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シーン7「シンワ・マシナリー」

 ジェミニ・バランサー エピソード7です。 連休も終わり今日からまた仕事が始まるのだが、マモルはヒカリさんに呼ばれシンワ・マシナリーという取引先へと呼ばれた。 そこで聞かされる話は表側に関係する事で……。 と、ざっくりあらすじです。 ちなみに、この話に登場する団体・企業・組織等は完全なるフィクションであり、実在する企業とは一切関わりありませんのでご了承ください。

 同居しているミナモの事を両親に説明する理由が思いつかなかったオレは、ヒカリさんへ相談をした。 するとヒカリさんはオレの家をシェアハウスにしていると説明したらどうかと提案してきた。 そして何故かヒカリさんまでオレの家に同居する事となり、ますます奇妙な同居生活となった。 さて、今日から休み明けの仕事だが。



「じゃぁ、行って来る。 留守番頼んだぞ」

「はい。 気を付けて行ってらっしゃい。 ヒカリさんは先に行きましたよ」

「そっか。 あの人いっつも朝早いからなぁ」

 大抵オレよりも先に起き、そしてオレよりも寝るのは後だ。 そう言えばヒカリさんが寝てる所を見た覚えがないかもしれない。 オレとヒカリさんは同じ会社で働いているが、一緒に行ったりはしない。 それは、仕事とプライベートを区別するためでもあるが、ヒカリさんが忙しくて帰るタイミングが同じにならないのも理由である。 ヒカリさんは現場での作業の他に、設計・開発・営業と、色々な部署で活躍している。 ちなみに連休中も度々仕事をしていたらしい。 本当にこの仕事が好きなんだろうな。


 オレは愛車の軽の四駆を走らせ家を出た。 いつもの通勤ルートだが、何か違和感を覚える。

「んー。 あんなとこにあんな施設あったか?」

 確かあそこは入口が厳重に閉じられたただの空き地だったような……。 しかしそこにはなぜか変電所のような施設があった。 これだけの施設が数日で建つとは考えられないし、よくよく気にするとそこだけではなく色々な所に見覚えのないモノがある。 恐らくオレが表側の事を認識した事で表側由来の物が見えるようになったのだろうか。 しかし、あの変電所から伸びているケーブルはどこに繋がっているんだろうか。


 そんなこんなで無事に会社へと到着したのだが、ヒカリさんのデカい四駆はまだ会社には止まっていなかった。 どこか寄り道しているのだろうか。

「おはようございます。 ヒカリ先輩はまだ来てませんか?」

「おお、神尾おはよう。 日野ちゃんはまだ来てないな。 多分、取引先に顔出してるんじゃないか?」

「そうですか」

 ちなみに日野というのはヒカリ先輩の苗字である。 ああ、そういえばもうすぐ新しい設備の開発があるとか言ってたからその件だろうか。 とりあえず先に作業始めるか。 と、準備をしていた矢先にオレのスマホが鳴った。 相手は、アカリ先輩だ。

「はい。 おはようございます」

『神尾君おはよう。 もう会社には着いた?』

「ええ、今さっき着きました」

『実は今取引先に居るんだけど、君にも話を聞いて欲しいから今からこっちに来てくれないかな? 位置情報送るからよろしくね』

「はい、分かりました」

『それと部長には話通してあるから、今やりかけの方はそのままでいいよ』

「了解です」

 なんだろう? あんまりこういう事無かったからちょっと緊張するな。 仕事の事なら別にオレが聞かなくてもヒカリ先輩だけで良い気がするんだが。 まぁ、とりあえず行ってみよう。



 オレはスマホに送られてきた位置情報をナビに入れ、取引先へと向かった。『シンワ・マシナリー』という社名らしい。ん?シンワ? 最近聞いたような……。

「ここかな。 シンワ・マシナリー……。 こんなとこにこんな大きい会社があったのか」

 ひとまず正門の受付で入場手続きをするため、入口に車を停車する。 すると、向こうからヒカリ先輩がやってきた。

「早かったね。 とりあえず受付済ませてきて。 駐車場は私が案内するよ」

 入場のための手続きをする。 一応この会社では場内の撮影は禁止らしく、スマホのカメラレンズに封印シールを貼るという徹底ぶりである。 このシールを剥がすと糊が残るから嫌いなんだよなぁ。 そして当然ながら一度剥がしたら元に戻せない仕様になっている。 何度でも貼れたら意味ないからな。

