第5話 Winnyの登場とコンテンツ消費時代
僕が、プレクスターPremiumと日立LGのGMA-4020Bという二つの神話的なドライブを手に入れ、Alpha-ROMという巨大な壁と対峙していた頃。僕が身を置いていたP2P界隈にも、時代の大きな波が押し寄せていた。
それは、「Winny」の登場だ。
WinMXは、警察の取り締まりや、サーバーに依存する構造の不安定さから、徐々に過去のものとなりつつあった。匿名性と、サーバーを経由しない分散型ネットワークの利便性を謳ったWinnyこそが、新しい時代のスタンダードになり始めていたのだ。
僕が所属していた「うたたね」の友人たちも、その波に乗って、こぞってWinnyへと移行していった。
僕は、選別された非公開サーバーという、ぬるま湯のような環境で「ダウンロード専」という美味しい立場に安住していたが、時代の流れは、そんな僕の居場所をも変えようとしていた。
そして、その時代の変化と同期するように、Alpha-ROMという強敵は、僕の「自力での完全突破」という夢を打ち砕いた。
Alpha-ROMは、単にドライブの読み取り精度や、ライティングソフトの特殊な設定だけではもはや通用しない、極めて巧妙なコピーガードだった。
これを完全に解決し、バックアップを成功させるには、ディスクの情報を読み取った後、さらにディスクイメージを直接書き換える「専用プログラム」が必要だったのだ。
もはや、それは個人レベルの知識や検証で解決できる領域を遥かに超えていた。
その書き換えプログラムは、主に技術に長けた有志によって開発され、そして、Winnyのネットワーク上に、完成品として流されるということが続いていた。
自作PCを組み、最高のドライブを選び、知識を磨いたにもかかわらず、僕はここで、「自力で解決できない段階」まで来てしまったことを痛感した。
技術の極北に辿り着いたつもりだったが、その頂はさらに遥か遠く、見えなくなってしまった。
僕の「バックアップ熱」は、この挫折を機に一時的に落ち着いた。
落ち着いた理由のもう一つにあまりにも素晴らしいコンテンツが、僕を待っていた。
2003年は、僕のオタクとしての魂を揺さぶる、まさに名作の当たり年だった。
僕は、複雑なコピーガードとのイタチごっこから解放され、再び「コンテンツそのもの」への純粋な没頭へと戻っていった。
2003年という年は、僕の愛を再び燃え上がらせる、まさに名作の当たり年だった。
アニメでは、『宇宙のステルヴィア』、『成恵の世界』、『BPS』、そしてライトノベルで既に熱中していた『フルメタル・パニック!ふもっふ』。
さらに、『鋼の錬金術師』、『真月譚 月姫』、『カレイドスター』『おねがい☆ツインズ』といった、後の歴史に残る名作が一斉に放送された。
そしてゲームでは、『CROSS†CHANNEL』、『沙耶の唄』、『マブラヴ』、『Ever17』といった、それまでの「泣きゲー」や「萌えゲー」の枠を超えた、重厚なシナリオや斬新なシステムを持つ作品が次々と登場した。
僕が手に入れた自作PCは、これらの名作をプレイするための最高の舞台となった。
特に『フルメタル・パニック! ふもっふ』の弾けるようなコメディ、『おねがい☆ツインズ』の切ない恋愛模様、『宇宙のステルヴィア』の壮大な青春群像、そして『CROSS†CHANNEL』と『マブラヴ』が提示した、予測不能な世界観は、今も僕の脳裏に焼き付いている。
アニソン界も熱かった。
KOTOKOがシーンを牽引する中、angelaという新たなアニソンスターが登場した。
『蒼穹のファフナー』などで力強い歌声を響かせた彼女たちは、アニメ作品の魅力を何倍にも増幅させ、アニメ人気の礎となる作品を数々彩っていった。
当時のコンテンツ消費は、まさに革命的だった。
放送後30分もすればWinnyで全て手に入るという状況。
僕のような地方の高校生でも、知識さえあれば、PCで好きな時に、好きな時間だけ、最高のコンテンツを視聴できる時代が到来していたのだ。
僕は、この最高の時代の最高のコンテンツを「永久に所有したい」という、強烈な欲望に駆られた。
自作PCの組み上げとアルバイトで得た僕の資金は、次なるターゲットへと向かった。
それは、これらの名作を収録したDVDだ。
アルバイトの金は、ほぼ全てDVDボックスの購入に消えていった。
そして、この頃、コンテンツの主流は完全にDVDへと転換した。
VHSは姿を消し、僕の部屋に積み上がるのは、銀色のディスクが詰まった、豪華なパッケージばかりになった。
その時、僕は再び、あの技術的な壁と向き合わなければならないことを悟った。
DVDのバックアップだ。
CDのコピーガードとの戦いで得た知識、そして自作PCの性能。
これらを総動員すれば、あの難攻不落だったDVD二層化と、新たなDVDのコピーガードに、再度挑戦できるのではないか?
僕の「アーカイブ欲」は、再び技術的な課題へと向けられた。
次回は、DVDのバックアップとPS2のバックアップにまつわるお話です。
当時、この二つの領域はまだ深い霧の中にあり、限られた人しか辿り着けない“知の聖域”のような場所でした。
特にPS2の壁は高く、突破には特別なアイテムと、少しの勇気が必要でした。
その仕組みを理解し、初めて成功した瞬間のあの高揚感――
あれは、まるで秘密の扉を開いたような感覚でした。
次回、その扉の向こう側で僕が見た景色を、お届けします。
今日の話はここまでです。
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