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【BL】熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
二十歳の青年

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15/17

#15



「あの村で自分を殺した分、君は私に愛されなきゃならない」

「……っ」


彼が紡ぐ言葉はどれも甘くて、脳が焼かれそうだ。


「俺……よく考えたら宗一さんのこと、全然知らないんです。だからもっと教えてもらえませんか」


勇気を出して、少し突っ込んだことを言った。

少しでも迷惑そうな素振りをされたら撤回しようと思ったけど、彼は意外そうに目を見開いた。俺の手を引いて浴槽に入ると、縁に頬杖をつく。

「君から興味を持ってくれるなんて嬉しいな。……もちろん、気になることは何でも答えるよ」

「やった。ありがとうございます」

彼の笑顔につられ、一緒に微笑む。

彼のプロフィールは大まかなものしか知らない。ひとりっ子で、高校からはほとんど市街地で過ごし、大学に入る前に完全に村を出た。


白希の八つ上。兄と同い年だから、今は二十八だ。正直、八つしか違わないなんて信じられない。何をどうしたらここまで成熟できるのか。


きっと、生まれ持ったものが違うんだろう。環境はもちろん、本人の性格や素質も大きく影響する。


自分は酷い出来損ないだった。要領が悪くて、何をやっても叱られた。

いっそもう余計なことはしないで、大人しくしていよう。そうすれば誰も怒らない。迷惑もかけない。


何も喋らず、じっと。


でもそれって……生きてる意味があるんだろうか。




「白希、じっとしててね」

「はわっ!!」

男二人の昔話も終わり……。脱衣室で身体を拭いてる最中、頭に熱風が当たった白希は飛び上がった。

宗一がドライヤーをつけて白希の頭に向けたのだが、突然のことに驚き、力が働いたらしい。一度はドライヤーを落としたが、重さを調節して床に落下する前に掴んだ。

「ごめん! 向けるの早すぎたか……大丈夫?」

「だっだだだ大丈夫です。こちらこそすみません! 手、大丈夫ですか!?」

「はは、平気だよ。急に冷たくなって、驚いただけ」

宗一は笑って手を振る。

また危うく物を壊しそうになった。頭を深く下げ、ゆっくり起こす。その際、宗一が手にしているものが目に入り、白希はまばたきした。

「それ、何て言うんでしたっけ」

「うん? ドライヤーのこと?」

「あぁ、そうでした。あまり見たことないから、熱い風に驚いちゃって」

恥ずかしそうに笑う白希に、宗一は怪訝な表情を浮かべる。


「見たことない、って……実家にはドライヤーがなかったの?」

「ええと……はい。恐らく」

「恐らく?」

「俺もよく分からないんです。ただ、家にはお風呂が二つあって……家族が普段使うお風呂と、俺だけのお風呂がありました。基本、何でも分けて暮らしてて」


しかもそこは、時々お湯が出ないこともあった。だから入浴自体良い思い出がない。

逆に良い思い出を手繰り寄せようとしたが、中々見つからなかった。良いも悪いも、闇しかない。納屋は日中も薄暗く、夜は古いランタンひとつ。それを頼りに、トイレだけは行動を許されていた。

全部仕方ないこと。でも宗一さんにはあまり知られたくないと思った。


「ドライヤーは楽だよ。あっという間に髪が乾くからね」


掛けるね、と言われて頷く。ドライヤーを当ててもらい、大人しくしていたけど。

「あっ……自分でやります! ごめんなさい!」

よく考えたら、髪を乾かすぐらい自分でできる。恥ずかしいやら情けないやらで、慌ててドライヤーを受け取った。


宗一は何も言わず、白希を静かに見つめていた。


「……はぁ」


お風呂上がりは冷たいレモン水を受け取り、一気に飲み干した。

白希が空になったコップをキッチンへ持っていくと、宗一がちょうど食洗機から食器を取り出していた。

「それもすごいですねぇ」

「ああ、便利な物ばかりだよ。たまに味気ない時もあるけどね」

タオルで手を拭き、宗一は白希の髪を少しだけ持ち上げた。


「まだ良い香りがする」

「ありがとうございます。でも宗一さんは常に良い香りですよ」


お世話ではなく事実だ。髪はもちろん、指先まで華やかな香りがする。

ふと、彼の長い指に目を奪われた。さっきは浴室で、この手に色々されたと……。


うっ、思い出さなきゃ良かった。


また首のあたりが熱くなってきて、それとなく宗一から離れる。うっかり彼の回りのものを温度変化させない為に。


それにしても……。


「宗一さんは……経験がたくさんあるんですか?」

「え? 何の?」

「その~……何と言いますか。え、えっちなことです」


しどろもどろに返すと、彼は可笑しそうに吹き出した。

「急にどうしたの」

「……こんなこと言うのは良くないと思うんですけど。……気持ちよかったんです」

両手を組み、うつむき加減に呟いた。

「やっぱり色々なことを経験されてるんだろうな、というのが一つ。もう一つは、嫌じゃないのかな……って」

「えーと。もしかして、白希の身体を触ること?」

すぐに頷くと、彼は目を眇めた。


「残念だけど、許されるなら一日中白希に触れてたいよ。今だってそう」


唇を掠め取られそうになった。慌てて身を引くと、彼は笑いながら両手を上げた。


「キスはしない。約束は守るよ」

「……っ。どうして、そこまで俺を」


彼の瞳を真っ直ぐ見つめ返す。彼の瞳にうつる自分は、ひどく弱々しい生き物に見えた。


彼が自分に優しくするのは同情心からかもしれない。家を失い、家族が消えた。行き場のない同郷を放っておけなかったから。


でも分からないことがある。宗一さんは東京で働き出して、村へ帰る機会はほとんどなくなったはずだ。


「……宗一さんは、どうして私の家が火事になってると分かったんですか?」






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