「さて、それじゃ行こう」

 ヒカリ先輩が助手席に乗り込むと、俺達は駐車場へと向かう。 というか、敷地が結構広いな。 少し移動すると前方に巨大な工場とヒカリ先輩の車が見えてきた。

「あそこ、私の車が止まってるとこね」

「はい」

 俺達は車を止め、工場の中へ入る。

「おお、広い。 それに天井がずいぶん高い工場ですね」

「そうさ、この中で一度設備まるごとを組み上げるからね。 それにはこのくらいの工場じゃないといけないのさ」

「なるほど。 ちなみに、どんな設備の工場なんですか?」

「その辺は取引先の工場長から話を聞こうか」

 工場長? 工場長自らって事は結構大きい仕事なんだろうか。 いったいどんな設備なんだ……。 そんな事を考えていると向こうから誰かがこちらへ向かって来た。

「日野さん、おはよう」

「おはようございます、工場長。 こちらが私の後輩の神尾です」

「始めまして。 神尾マモルと言います」

 この人が工場長か。 というか想像よりも若い人が来た。

「ああ、これからよろしくね神尾君」

 ちょっと優しそうな感じの人だな。歳も結構近そう。 ん?これからってどういう事だろう?

「とりあえず奥の事務所で説明させてもらおうかな。 ささ、こちらへ」

 そういうと工場長はオレ達を工場の奥へと案内した。 通常は事務所というのは入口付近にあるものだが、ここの事務所は設備より少し離れた所にひっそりとしていた。 ちょっと変わってるな。

「どうぞ、座って下さい」

「はい、失礼します」

 俺達は事務所のソファに腰かけるとヒカリ先輩は直ぐに話を始めた。

「早速ですが工場長、新しい設備について神尾君に説明お願いできますか?」

「そうだね、ああ、ちなみに神尾君の事は日野さんから伺ってるよ」

「自分の事ですか?」

「そうそう、君の事。 具体的には表側を認識できるようになったということだね」

「え!?」

 どういう事だ? オレはここには確か新しい設備の事で呼び出されたはずだが。 というか、工場長も表側の存在を知っているという事だろうか。

「驚いた? 実はここの工場長も表側の事知ってるんだよね。 この設備ってのも表側と関係あるんだ」

 なんかとんでもない事になってるし。

「それでね神尾君。 新しい設備なんだがね、実は表側で使うために稼働させる予定なんだ」

「表側? そんなこと出来るんですか?」

「そうだね、神尾君は転移は可能かい? 地道な作業にはなるけど、少しづつあちらに転移して資材を運ぶ予定だよ」

「そうですか。 残念ながら自分はまだ転移出来ません」

「ねるほど、始めはコツが必要だからね。 私も出来るようになるには時間が掛ったさ。 まぁ、直ぐに出来るようになったのはそこの日野さんくらいなものだよ」

「いやぁ、照れますね♪」

 あの言い方からすると工場長も転移出来るという事か。 直ぐには出来なかったようだが。 うーむ、ますますヒカリ先輩の有能性が分かるな。

「あの、ちなみにどんな設備なんでしょうか」

「表側に環境に配慮したゴミ処理施設を作ろうと思ってるんだ」

「ゴミ処理施設……。 ちなみに表側の人って今ゴミはどうしてるんですか?」

「神尾君も話は聞いていると思うが、表側の人々は極力環境に負担をかけない生活をしている。 一般的な生ゴミは堆肥などにして処理をしているんだが、プラスチックやビニールといった物は殆ど裏側から表側へ持ち込んだものだ。 最近はいくら環境に配慮していてもそういったゴミが表側でも出てしまいそれが問題視されているんだよ。 今は焼却することも出来ずに溜まっていく一方になっている」

「それは……何とかしないといけませんね」

「そう、今回の事業は表側に関わる物だからね。 そこで表側の事を知った君を呼んだという訳さ。 エンジニアとしての腕もなかなかだとアカリさんが君を紹介してくれたのさ」

