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【BL】熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
奇な糸

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25/25

#9




「……?」



ドアを閉め、鍵をかけた宗一は違和感を覚え、動きを止めた。異様だ。まるで、家の中の空気が振動してるよう。


「白希?」


足早に寝室へ向かう。予想通り、そこに白希がいた。


だが床に座り込み、俯いている。

一体どうしたのか。確かめようと近付いた時、ベッドサイドに置かれた小型の加湿器から鈍い破裂音が鳴った。クリア素材だから分かったが、中に入った水がボコボコと沸騰し、上部に開いた口から吹き零れている。それはおさまるどころか激しくなった。


「はぁっ……は、あ……っ!」


胸を押さえて苦しみ出した白希の元に駆け寄る。

「白希!! 大丈夫!?」

少し離れていただけなのに、何がトリガーになったんだ……?


彼が暗い記憶を彷彿とするような物は置いてないはずだ。

原因不明の事態。とうとう高熱に耐えられなくなり、加湿器が破裂した。

座位を保つことができなくなり、白希が倒れ込んでくる。

「白希、大丈夫だから落ち着いて。ゆっくり息を吐くんだ」

呼吸数が異常なのは明白だ。恐らく過呼吸を起こしている。

すぐにおさまる様子じゃない。キッチンにあるビニール袋を取りに行こうとしたが、シャツを掴まれた。

どこまで意識がしっかりしてるのか分からないが、彼は息も絶え絶えに呟いた。


「宗、一さん。……いかないで……っ」


白い肌に雫が零れ落ちる。

それを目にしたとき、ずっと守っていた一線を越えていた。

「……ごめんね。これはノーカウントで頼むよ」

白希の胸に手を当てたまま、唇を重ねた。


「んう……っ!!」


荒療治じゃ済まないし、彼の気持ちを裏切る行為だ。

だけど、今彼から離れることなんて絶対にできない。苦しげにもがく白希を押さえ、熱っした息を交換した。

腕を掴む手に力が入り、軽く引っ掻かれる。それでも構わず、宗一は白希の顎を押さえた。


時針のない部屋では、一秒すら長い。どれだけの間そうしていたか分からないが、白希はようやく瞼を開けた。

「はぁ……っ」

その顔は、可哀想なほど涙でぐしゃぐしゃだ。加えて、口も。


離れる際、互いの口を淫らな糸が引いた。

「白希……んっ!」

大丈夫か訊こうとしたものの、今度は彼の方から唇を塞がれる。熱を求めているが、それを上手く伝えられない、つたないキスだった。


「はぁ、は……はは。じゃあ……今のも、ノーカウントですよね?」


白希は唾液でぬれた口元を袖でぬぐい、したり顔で笑った。

悪戯した子どものような、あどけない笑顔。それを見た途端、こっちまで胸が苦しくなった。

「……残念だけど、今のは適用できないね」

「何でですか。お返しにしただけですよ」

「全く。良い子だと思ったけど、案外悪い子なのかな」

床に片膝をつき、顔を近付ける。

全力で突き飛ばしてくれていい。そう思ったのに、白希は動かなかった。


このままじゃまた触れてしまう。白希のやわな心が溶けてしまう。

いや……。


溶けてるのは自分の方か。


既に沸騰した頭は、自分の体温も分からない。唇を重ね、激しく求め合った。

柔らかいが弾力のある唇。ぬれた舌。全てが初めてのはずなのに、ずっと昔から知っていたような安心感がある。


白希は宗一の膝の上に乗り、彼の唇を必死に求めた。


大事に守っていた糸が切れてしまった。

欲に負けて彼にまたがるなんて、あってはならないのに。


自分から触れてしまった。これは絶対スキンシップなんかじゃない。全然“足りない”んだ。身体の中にたまった熱を発散したくて仕方ない。


「宗……んっ!」

「他人をいじめる趣味なんてなかったんだけどね。ここまで私の加虐心を引き出す君は、本当に罪な子だよ」


宗一は白希を抱き上げ、ベッドに寝転がせた。キングサイズのベッドは、男二人で寝転がっても存分に余裕があった。




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