表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
失くしもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/99

#10



恥を忍んで尋ねると、彼は興味津々に食いついてきた。


「手紙? もしかして、宗一に書くつもり?」

「ええ……」


正直に、宿題なのだと話した。ラブレターではないと分かった時の雅冬は落胆していたが、それでも感慨深そうに呟いた。

「いやー、やっぱり意外と女々しいよな、こいつ。結局手紙に戻るのか」

うんうんと一人頷いているが、こちらは全く意味が分からない。すると雅冬は宗一が眠るソファの肘掛けに静かに座った。


「君は宗一と文通をしてたんだよ」


柔らかい髪にそっと触れ、彼は眉を下げた。

もうずっと昔のこと。宗一は、大事な文通相手がいると嬉しそうに言ってきたらしい。

「今の時代にアナログだなぁと思ったけど……本気も感じられるし、悪くないな、って言ったんだよ。そしたら尚さら機嫌良くしちゃって。ちょろいよなぁ」

文通。自分と、彼が?

とてもそんなことをしそうにない。それでも雅冬の話が本当なら、自分達は五年以上手紙でやり取りをしているらしかった。


辺鄙な村にいる、関わりのない少年に嫌々付き合う必要なんてない。繋がりなんて簡単に断ち切れるはずなのに。

じゃあもっとずっと前から、彼は白希に特別な感情を抱いていたということか。


理解したけど、理解したくない……相反した想いを抱えながら、その場に突っ立っていた。

宗一のことを知れば知るほど心が掻き乱される。

どうしよう。────怖い。


急に黙り込んだ白希に気付いて、雅冬は心配そうに立ち上がる。彼の手を引き、代わりにソファに座らせた。

「宗一相手なら、書き方なんて気にする必要はないよ。本当の気持ちを書いてやんな。それが一番喜ぶと思う」

「……」

自分の気持ちもよく分からないぐらいだけど……彼のアドバイスは、素直に受け取った。

ペンと便箋を持ってきて、しばらく考えていたけど、一文字も書けない。段々眠くなって、床に座りこんだ。

雅冬がベッドで眠るように促してきたが、書ききるまでは眠れない。時計と睨めっこしながら、時々宗一の寝顔を眺めた。

ずっとこのまま、彼が眠ってくれていたら……自分も安心して、ずっと傍にいられるのに。





「……あれ?」

宗一が目を覚ましたのは、日付けが変わった時刻だった。

静まり返った室内で、微かな寝息が聞こえる。ソファの上で起き上がり、視線を下げると綺麗なつむじが見えた。

「あらら。白希、こんなところで寝ちゃったのか」

ソファに背を預け、白希は床に座って眠ってしまっていた。宗一にはブランケットがかかっていたが、白希が掛けてくれたんだろうか。

朧気に考えていると、背後から呆れ返った声が聞こえた。


「最初テーブルで寝たのはお前だぞ、宗一」

「雅冬。……ごめんごめん。……色々」


彼を放ったらかしにして眠ってしまったことはもちろん、既に終電もない時間だ。

「今夜は泊まっていってくれ。布団を用意してくる」

「いい、自分でやる。それより白希をベッドに連れてってやれ」

雅冬は席に座ったまま、熱いお茶を飲んだ。


「ベッドで寝るよう言ったんだけど、お前の傍から離れなくてな。警戒心強い猫みたいだよ」

「そう……」


足を床に下ろし、俯く白希を見つめる。その寝顔は以前と同じだ。

「別に私じゃなくても良いんだ。どうも独りで寝るのが怖いらしい」

「へえ。……まぁ、まだ色々不安だろうしな」

前傾になって首を捻る雅冬に、宗一は頷く。そして深いため息をついた。


「白希の前じゃため息も我慢してるのか?」

「もちろん」

「別に良いんじゃないか。“今の”白希は、そういうの気にしないと思うぞ」


雅冬はお茶を飲み切ると、新しく宗一の分も淹れた。カップを手渡し、再びどっかりと腰を下ろす。そして眠っている白希に鋭い視線を送った


「でもな。……何か妙だな」

「何が?」

「十年分の記憶を失くしてるんだよな? ってことは今の白希は十年前の状態。十歳だろ」


宗一は頷く。


「正直、十歳と話してる感じがしない。中身の……精神年齢は以前の白希とそう変わらないんじゃないか」


雅冬はいつもより低いトーンで話し、脚を組んだ。

宗一は瞼を伏せる。彼が言いたいことは何となくだが分かっていた。

不可解故、疑念が強まる。自分も、彼と同じことを思っている。


「……本当に、“ただの”記憶喪失なのか。よく注意した方が良いぞ、宗一」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