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熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
植え替え

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#1




「宗一さん、珈琲か紅茶飲みます?」

「あぁ、お願いしようかな」

キッチンで彼のお気に入りのカップを取り出す。

宗一さんもやってきて、飲み物を選び出した。

「もう寝るだけだし、紅茶にするよ」

「わかりました」

せっかくだから茶葉から美味しく入れる方法を調べよう。香りを飛ばさない入れ方、というのも役に立ちそうだ。宗一に教えてもらった方法でブックマークし、画面を見ながら用意する。

耐熱のガラスポットにお湯を入れ、先に少し温める。


「……宗一さん、紅茶の種類は」


何にしますか。そう言おうとして振り返ったら、唇が重なった。

白希が振り返ることを想定していたように、彼は屈んでいた。

静かな時間が流れる。ばっちり目を合わせたまま、動けなかった。彼があまりにも落ち着いていたから……動揺してる自分がおかしいような気にさせられる。

多分、そんなことないのに。


「……っ」


彼があまりにも堂々としてるから、恥ずかしがってることが恥ずかしくなる。俺ばかり混乱するのもちょっと不公平だ。


「……キスはしないって言ったのに」

「うん? 今のは事故だろう。何なら君の方からしてきたんだ」


悪びれずに答える彼に、遅れて反発心が芽生える。

「宗一さんはズルいです」

「ふふ。逆に、そんな良い大人だと思ってた?」

宗一は首を傾げ、可笑しそうに笑った。

「実際に会ってみないと分からない。話してみないともっと分からない。人間はそういうものだ」

「……だから、もっと警戒した方がいいと?」

「察しがいいね。その通り」

棚に背を預ける白希を挟み込むように、宗一は両手をつく。


「白希は簡単に悪い人に食べられちゃいそうだから、ここで少し自己防衛を学んでほしくてね。私なりのレッスンだよ」

「宗一さんなら絶対大丈夫って思ってますから、警戒しようがないです。レッスンになりませんよ」


下に屈んで、彼の腕の中からすり抜ける。どんな時でも、冷静になれば突破口があるものだ。

「会ってみなきゃ分からないのは、その通りだと思います。でも俺の場合は、会ってみたら想像していた以上に優しい人だったんです。好きにならない、わけがない」

警戒なんてできない。

俯きながら、だけど笑いながら零した。

本人を前にして大胆過ぎる告白だと思ったけど、彼が普段仕掛けてくる甘い罠に比べれば大したことない。

口にすることで頭の中も整理できるし、自分の本心に気付くこともできる。


暗いことは隠しておきたい質だけど、明るいことは何度でも言いたいし、伝えたい。せっかく自由なんだから。


少々手持ち無沙汰で指を折ったり曲げたりしてると、宗一は棚から茶葉が入った袋をとった。


「強いて言うなら、そういう純粋なところが危なかっしいんだけどね。可愛いから、何かどうでもよくなっちゃった」

「そんな……女の人ならともかく、俺のどこか可愛いんですか」

「可愛いよ。昔の小さな君も、私に愛の手紙を書いていた君も、不安ばかり抱えてる君も。……少しの間に成長して、自分の意志を伝えられるようになった君も、本当に可愛くて愛しい」


宗一は懐かしそうに目を細め、アールグレイの袋を白希に手渡した。条件反射で袋を開け、空になったポットに茶葉を入れる。

「そんな風に言ってくれる人、今までひとりもいませんでした」

だからやたらと顔が火照るんだろうか。困り果てながら、沸いたお湯を入れた。


「つまり私が君の初めてということか。いいねぇ。いっそ全部独占したい」

「そ、それなら俺も……!」


俺も、彼の初めてを勝ち取りたい。勝負するようなものじゃないけど、好きな人の視界に入りたいと思うのは自然なことだ。

あぁ……。


というか、もう俺はとっくに認めてるんだ。


宗一さんが好き。大好き。


ならもう、彼に相応しい人間になるしかない。


「今は全然、駄目な人間だけど。……努力します。貴方の、つ、妻になれるように」


顔から火が出そうなほど恥ずかしい台詞だ。さすがに目を合わせることができない。

でも大事なことだし、ちゃんと目を見て言うべきだよな。失敗した……!

なんて色々考えてる隙に、額にキスされた。


「今の台詞は、もう結婚承諾として受け取っていいかな?」

「いえ! 俺からのプロポーズ。の、予行練習。……です」


言葉を濁しすぎて訳が分からなくなった。

状況を整理すると、彼のプロポーズに答える前に自分からプロポーズした。それも、“いつか”という不確定なもので。


「まだ普通の生活すらできない俺が、結婚生活に馴染めるとは思えないんです。だから先日お話したように、先ずは家事を完璧にこなしてみせます! それを見て、他にも色んなことを考慮した上で、ご判断ください」

「わ、急に面接官みたいになったね」


ちょっと違うと思ったけど、宗一さんは納得したように手を叩いた。

「私は白希が家事をできなくても構わないんだけど」

「駄目です、甘やかしたら! もっと厳しくしてください!」

「うん。そう言うから、楽しみにしてるよ。でも私の為に努力しようとするなんて……それだけで幸せ過ぎるけどね」

ポットに入った茶葉が、熱に浮かされる。透明だったガラスがどんどん濃い色に変わっていく。

人の心も、こんな風に視認できたら分かりやすいのに。


いっそ幸福指数が目に見えたら嬉しい。喜んでる宗一さんを見たら、自分も幸せになれる。


本当はもっと触れたい。ストッパーがあるからそうしないけど、理性や常識を捨てていいのなら間違いなく俺の方から動いてる。




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