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【BL】熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
二十歳の青年

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3/17

#3



「すごい……」


翌日、白希は感動のあまり身体を震わしていた。

テレビのチャンネルがこんなにもあるなんて。真岡が持ってきてくれたカード?とかいうものを挿したら、さらに色んなチャンネルが見られるようになった。アニメばかり流れてたり、動物の生態が詳しく説明されてたり、ドキュメンタリーも多種多様だ。

もし自分の部屋にテレビがあったら、一日中見ていただろう。そして一日なんてあっという間だっただろう。


目を輝かせながらリモコンを置き、部屋の中を見回してみる。

個室で、他に患者は誰もいない。

同じ階には他にも大部屋がたくさんあって、賑やかそうだ。そっちに行きたいけど、ここにいるのは治療に来てる人達だから……あまり積極的に関わったら迷惑になってしまう。とりあえず大人しくしていよう。


そう思いつつも、目新しい発見ばかりでウズウズする。

テレビの横にある謎の機器とか、アルコール消毒とか、お見舞い品のお菓子とか。そんな小さなもので心が踊る。


家を失い、家族が行方不明。私が外の世界に出てしまったことも大変な事態だというのに……。


緊張感より高揚感の方が高くなってしまっている。

窓際に寄り、パイ生地をチョコレートで包んだスティック状のお菓子を食べた。

「……っ!!」

その美味しさと言ったら……。軽く立ちくらみするほどだ。甘くて舌の上でさらりと溶ける。筆舌に尽くし難い。


こんなに美味しいものが存在するなんて……やっぱり、世界は広い。


菓子箱の裏を見て製作所の住所を確認していると、ドアをノックする音が聞こえた。入ってきたのは、昨日と同じ真岡だった。

「白希様、おはようございます。よく眠れましたか?」

「お、おはようございます。ええ……とても」

お菓子を置き、慌てて頭を下げる。

「退院の手続きをしてきました。こちらの服に着替えてください。外に車を用意してます」

「は、はぁ……」

何だかお高そうな黒い手提げ袋を渡される。そこには男ものの洋服が入っていた。

「私は廊下に出てますから、着替え終わったら声を掛けてくださいね。では」

そう言うと彼は廊下へ出て行ってしまった。


「……」


何だかあれよあれよという間に事が進んでる気がする。

かといって動かない理由にもならない為、用意してもらった服に着替えた。

初めての患者衣にも中々興奮したが、今回の感動はそれをさらに上回った。

「これでいいのかな……?」

高そうなズボン、シャツ。腕時計まで入っていたから、一応つけてみた。


物心ついた時からずっと着物だったから、洋服の着心地に違和感がある。でも、すごくいい。まるで普通の人みたいだ。って、それもちょっと変か。


洗面台の鏡の前で自分の姿を凝視する。思わずぼうっとしていたが、ハッとして部屋を出た。

「真岡さん! 申し訳ありません、お待たせしました……!」

慌てふためいて身を乗り出すと、真岡は手に持っていたメモ帳を仕舞い、顔を綻ばせた。

「全然待ってませんよ。それよりとてもお似合いです」

「そうでしょうか。変じゃありませんか?」

「とんでもない。着丈もぴったりですが、見事に着こなしておられますよ」

部屋の中をざっと整理し、真岡に連れられて一階へ降りる。


「ありがとうございます。でも、その……どうしてここまでしてくれるのですか? この服や時計もすごくお金かかりましたよね」


受付で、真岡と事務員のやり取りを眺める。自分ができることは何もなく、淡々と支払いの話を拾っていた。

「私は家もお金もなくて……お恥ずかしい話、仕事もしたことがありません。お世話になった分を返していきたいけど、すぐにはとても……」

「ご心配なく。白希様のことは、全て宗一様が預かるおつもりですから」

「え」

宗一?

その名前は嫌というほど知っている。だけど、まさかここで聞くとは思わなかった。


「宗一さん……に会えるんですか? いや、それより私を助けてくれたひとって」

「ええ。水崎宗一様です」


病院のエントランスを抜け、目の前のタクシー乗り場に進む。

その時、足元に落ちていたジュースの缶に気付かず蹴ってしまった。

急いで拾い上げたが、その瞬間、火傷しそうなほど缶が高温になった。

「あつっ!」

驚き、思わず手を離してしまう。そのせいで運悪く、缶は目の前の道路に転がっていってしまった。

あんなところに放置するわけにはいかない……。駆け足で缶を取りに行こうとした時、

「白希様! 危ない!」

背後から真岡の叫び声が聞こえた。

え、と思って横を向いた時、車の大きなボンネットが見えた。


────これはまずい。


今度こそ駄目だと思い、衝撃を想定して瞼を伏せる。

身体が宙に投げ出されるイメージをしたけど、いつまで待っても車と接触しない。

ブレーキが間に合ったんだろうか。安堵して瞼を開けると、目の前の車は不自然に浮いていた。

と言うのも、前方だけだ。後輪はちゃんと地面についている。まるで自転車のウィリーみたいな状態で、ドライバーも目を丸くしていた。


「ふう。危なかった」


低いが剽軽な声が聞こえた時、車はゆっくり下におり、前方も地についた。ドライバーが慌ててブレーキを踏んだのが分かった。


「あ……」


速すぎて反応できずにいたが、あの火事のときのように、誰かに抱き寄せられている。

淡い髪と、大きな背中に目を見張る。自分の前に現れた青年は、前に翳していた手を下ろし、にっこり微笑んだ。


「迎えに来たよ。さぁ、今度こそ私の家に帰ろう」




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