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【BL】熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
奇な糸

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23/25

#7




「……っ」


食事が終わり、歯を磨いてる最中も宗一の台詞が頭から離れなかった。


『君を迎え入れる準備はできてる』。


────あとは君の心の準備だけだ。

彼は席を立つ際にそう零し、白希の片手にキスした。


あんなこと、生きてる間に言われるとは思わなかった。

やっぱり宗一さんは経験豊富で、今までもたくさんの人を口説いてきたとしか思えない。


でも、これまでもこれからも俺のことしか愛する気はないと豪語している。謎だ。

口をゆすいで照明を消す。廊下へ出ようとした時に段差があったことを忘れていて、思いっきり転んでしまった。


「白希? 大丈夫!?」


尻もちをついた音が響いた為、宗一が顔面蒼白で駆けつけてきた。何とも情けないことでお騒がせしてしまった。申し訳なくて、そのまま土下座の体勢に移行する。

「すみません、大きな音を立てて。……下の階の方にも響いたはずです」

「それは申し訳ないけど……怪我はないかい?」

廊下の明かりを点け、宗一は白希のズボンの裾を捲りあげた。

「わわ。大丈夫ですよ、ちょっと倒れただけですから」

「不安だな。白希は細いから、骨折とかしてそうで」

求婚から一転、お年寄り扱いだ。

でも確かに、否定はできない。何年も日に当たってないし、運動してないし、そんなに栄養あるものも食べてこなかった。

でも痛みはないから捻挫どころか擦りむいてもいないだろう。宗一を安心させようと顔を上げた瞬間、……視界が急上昇した。


「ここじゃよく分からないからベッドでちゃんと見る」

「いやいやいや! 宗一さん!? ちょ、下ろしてください……!」


昨日の危機再来。また体重を調節され、抱き抱えられてしまった。

ていうか重量調節なんかしなくても、彼なら俺を軽々と持ち上げられそうだ。すごく鍛えてらっしゃるし。

色々考えてる間に寝室に連れてかれ、手のひらや膝などボディチェックをされた。


「……うん、見た感じはどこも怪我してないね。良かった」

「大丈夫ですよ。それに俺は男ですから、ちょっとぐらい怪我したって」


問題ない、と言った直後にズボンをずり下ろされた。

「わわわわ! やだ、何すんですか!」

「よく考えたら、一番打ったはずのお尻を見てないだろう?」

「怪我してませんよ! 命懸けます!」

何でこんなことに命を懸けないといけないんだ。と思ったのも束の間、下着まで引き下ろされた。

「OK、いつも通り綺麗だ。痛みはない?」

「ありません……」

むしろ心が痛みます。


泣きたくなったけど、おしり丸出しの方が辛いので衣服を整える。

顔が赤いせいで熱があるんじゃないかと言われた。どう考えても全部羞恥心によるものなのに、宗一さんは変なところで天然だ。


「心配してくれるのは本っ……当に有難いんですけど、何だか宗一さんの心臓にも良くない気がします。一旦落ち着いてください」

「そうなんだけど、白希が怪我したらって思うと気が気じゃないよ。こればかりは頭で分かってても駄目で……心の問題だな」


そう言うと、彼は叱られた子犬のようにしおれてしまった。可哀想でこれ以上は言えない……。

「すみません。そもそも俺が転んだのがいけませんよね。気をつけます」

「いや、注意してたって怪我はするさ。白希は悪くない」

体育座りから正座になり、彼の言葉に頷く。

「そういえば……今日、宗一さんに頂いた絆創膏が活躍しました」

役所にいる時、指を切ったおばあさんに絆創膏を渡したことを伝えた。彼は終始真剣な表情で聞いた後、強い力で抱き締めてきた。


「そのおばあさんの言う通りだよ。白希は本当に良い子だ」

「そんな、宗一さんのご配慮の賜物ですよ。……ただ、おばあさんの言ってたことが印象的だったんです。同じ場所にずっといることなんて、人間である以上不可能なのかも、って」


宗一と向かい合わせになりながら、力を抜く。彼の胸に顔をうずめた。優しい力で頭を撫で、宗一は小く呟いた。

「確かにね。誰もがいずれは老いて、自分の力では生活することが困難になる。……それでも帰る場所があるというのは恵まれてる」

「ですよね。……だから、俺も今とても幸せです」

両手を持ち上げ、恐る恐る前に伸ばす。何度も躊躇したが、やがて大きな背中を抱き締めた。


「今日も、必死に手続きしてる間は大丈夫でした。でも手持ち無沙汰になって、じっとしてる時はすごく不安で……早く宗一さんに会いたいと思いました」

「それは本当?」

「えぇ。真岡さんのおかげで乗り切れたんですけどね。俺ってやっぱり、まだまだ子どもみたいです。ごめんなさい」


不安が高じて、無意識に彼のことを思い出していた。早く帰りたいというのは、早く安心したいということ。

宗一の変わらない笑顔を見て、癒されたかった。




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