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熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
植え替え

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37/99

#9




新しい出会いと繋がり。

雑談をして、笑い合って、触れ合う機会も何回かあったけど、最後まで力は働かなかった。


────誰も傷つけなかった。


「……っ」


文樹さん達と別れ、家に帰ってからも、それはそれは落ち着かなかった。

宗一さんが帰ってきてからは、矢継ぎ早に今日のことを話した。初めて同年代の方と連絡先を交換したと話すと、彼は自分のことのように喜んでくれた。


「さすが! 力を制御できたこともすごいのに、友達までできたんだね」

「あ、ありがとうございます」


友達……。

まだそこまでは言えないかもしれない。初対面だし、遊んだわけでもないから。

でも、そうなれたら良いな。嬉しそうな宗一さんを見て、より一層想いが強くなる。

「あ……! それともうひとつ。文樹さんから、結婚してるのか訊かれまして。宗一さんが仰っていた通り、指輪って目立つんですね」

隣りに寄り添う彼の左手に視線を移す。

とても小さなものだけど、強い力を秘めてるんだ。


「そうだね。気になる人がいたら、まず指輪をしてるか見るから。……それはさておき、白希は何て答えたの?」

「えぇ。その……婚約者がいます、と。性別までは答えられなかったんですが」


みるみる声が小さくなる。自信なく答えてしまったけど、膝の上で拳を握り締める。


「ずっとずっと好きだった人……ということは、言ってしまいました」


文樹さんがぐいぐい訊いてくるものだから、途中からはただの惚気けになってしまった。

「俺の話なんて聞いても、つまらないんじゃないかな、ってちょっと心配なんですけど」

「そんなことないよ。その子は、君のことを知りたいから色々訊いてきたんだろう。遠慮しないで、次はもっと教えてあげな」

頭をぽんぽんと叩かれる。

宗一さんは俺の頬を両手ではさみ、額を当ててきた。

「白希には勇気がある。後は自信さえあれば、どんな人とも上手くやれるさ」

彼の言ってることはよく分かる。ただ、自信を身につけるのが一番難しい。


自尊心は一朝一夕で育つものじゃない。

目の前にいる宗一さんは最高のお手本だけど、彼の行動や言動を真似たところで、俺は俺のままだ。ひとりになったときに羞恥心で爆発するに決まってる。


「……自分のことは誇れなくても、俺にとっては宗一さんが誇りだから。宗一さんと一緒に過ごすことが、一番の自信に繋がります」


手は膝に乗せたまま、顔だけ彼の方へ向けた。

誰かに言ったら呆れられてしまうけど、これまでは外出も一人でできなかった。けど今日無事に行ってこられたのは、宗一さんが背中を押してくれたおかげだ。


「白希は本当、無自覚で褒め尽くすんだからな。反則だよ」

「わっ」


頬を指で押され、思わずよろける。

「私も別に、自分が誇れるような人間とは思わない。むしろその逆……でも君にそこまで言われたら、本気で自惚れてしまいそうだよ」

「自惚れなんかじゃないです。宗一さんは俺の理想で、世界そのものですよ」

目を逸らさずに答えると、彼は露骨に頬を赤らめた。

「最近、可愛い台詞に磨きがかかってるっていうか……とにかく今すぐ抱き締めたい感じなんだけど、いいかな?」

「何ですか、ソレ」

可笑しくって吹き出した。多分、宗一さんの方がずっとピュアだと思う。いつも超然としてるイメージだったけど、案外よく照れるし、表情も感情も豊かだ。

やっと“素”の彼を見せてくれてる気がして、正直すごく嬉しい。


もっと色んな宗一さんが見たい。


腰を少し浮かして、彼の柔らかい髪をそっと撫でる。

「白希は自分を過小評価してしまいがちだけど。君は自分が思ってるよりずっと大人だ」

彼の髪から手を離すと、今度は彼に抱き寄せられた。


「私は君に救われた。君の想いが込められた手紙がなかったら、本当に退屈な毎日を送ってたよ」

「……もしかして、私の手紙をまだ持ってるんですか?」

「もちろん。全部大事に保管してる」


宗一さんは立ち上がり、どこかへ行こうとしたけど、途中で引き返した。

「見せようと思ったけど……やっぱりやめよう。白希はすぐ恥ずかしがるから、捨ててほしいと言ってきそうだ」

「う……!」

図星だ。十年前に書いた手紙なんて、絶対正視に耐えない。目の前にあったら彼が止めてもビリビリに破こうとするだろう。


当時は宗一さんに飽きられないよう必死だったし、とにかく重い好意を書きなぐってた気がする。全然思い出せないけど、子どもの頃の病んだ自分を思うと目眩がしそう。


「そ、宗一さん? せめて、俺が求婚してきた、っていう手紙を見せてもらえませんか?」

「うーん。あれが一番宝物だからなぁ……可哀想だけど、朗読で我慢してくれ」

「朗読はしなくていいです!」

「遠慮しないで。何度も読み返したから、一字一句違えずに言えるよ」

「駄目駄目! その記憶は削除してください……!」


近くへ寄ってお願いするけど、彼はどうしよっかなーと言ってコーヒーを入れ始めた。絶対俺をからかって楽しんでる。変なところで意地悪なんだから……。


愛の手紙は爆弾と同じだ。あれのおかげで宗一さんと繋がれたけど、内容は本当に痛い。気分的には吐血できそうだ。

それに、冷静でいられない理由はもうひとつある。


「俺も宗一さんの手紙は大事に仕舞っていたのに……あの火事で全てなくなってしまいました。本当に申し訳ないです」


彼との手紙が一番の宝物だった。初めこそ母に言われて送ったものだったけど、彼の返事が唯一の楽しみになって、生きる意味に繋がったんだ。

左手を押さえながら零すと、目の前にホットミルクが入ったコップを差し出された。


「今はこうして、毎日顔を見ながら話せる。今の君に手紙は必要ないよ」


彼は悪戯っぽくはにかむ。

「内容は忘れても、その時抱いた感情は覚えてることが多い。君が私をすんなり受け入れてくれたのも、私との文通が楽しかったからじゃないか……って勝手に解釈してたんだけど、合ってるかな?」

眩し過ぎる笑顔に見惚れながら、慎重にコップを受け取った。


「ご想像通りです」


笑って返すと、彼も嬉しそうに微笑んだ。

彼とは文通友達。それだけの関係なんだけど、いつしか俺の方が耐えられなくなったんだ。

この狭い箱から飛び出して、外の世界を教えてくれた宗一さんに会いたい。その一心で手紙を書いていた。時が経ち、便箋が増えるほど、その想いは強くなった。


「実は……初めは母に言われて書いたんです。あの頃はまだ宗一さんは村にいたから、繋がりを得ようとしたんでしょうね」




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