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熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
植え替え

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36/99

#8



「え?」


声の方に振り返ると、住所変更の時に会ったおばあさんが後ろで手を振っていた。まさか彼女の方も覚えていてくれたなんて。

「お久しぶりねぇ。お元気?」

「お久しぶりです! はい、とても」

笑顔で返すと、彼女の隣にひとりの青年が立っていることに気付いた。息子さん……にしては歳が離れすぎている。

白希と変わらない外見の為、関係を推し量っていると。

「良かった~。あ、こっちは孫の文樹よ。私達これから休憩しに行くところなんだけど……もし良かったら、お兄さんも御一緒しない?」

「えっ? いえいえ、そんな。突然悪いです」

「全然、むしろ来てくれたら嬉しいのよ。あ、でもご用事があったかしら?」

「よ、用事はないんですけど……」

会ったのは二回目で、名前も知らない。そんな人間と突然一緒に行動をとられても、このお孫さんも困るだろう。

言葉を濁しながら穏便な断り方を考えていると、お孫さんの方が口を開いた。


「ばあちゃんに絆創膏をくれた、って人ですよね。ありがとうございます。ばあちゃんはそそっかしいから、今日もボランティアについてきたんですよ」

「あはは、そうそう。この役所の周りにあるお花の植え替えをしてたんだけど、今日も怪我しちゃってね。ねぇ、用事がないならお茶だけでもご馳走させて。文樹、この近くに美味しいパフェのお店があるんでしょ?」

「あるけど、この人が甘い物好きじゃなかったら微妙じゃない?」


最初は微笑ましい気持ちで二人の会話を見守っていたが、おばあさんは俺の手を取って歩き出してしまった。

「とりあえず喉乾いたから早く行きましょ!」

「ばあちゃん、それほとんど誘拐……」

ひええ。

どうしよう。ほぼほぼ初対面なのに。


ていうかやばい、手……!

おばあさんと繋いでる手に神経が集中した。

今力が働いたら本当にやばい。無理に振り払うこともできないし、絶対に抑えなきゃ。

今日一日分の手汗を出したものの、何とか目的の店まで問題なく辿りついた。


「自己紹介が遅くなってごめんなさいね。私は時原きみこ。こっちが孫の」

蜂須賀文樹(はちすかふみき)です。宜しく」

「よ、余川白希です。ふぅ……宜しくお願いします」


かなり体力を消耗し、息切れを起こしてる。悟られないように頭を下げると、きみこさんは「やっぱり礼儀正しい人ね」と笑った。

「文樹と同じぐらいなのに、すごく上品で大人だわぁ」

「いえいえ、そんな。文樹さんの方がずっと大人っぽくて、落ち着いてますよ」

聞けば、彼は二十。見事に同い年だった。

今は大学三年生で、楽器屋でバイトをしているらしい。綺麗な黒髪で、目を見張る美形だ。宗一さんも人形みたいに整った造形をしてるけど、この人は儚い印象だった。


文樹さんは休みの日に、時々きみこさんのボランティア活動に付き合ってるらしい。

大学生なら忙しいだろうに……おばあちゃん想いの優しい人なんだな。


とは言え、とにかく力が働かないように意識した。お冷を持つ時も、メニュー表を持つ時も、ひたすら無心を心掛ける。昨日の二の舞にならないように。

「あ、ていうかここ抹茶専門店なんだけど……抹茶とか平気?」

「ええ、むしろ大好きです。小さい頃はよく自分でも茶を点てていたので」

「やば、しぶいな」

露骨に驚く文樹さんの隣で、きみこさんが笑った。

「茶道をやってらしたの?」

「いえ、そんな真面目なものでは……簡単な作法だけです」

少しして運ばれてきた抹茶のパフェは、すごいボリュームだった。よく分からないから二人と同じものを頼んだけど、こんなの食べ切れるだろうか?


と思ったのは、杞憂だった。白希は一番早くに食べ終え、スプーンをナプキンの上に置いた。

白玉も美味しいし粒あんも美味しいし。こんな美味しいスイーツが世の中には溢れてるんだな……感動だ。


「余裕じゃん。もう一個食べる?」

「あっ! もう大丈夫です、ご馳走様でした!」


文樹さんの提案に、慌てて首を横に振る。きみこさんはずっとここのスイーツを食べたがっていたらしく、満足そうだった。

「美味しかったです。俺まで御一緒させていただいて、本当にありがとうございます」

「いーや、むしろ無理に付き合わせて悪いね。ウチのばあちゃんマジで人さらいの気があるからさ、この前も小さい子に話しかけてジュース買ったげたり」

「人聞き悪いわねえ。白希さんにはずっとお礼がしたいと思ってたんだよ」

二人の掛け合いは見てて面白い。宗一さんと雅冬さんの会話を思い出した。


「……っていうか気になってたんだけど」


口元をナプキンで拭いてると、文樹さんは頬杖をつき、こちらに手を伸ばしてきた。


「もしかして結婚してる?」

「うわっ!」


左手を持ち上げられ、その場で飛び上がる。触られることに極端な反応を示してしまい、文樹さんも目を見開いた。

「あ、ごめん。触られんの嫌なタイプか」

「こら、文樹! 失礼でしょう、触る前に一言言いなさい!」

「いや、ばあちゃんこそさっき何も言わずにぐいぐい手引っ張ってたじゃん……」

二人が話してる間も、滝のような汗が流れる。

本当にまずい。力が働いたらどうしよう。


不安は高まる一方だけど、何も起きなかった。熱くもないし冷たくもない。

……大丈夫そうだ。

まだ文樹と手が触れているが、心拍数は徐々に戻っていく。昨日の状況とは全然違うって、何故か確信していた。


「ほら、指輪してるから」

「あ、その……! 結婚はまだなんですけど。婚約してる人がいます」


そう答えた途端、顔が熱くなった。

人に話すと改めて重みを感じる……。


きみこさんは間髪入れず、おめでとうと手を叩いた。横にいる文樹さんは興味深そうに指輪をつついてくる。

「相手可愛い子?」

「え。あ、ええと……」

それに答えるのは逡巡した。女の子じゃなくて、相手は歳上の男の人なんだよなぁ……。


まだまだ同性婚は珍かだ。

こういう時、機転もきかないし口下手で困る。何も言わず、こくこくと頷いた。

「ヒュー、幸せだね。二十歳でするぐらいだし、結構稼いでんの?」

「いえ、俺は無職です。いずれは働こうと思ってるんですけど……」

今は相手に養ってもらってることを伝えた。隠しても仕方ないし、自分より少し歳上なことも話した。


「歳上の相手が稼ぎ頭って理想だよ。はぁ~、俺も頑張って就職前にお嫁行っちゃおうかな」


ため息をついて呟いた文樹さんの頭を、きみこさんが手加減なく叩いた。俺はどっちをフォローしたら良いんだろう……。

「いって……。でも俺彼女いないし、間違いなく人生の先輩だよ。良かったら連絡先交換しない?」

「は、はい。喜んで」

「ははっ。何か君、面白くて好きだわ。宜しく、白希」




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