表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
火照る席

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/99

#4



宗一さんは俺の目元にたまった涙を指ですくった。

「……素敵な言葉だ。でもやっぱり、プロポーズ私からしたいんだ。……いいかな?」

もう何度も嗅いだ花の香り。俺の中にしょっちゅう現れる辛いことや悲しいことを優しく包んでくれる。

彼の掌に頬を擦り寄せ、瞼を伏せる。


「白希。私と結婚してくれ」


時々、呼吸の仕方を忘れそうになる。それは死んだように生きていたせいなのか。


それとも、彼が俺を深い水底から引き上げてくれたおかげなのか。……今さら、自分は生きていたんだと、……何度も何度も教えてくれる。


幸せになってもいいのだと。


「はい。……喜んで……っ!」


皆が当たり前のように知ってることも、俺は知らなかったりする。

誰もが幸せになる権利がある。そんなことすら、俺の頭の中には刻まれてなかった。

だけど今日、ようやく自分の手で書き連ねる。


俺も宗一さんも、幸せになるんだ。


「幸せは探しに行くんじゃなくて、私達で生み出すんだよ」


再びベッドの中央に寄り合う。彼の言葉に頷きながら、膝に手を乗せた。


ちゅ、と音が鳴る。一度は結ばれた紐を解き、ガウンをはだけさせる。

思わず空いた手を伸ばしかけたが、その手は掴まれた。


「ですね。俺、宗一さんのおかげで結構体力つきましたもん」

「うーん、事情が事情なだけに手放しで喜べないけど……」

宗一さんは口元を押さえ、俺を抱き起こす。


「……最高な夜がまた更新された。ありがとう、白希」


大きな掌が、俺の熱と、形を確かめる。これはきっと朝まで続く。

「お礼を言うのは俺の方です」

膝立ちし、彼の唇を塞いだ。

「宗一さんといると、幸せになろう、って本気で思えます。ちょっと前の俺なら、そんなこと考えもしなかった」

左手の薬指をそっと撫でながら、彼の前に正座する。

「でも俺ひとりではなくて……絶対、貴方と一緒に幸せになりたい」

「……うん」

世界から外れて生きていた自分と、自ら世界を遠ざけていた彼。対象的な生き方をしていたはずなのに、どうしようもなく惹かれ合った。


もし本当に神様がいるなら、彼と会わせてくれたことにお礼を言いたい。


「私は生涯にわたって君を愛すと誓う」


白いシーツが一斉に宙に舞い上がる。途端に真っ白な布に四方を覆われ、別世界のような景色に狼狽えた。

最初は窓から風が入ってきたのかと思ったけど、そうじゃない。宗一さんの力だ。


シーツの波が自分達を包み込む。まるで空に浮いているような錯覚がした。いつまでも浮かび上がって、落ちない白に手を伸ばす。

「君が私に熱い愛をたくさん届けてくれたようにね」

「……っ」

上手く言えないけど、胸の中が猛烈に熱くなった。

気が付いたら前に傾き、……彼の胸に飛び込んでいた。

以前の自分なら絶対にできなかったことが、毎日一つずつ増えている。その感動を与えてくれたのは宗一さんだ。


「宗一さん。あの、そのっ……あっ」

「あ?」

「あっ……愛してます!」


情けないけど、最後の方は声が震えてしまった。

でも、今度こそ告げた。それなりに大きい声で、はっかりと。


顔を真っ赤にして硬直する白希に、宗一は再び肩を揺らして笑った。

「ごめんごめん……! 良い意味で笑ってるんだよ。あの迷子の子犬みたいな白希が頑張ってるなぁと思ったら、もう微笑ましくて」

「う……! 心配しなくても、もう何回でも言えますよ。本当に想ってることですから!」

嘘。本当はすっごい恥ずかしい。

でも妙な意地が働いて、強い口調で言い切った。

「俺も、この先何があっても貴方を愛すると誓います!」

この前に見たドラマの受け売りになってしまったが、大胆不敵なプロポーズを突きつけた。


宗一さんは微笑みこそ消さなかったけど、ゆっくり頷き、周りに浮かんだスーツを静かに降ろした。最後に落ちてきた一枚を受け止め、俺の頭の上に被せる。


「ここに神父がいたら、誓いのキスを言い渡すだろうね」

「ははっ。ちょうどシーツも真っ白ですもんね」


まるでごっこ遊びだ。子どもみたいだけど、それが最高に楽しくて、彼と一緒に笑った。

もう既に幸せだから、これ以上の幸せを手に入れたらおかしくなってしまう気がする。


そう言うと、彼は「それでいいよ」、と答えた。

「私も同じだ」

彼の鮮やかな瞳に、自分の顔が映る。

呆れてしまうほど希望に満ちて、彼に惚れてる自分がいる。


自覚したところで変われる気もしない。やっぱり俺は、この人が大好きなんだ。


嬉しいことばかりだ。

怖いことしかなかった夜が、彼と出逢ってからは何物にも代えがたい、大切な思い出になっていく。


この夜も鍵つきの宝箱にそっと仕舞った。いつか心が揺れそうになったとき、すぐに取り出せるように。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