 そうたっだのか。 何故話を聞いて欲しいって言ったのか理由が分かった。 というか、アカリさんに少しは認められてるようで嬉しいな。

「まぁ、そういう訳でね。 君もぜひ協力してくれないかな?」

「はい。 自分でよければぜひ協力させてください。 ところで工場長、他の従業員にはこの設備の事はどうやって説明しているのでしょうか?」

「その点は心配いらない。 実はこの設備の人員は大体が表側の関係者で構成されている」

「えッ!?」

「表側から来てる人も結構居るよ。 何せ表側からしたらとても重要なプロジェクトだからね。 裏側でのパートナーと共同で作業してるんだ。 表側の人は余りこういった作業は得意じゃないから手元として、ね」

「パートナーというのは、もしかして表側の人が接触した自分達の事ですか?」

「そう。 我々はパートナーと呼ばれているんだ」

 オレはミナモのパートナーって事になるのか。

「神尾君。 一つお願いしてもいいかい?」

「はい。 何でしょう?」

「ひとまずなんだが、神尾君は表側の事は知らないフリをしてくれないかな? ここへは日野さんの助手として参加している、と」

「何か不都合があるのでしょうか」

「うん、そうだね。 いずれその理由が話せる時まで、今はそれで通してくれないかな?」

「……分かりました」

 なんだろう。 もしかして、社名のシンワ・マシナリーというのはやはり神話の友と関係があるって事なんだろうか? この前ジーザス・ロブスターを退治した事で神話の友に目を付けられているだろうし、詳細が知れるのがマズいのかもしれない。 ヒカリさんはオレが神話の友の事を知らないと思っているはずだし、今ここで理由を説明出来ないのはそういう事か? それだとしたらどうしてアカリさんは神話の友と関わりのある企業と関わっているんだろう……。 まぁ、まだこの会社が神話の友と関わりがあると決まった訳じゃないけど。


「色々と驚いた? 工場長とは私が仕事始めた頃からの知り合いだけどさ、表側で偶然バッタリ会ってそりゃもうビックリしたよ。 前にさ、神尾君にやりたい事が出来たって話したでしょ? それって実はこのプロジェクトの事なんだ」

「そう、だったんですね。 何か凄く納得しました」

「そういう訳で、今日から君はシンワ・マシナリーに出向という事になるね。 一緒に頑張ろう!」

「はい!」

 急な展開となったが、どうやらオレは今日からこの会社への出向社員という扱いになるらしい。 こんな急に動くなんてヒカリさん、手回しが早いな。




 今日の所は色々な説明を受け、本格的に作業するのは明後日からとなった。 明日は、自分の会社から自前の手工具等を運ばなければいけない。 マシンエンジニアにとっての手工具はやっぱり自分の馴染みの物に限るのである。 まぁ、オレは仕事始めて3年程度なんだが。 そして、今日は早めに帰宅することにした。


「マモルさん、おかえりなさい」

「ああ、ただいま。 変わった事は無かったか?」

「大丈夫ですよ? ああ、でもお昼ご飯作ろうと思ったのですが、ガスって凄いですね! 電気のとは違って凄い火力で……鍋焦がしちゃいました、エヘヘ」

「おい、エヘヘじゃねぇよ。 まぁ、慣れないモン使ったらそうなるわな。 少しづつ慣れてくれ」

 表側の世界では、化石燃料や天然ガスという資源は使用されていない。 石油に関しては当然環境への配慮であるが、ガスに関しては地球の埋蔵量が限られているため、表側では採取しないという事らしい。

「表側でガスが使えないのは聞いたが、薪くらいは使うんだろ?」

「そうですね、焚き火や薪ストーブは普通に使いますね。 表側の世界では極力森林を伐採せず残していますから、その分のCO2に関しては森が吸収してくれるそうです」

 表側の世界はさぞかし自然豊かなんだろうな。 というか、裏側の世界よりもCO2と環境破壊の問題を理解したのが早いみたいで少し驚きである。 それもやはり裏側の世界を客観的に見守っているおかげなのだろうか?

