見て、雅冬は短いため息をついた。


「元々、お前らはお互いのことを知らな過ぎだと思うんだよな。俺みたいな第三者からしたらそんなんでよく思い切れたとな、いうか……本当に気持ちだけでやってきてると思う」

「はは。正論過ぎて返す言葉もないよ」

「笑いごとじゃないぞ。まぁでも……だからこそ、振り出しに戻るのもアリだと思う。今まで知らなかった側面を知ることができるかもしれないし」


彼なりにフォローを入れてくれてるようだ。それが分かり、宗一はわずかに笑みをこぼした。

白希の身に何が起きているとしても、自分の意志は変わらない。初めて会った時のあの少年のままだとしても、時間をかけて同じ景色を見ていくつもりだ。


また十年ぐらいはかかりそうだけど、構わない。今度は物理的な距離があるわけじゃない。触れようと思えばいつでも触れられる場所にいる。


「話は変わるけど、その羽澤って奴をもっととっちめなくていいのか。白希に何かした可能性もあるだろ」

「……道源は白希を保護しただけと言っていたけど、状況を詳しく知りたいから会うつもりだよ」


先に白希を連れて帰ることができたから、安心してしまったのは事実だ。

もう白希を道源に会わせたくない。だが問題は彼の弟だ。


白希から聞いたが、弟の大河は文樹の友人らしい。

今は白希のバイト先に休みの連絡を入れてるからいいが、このまま関わらずに過ごすのは難しいだろう。

白希は今のバイトを頑張っているし、何より文樹を大切に想っている。


……だが文樹に白希が記憶喪失だと伝えれば、彼に大きなショックを与えることになるか……。


「宗一。眉間に皺できるぞ」

「あ、あぁ」


額を指先で押され、慌てて力を抜く。

「雅冬、いつも迷惑かけてすまないな」

「迷惑ではないけど、驚かされてばっかりだよ。でも乗りかかった船だから、最後まで付き合うさ」

雅冬は立ち上がり、今度は寝ている白希の頬を指で押した。しつこくやったことで、彼はゆっくり目を開く。

「白希、俺はもう帰るから」

「ふえ……泊まらないんですか?」

「うん。だから宗一とちゃんとベッドで寝ろよ?」

彼が優しく問いかけると、白希は小さく頷いた。

宗一は白希を抱き起こし、寝室まで連れていく。ベッドに寝かせた後、雅冬の為にタクシーを呼んだ。

「しっかし、お前が仕事に行ってる間大人しく留守番してるかね? 誰か家で見てた方が良いんじゃないか」

靴を履き、雅冬は肩を竦めて振り返る。宗一は彼の鞄を手渡し、困ったように笑った。

「確かに、好奇心旺盛だからね。でも縛り過ぎるとより悪い方に働く気がするし……当面は様子見するよ」

白希には悪いが、リビングと玄関には見守り用のカメラも設置している。察しのいい彼なら気付いてそうだが。


「それもそうか」


反抗期みたいだなと笑い、雅冬は外へ出た。

「何かあったらすぐ連絡しろよ」

「ありがとう。気をつけて」

軽く手を振り、彼の後ろ姿を見守る。ドアを閉め、深く息をついた。


白希が帰ってきたこと。それだけでも神に感謝しないといけない。

だが自身の至らなさに囚われ、白希の胸中まで読み取ることができない。


夫失格だ。


足音を殺して寝室へ向かう。白希は起きる気配がなかったので、デスクについて静かにダイアリー帳を取り出した。


何だかんだ、戻ってきてから毎晩私の部屋で寝ている。

以前はむしろ恥ずかしがって、全力で拒否していたのに。少し可笑しくて、声もなく笑った。


記憶がなくても、性格が変わっても────根っこの部分は変わってない。

病院で、動揺するおばあさんを見て泣いていた……あれが本当の白希だ。

それにまだ本人も気付いてない。だから涙の理由が分からず困惑していた。

白い紙にペンを滑らし、丁寧に想いを綴っていく。


決して誰にも見せることのない文章。だけど何故か、ずっと昔に書いた便箋を思い出していた。




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