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熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
植え替え

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#11



当事者のはずの俺が一番何も知らなくて、いつも宗一さんがひとりで悩んでいる。

守ってもらってばかりだ。

だけど彼もそれを否定し、俺の額にキスする。


「本当は余川さんや周りの反対を押し切ってでも、もっと早く君に会いに行けば良かったんだ。その後悔はこれからもずっと消えない」

「そんな……宗一さんは関係ないのに」

「確かに、関係ないって言われたら終わりだけど。同じ村で、同じ力を持った男の子のことを気にするのは普通さ」


腰を持ち上げられ、彼の膝の上に乗せられる。少しだけ高い位置から、彼の優しい眼差しを受けた。

「君のことはずっと前から知っていたし、ご両親に大事にされてるんだと思い込んでいた。だからあまり外へ出たがらないのだと……実際はその逆で、過保護どころか虐待を受けていた。何も行動しなかった自分が許せないんだ」

彼の言葉にハッとする。虐待なんて言われると、また一層重たく感じる。

乱暴されたことはないから考えもしなかった。むしろこの力の危険性を思えば、誰にも会わず、閉じ込められるのは当然と思っていたけど。


「宗一さんは、本当に優しいですね」

「普通だよ。もし君が私だったなら、同じように思ったはずだ」


俺が宗一さんだったら。全然思いつかなかったけど、確かに苦しんでる子がいると知ったなら、放ってはおけない。

でも自分が宗一さんの親だったら必要以上に関わらせたくないと思うかもしれないし……それぞれの立場で考えると、本当に難しい。最終的に、力を使いこなせない自分が一番悪いんじゃないかと思ってしまう。


「ううん……全部、俺がしっかりしてれば起きなかった問題なんですよね。諸悪の根源って考えたらすごい罪悪感が……」

「白希は真面目過ぎるんだよ。それが良いところなんだけど」


異常な迷信に振り回される方が問題なのだと、彼は頬を膨らましながらぼやいた。

「君はずっと自分を抑え込んで生きてきたんだろう。でも、もうそんなことしなくていい」

宗一さんはパッと明るい表情になり、指を鳴らした。


「うん、そう。この家の中では好きに力を使いなさい」

「え……え?」


突破な提案に困惑してると、彼は目を輝かせながら人差し指を立てた。

「無理に抑えようとするから暴発するんだ。私もかつて力が勝手に出ないよう意識してたけど、もう出てもいいや、ぐらいに思ったら普通に生活できるようになったよ。そのぐらい自由に考えていいと思う!」

「……」

彼なりに色んな壁や葛藤があったはずだけど、明るく話すものだからちょっと軽く聞こえてしまう。声のトーンって大事なんだな……。

しかし困った。

出てもいいやって思ったら、本当に出ちゃうのが俺の力だ。


ひとりで熟考してると、宗一さんはキッチンからグラスを手にして戻ってきた。

「試しに、このグラスに入ってるお茶を熱くしてごらん」

「ええ! でも、無闇に力を使うのは……」

「力を使っちゃいけない、っていう先入観が強いのも良くないんだよ。別にいくら使ってもいいんだ。何の罪に問われるでもなし、ひとつの特技ぐらいに捉えたらいい」

グラスが目の前のローテーブルに置かれる。

……正確な温度を意識したことはないけど、大体いつも飲むような温度を思い浮かべた。手を翳し、グラスに向かって集中させる。

「どれどれ」

グラスを手に取り、宗一さんは笑った。

「白希にしてはぬるいかもね」

「あ、全然でしたか」

グラスを受け取ると、ほんの少し温まってるだけだった。強過ぎたらグラスを割ってしまうし、加減が難しい。


「宗一さんも、意識的に力を使う時期があったんですか?」

「うん。力を使うことは悪い、と思う時期はあった。でも人前で使う気はないし、自分ひとりの時はいくら使ってもいいと思ってね。買い物する時はいつも荷物を軽くしてたよ」

「あはは、さすがです。俺も、そういう使い方が理想だなぁ……」


ぬるくなったコーヒーを温め直すぐらいの、ささい使い方がしたい。

人を傷つけることだけはしたくないけど、加減を間違えればひどく危険なもの。バランスをとるのが非常に難しい。

「さすがに、家の中はなにかあったら大変なので……さっそく誰もいない河原とかで練習してみます」

そうして、花嫁修業に新たなトレーニングが追加された。

やっぱり家事ができても力のコントロールができないと、日常生活に支障が出る。仕事するにしても、このままじゃとても人と一緒にはいられない。


何日も何日も、人気のない河原でお茶を温める練習をした。すっごく地味だけど、誰にも迷惑はかけないし、力を無理やり抑え込んでた時より調子がいい。

力そのものを悪とし、抑圧的に捉えていたこともいけなかったのかもしれない。宗一さんのアドバイスに改めて感謝して、熱くしたお茶の温度を最大まで下げた。


「ふー……」


対象物がこれほど小さいのに、体力の消耗が激しい。キャップをとり、額に流れた汗をタオルでぬぐった。




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