「そういえば、今日からシンワ・マシナリーという会社へ出向になったんだが、神話の友と何か関係あると思うか?」

 オレは今日の出来事をミナモに説明する。

「そうですね、ゴミ処理施設の事は実は表側でもすごく話題になってました。 ただ、神話の友との接点は今のところ不明ですね。 表側の人達の中でも景観が乱れるといった意見や、本当に環境に影響はないのかという声もあって、そういった事で話題となっています」

 そうだろうなぁ。あんな大正・昭和な景観の中に突如現代な建造物が出来たら違和感しかないよな。

「ミナモはゴミ処理施設の事どう思うんだ?」

「私は、表側の世界が便利になるのであればそういったゴミが出るのは当然ですし、施設は必要だと思います。 ですが、環境への影響は少し心配ですね……」

「そっか」

 こりゃ下手な物造れないぞ。 とはいえ、オレは設計された物を組み立てるだけの作業員止まりなんだが。 あとは設計に関わる人頼みか。 そういえばヒカリさんも設計に携わるのかな?

「ところでマモルさん、今日の晩御飯作ってみたんですけど……良かったら食べてみて下さい」

「ほほぉ? ミナモさんの愛の手料理ですか?」

「ちょっと!茶化さないでください! 私はお仕事で疲れて帰って来るお二人に食べてもらおうと……。 とにかく、今用意しますね」

 表側の料理か。 どんなだろう? 凄く楽しみである。

「ただいまぁ、あー疲れた。 お、何かいい匂いするー」

「ヒカリさんおかえりなさい。 今ご飯の用意してますのでもう少し待って下さいね」

「ナモちゃんの手料理ですと!? お姉さん楽しみー!」

「なぁ、ヒカリさん。 あっちの料理ってどうなの?」

「ん? いやいや、普通だよ。 こっちと同じ」

「そっか」

 うーむ。 何か安心したようなガッカリしたような。

「用意ができましたよ。 さぁ、座ってください。 食材はあるもので作ったので普通かもしれませんが……」

「おおー、純和風メニューですなぁ」

 確かにヒカリさんが言う通り。 肉じゃが、赤だしの味噌汁、ほうれんそうのお浸しに湯豆腐などなど、見た目は完璧な和食である。さて味は……。

「「いただきます」」

 ん!? 美味ぇ! 何だこれ、和食ってこんな美味かったっけ? うちのかーちゃんの飯も美味いけど、どっちかというとおふくろの味って感じだ。 しかし、ミナモの料理は店で出てくるヤツ! 味付けはさほど濃くないのにちゃんと旨味があって、上品な味だ。 何よりもこの米だ。 うちにあった米のはずだが何でか味が違う気がする。

「ど、どうでしょうか……?」

「いや、美味いなんてもんじゃねぇ。 美味すぎる。 この米って家にあったヤツか?」

「え? そ、そうですけど、普通に土鍋で炊きましたよ?」

 っく、美味さの理由はそれか! 炊飯器を使わずあえて土鍋を使って米を炊くとは……ミナモさんの料理スキルぱねぇ!

「ちなみに、米ならそこの炊飯器で簡単に炊けるんだが」

「え!? そんな便利な道具があるんですか??」

 ウソだろ? 電気があんだけ普及してるってのに炊飯器が無いだと!? スマホはあるのに、街灯がLEDのくせに……表側は流石だな。

  そんな訳でミナモの新しい特技が判明し、我が家の炊事担当に任命されたのであった。 (続)

 ここまで読んで頂きありがとうございます。 今回の話は、この『ジェミニ・バランサー』の話の方向性に大きく影響するものだったので、どうしようかとても悩みました。 そして、何だか偏ったストーリーになりそうで何度も考えてみたのですが、結局この内容に落ち着いてしまいました……。

 実は、私も過去に機械屋という所謂『マシンエンジニア』を勤めていた事がありました。 それもあり、マモルの職業を決めた訳なのですが、この職業の事をご存知でない方、そもそも興味の無い方を置いていかないような話にできるのかどうか、そこが今後の課題になりそうです。 能力が使えないマモルが、マシンエンジニアの知識と技術で危機を乗り越える的な流れをイメージしているのですが、なかなか難しそうです。

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