表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【BL】熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。  作者: 七賀ごふん
二十歳の青年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/17

#10



奥様、という言葉が突き刺さった。


……まさかとは思うけど、そのまさかかもしれない。


頭が真っ白になって、気が付いたら一番手前にあったブラックのカーボンケースを手に取っていた。

「おお、シックですね。ではでは、フィルムとセットで会計致します」

「ブラックか。淡い色も良いと思うけど、結局のところ白希は何でも似合うからなぁ。自分のことのように誇らしいよ」

隣で宗一さんがなにか言ったけど、右から左に抜けていった。


断るつもりだったのに、自分用のスマートフォンを用意してもらった。店を後にし、スマホが入った紙袋を抱いて彼に振り返る。お礼を言わなきゃ、と思って口を開いたはずだったが、


「宗一さん、ひとつお聞きしたいことが」

「うん?」

「私って、その、お」

「お?」

「男に見えませんか?」


心の大部分を占める不安が先に零れてしまった。

流れる沈黙。道の真ん中で立ち止まった為、通行人が邪魔そうに自分達を避けていった。

「はっ」

ふと我に返り、隅によって頭を下げる。


「……すみません! こんな高価なものを買っていただいて、本当にありがとうございます!」

「それはいいけど……さっきの店員さんに女性と思われたことを気にしてるのかな?」


どうやら彼も気付いていたらしい。尚さら恥ずかしくなり、白希は涙目で訴えた。

「危うくピンクのケースになるところでした」

「あはは、ピンクも似合うよ。白希が可愛いのは事実だからね」

だから、可愛いと思われること自体心外なのだ。白希の焦りは全く伝わってなかったが、一旦深呼吸する。


彼に罪はない。全ては自分の容姿が原因だ。今は髪が伸ばしっぱなしで長すぎることも原因だが、もうひとつある。それもすぐに改善できそうなこと。


「私……という一人称がいけないのかもしれません。決めました。今日から変えます」

「ほうほう。じゃあ私も変えようかな」

「宗一さんは変えなくて大丈夫ですよ。かっこいいですから……」


そう、敬語として使う分にはそれが普通だ。自分の場合は周りが言葉遣いに厳しかっただけで、好きで使ってるというわけでもない。

プライベートの場面で私呼びをしてると女性に間違われる可能性がある。それは本当に避けたい。


悲しくなるくらい小柄で華奢だけど、一応男として生まれた。丁寧な口調も所作も叩き込まれたからしてるだけで、本当はもっと砕けて生きたいのだ。


ひとりで頷いてると、宗一はワクワクした顔で尋ねた。

「どう、自分の呼び方決めた?」

「は、はい。実は……できれば、“俺”が良いなと」

もうずっと昔のことだが、周りの男の子達は自分のことをそう言っていた。小学校低学年までは周りと同じように通えていた為、記憶は古くても印象に残っている。


宗一さんからしたら笑っちゃうような悩みなんだろうな……。


一人称はもちろん、外見も何もかも。


紙袋を抱き締めながら返答を待つ。段々恥ずかしくなってきて、顔が熱くなった。

……っていうか、


「あっつ!!」


顔の何十倍も、掌の方が熱くなった。あまりの熱さに驚き、紙袋から手を離してしまう。


まずい。買ってもらったばかりなのに……!


絶望的な状況に心臓が止まりそうになったが───紙袋は地面につかなかった。

「あっ」

“落ちている”のは確かだが、非常に遅い。まるで鳥の羽が緩やかに落ちていくように、ふわふわと舞い降りていく。


「……っ!」


下に屈み、両手でキャッチする。その瞬間、さっきまでの重みを取り戻した。

「はあぁ……良かった。ごめんなさい……!!」

ホッとしたのと申し訳ないのと、感情が重なって目元が熱くなった。

パニックになる白希と反対に、宗一は落ち着き払っている。


「大丈夫だよ。箱に入ってるし、最近のスマホは衝撃に強いし」

「でも……せっかく頂いたものを傷つけたら、申し訳なくて立ち直れません」

「平気平気。それより深呼吸して。感情が昂るとまた力が働くかもしれないから」


腰を支えられ、立ち上がる。彼の言う通りなので、目元を乱暴にぬぐって深呼吸した。

パニックになればなるほど、力が暴走する。落ち着かないと。


「……すみません。恐らく、もう大丈夫です」

「ふふ。良かった」


宗一は子どものようなあどけなさで笑った。

これも歳上の男性に思うことではないのだろうけど、……可愛いな、と思った。


「ありがとうございます、宗一さん。……あと、びっくりしました。さすがですね」

「うん? 何が?」

「力のコントロールです。私とはまるで違う力だけど、貴方の重量調節は両親も絶賛してました」


ようやく気付いたというように、宗一はわずかに目を見開く。次の瞬間には、またいつもの柔和な笑みを浮かべた。


「覚えててくれたんだ。嬉しいな」

「もちろん。病院の前でもその力で助けてくださったじゃないですか」


白希が缶を拾おうと飛び出し、車と接触しそうになった時、彼は車の“前方”のみ重力操作をした。地から離れてしまうほど軽量にし、浮かび上がらせたのだ。


普通なら自分の目を疑うか、夢でも見たと思うだろう。

有り得ないことを目の当たりにして、すんなり納得できる者など存在しない。

彼の力を知っていたからこそ、白希は冷静に状況を理解できた。


宗一の家は、白希と同じく春日美村で長い歴史を持つ名家だ。村にはいくつか勢力があり、宗一が生まれた水崎家は村内で最も土地を有し、財力を持っていた。……過去形なのは、先代の家督が妻と息子を連れて村を出て行ったからだ。


その息子こそが宗一で、白希が最も会いたかった人物。


重量操作という異質な力を持って生まれた、美しい青年だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