#10
頭も身体も痛い。
目を覚ました先にはいつものように天井があると思った。ところが瞼を開けてみると、目の前に現れたのは襟元、それに真っ白な胸で。
「…………」
柔らかいシーツに埋もれる自分を抱き締める存在がいた。
「宗一さん……」
白希は宗一のベッドで、宗一に抱かれながら眠っていた。
張り詰めていた糸が切れて、寝落ちしてしまったらしい。
今が何時か分からないが、随分寝ていた気がする。
目の前の彼も今はかすかな寝息を立てており、目を覚ます気配はない。
この体勢だと彼の胸を凝視してしまう。少し視線を外そう。
そう思って首元を見ていたが、視線は段々と上へ流れた。
よく白希のことを肌が白いと褒めているが、彼も負けず劣らず色白だ。透明感とハリがあって、男性の肌とは思えない。きっと普段からボディケアに気を遣ってるんだろう。実際、押し倒されてる時もずっと見惚れていた。雄々しくて逞しくて、相手を魅了する色気を含み持つ、美しい青年。
────なんて呑気に思い出してる場合じゃない。本当に大変なことをしてしまった。
現実……というより我に返る。心機一転、生活を立て直とそうと決めた夜に、力を暴走させてしまった。
申し訳なくてまた気を失いそうだ。けど、自分でも分からない。何であんなに我慢できなくなったんだろう。
最低。
でも宗一さんのことが好きなのは本当で。離れたくないし、ずっとこうしていたい。もっと彼に触れたい。
あああ、何考えてるんだ……!
自己嫌悪で狂いそうになる。悶々としながら頭を押さえると、宗一はゆっくり瞼を開けた。
「おはよう。身体は大丈夫?」
「宗一さん……」
こんな時まで身体の心配をしてくれることに、有り難さと罪悪感が込み上げる。
「大丈夫です。それより本当にごめんなさい……!」
パニックに陥ったことはもちろん、彼にキスをしたことも。謝罪だけじゃ済まないかもしれない。そう思って震えたが、宗一は静かに首を横に振った。
「それは私の台詞だ。無理やり寝かせてごめん」
シーツの中で、互いの脚が触れる。
「でもこれ以上なく幸せな夜だったよ。やっと、君から私にキスしてくれたから」
右手の指を絡ませ、手を握られる。横向きで向かい合っていたが、昨夜と同じくまた押し倒されてしまった。
真上に宗一が覆いかぶさってくる。
「こうすると特に、君の強い想いが流れ込んでくる」
繋がった自分達の手を、彼は愛しそうに口づける。
しかし、彼の台詞には違和感を覚えた。甘い例え話ではなく、彼は本当のことのように話し、胸を押さえたからだ。
「それは……どういう意味で」
問いかけている最中だったが、その先は封じられた。
「んっ、ん、ふ……っ!」
また、貪るような口付けが始まる。
まずい。“これ”だ。こうなると理性が弾け飛んで、後先考えず彼と沈みたくなってしまう。
その証拠に突き放すどころか、彼の腕を強く掴んでいた。
彼から与えられる熱は、我を忘れさせる。どうしようもなく気持ちいい。この感覚を知ってしまった以上、もう自分の力で抗うことは不可能だった。
「はぁ、はぁ……っ」
息ができなくなると頭がぼうっとする。それが快感に落ちる前段階なのかもしれない。
口端から零れた白希の唾液を、宗一は指で拭いた。
「不思議なことに、目を閉じても、耳を塞いでも君を感じるんだ。こうして触れてる間は、君の感情がよく読み取れる。同じ力を持つ者同士の特徴なのかもね」
今度はもう片方の手も繋ぎ、宗一は長い睫毛を揺らした。
好きという気持ちが最大まで膨れ上がって、何としても手に入れようとする。
「君はこの力を憎んでるだろう。私もそうだった」
手に力が入る。
「だけど唯一良かったことは、君の気持ちを全身で感じられることだ。深いところまで触れ合って……言葉にできないことは、こうして聞き出していく。狡いかもしれないけど」
宗一は白希の首筋に何度も口付けた。
「白希は恥ずかしがり屋だからね」
「そんな……普通ですよ……っ」
好きとか、大っぴらに言えることじゃない。だって、それはもう“告白”になってしまうから。
その言葉を口にすることがどれたけ凄いことか、完璧な彼には分からないのかもしれない。勇気はもちろん、覚悟やプレッシャー、責任を背負うことになる。
だが自分には、たくさんのものを抱える自信がない。彼のことが好きだけど、幸せにできるか分からない。
むしろ傷つける可能性の方が高いんだ。さっきみたいに力が暴走したら……彼を傷つけたら、それこそ再起不能になる。




