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シーン4 「一狩りしようぜ」

 ジェミニ・バランサー、エピソード4です。 ようやく動き出したマモルとミナモですが、何やら上流で異変が起きている事に気づいたようです。 上流にはいったい何が起こっているのか? 今回はちょっとだけアクション回です。 以上あらすじでした。

 オレとミナモは近所にある河原の様子を見に行った。 前々からあんまり水質が良くなかったのだが、どうやらそれは誰かが故意に汚染しているのではないかとミナモが気づく。 そして、水質が汚染されている原因が上流にあると予想し、オレ達は汚染源となっている上流へと向かった。



「だいぶ上流まで来たが、どうだ?」

「この辺りは上流でも流れが緩やかになってますが、ここから相当に汚染されたものを感知できます。 近くで間違いないかと」

「ほう。 ちょっと堤防みたいになってるな」

「そうですね。 それで汚染された物が溜っているのかもしれません」

 こういう所に子供の頃よく釣りに来たっけ。 この辺だとフナとかコイとか後はオイカワって魚が良く釣れたんだよな。

「この辺の魚はどうなんだ?」

「魚が殆ど見当たりません。 死滅したのか、それとも環境に耐えられず上流か下流に逃げたのか……」

「うーむ。 何かありそうか?」

「どうやら川の中に原因がありそうです。 ですがここは深くて水も濁っているのでよく見えませんね。 水の中に入る事が出来れば見て来る事も出来るのですが」

「そうか、あの服か」

 ミナモが表側の世界から来た時に着ていた服。 それには水の中で呼吸ができ自由に動き回る事ができる加護が付与されている。 だが、見た目が完全に場違いなビキニでオレは普段着ることを禁止したのだった。 だって完全に場違いだもの。

「着替えに帰るべきか……ん?」

 水面をみつめているとオレはある事に気がついた。 時々水底からポコポコっと泡が上がってくるのだ。 しかも、かなり大きめである。

「あそこ、何かいるな」

「マモルさん分かるんですか?」

「ああ、間違いない。 あの泡は何かが呼吸した時に出るものだ。 オレも子供の頃よく釣りしてたから分かる。 なぁ、その原因って生き物って可能性はあるのか?」

「そうですね。 身近な物の話だと、外来種ってご存知ですか?」

「海外から輸入された元々日本に居なかった生物の事だろ?」

「はい。 日本の生物が外来種により捕食されてしまって生態系が崩れてしまうのです」

「まぁでも、今回はこの地上のものじゃないって言ってたから違うんじゃないか?」

「いえ、そうとも言いきれません。 私は確かに外来種に例えましたが」

「まさか、この地上のものではない? とすると外来種というのは」

「はい。 恐らくは表側から何者かに持ち込まれた『ジーザス・ロブスター』かと」

 ジーザス・ロブスター!? 何かもう名前が怖いわ。 シザーズ(ハサミ)じゃなくてジーザスなんだな……。

「ヤバいのか?そのジーザスは」

「ジーザス・ロブスターは体長が3mほどの水棲生物です。 普段であれば大人しくしてる水棲生物なのですが……」

「普段以外は?」

「繁殖期となると1匹のメスを求めて大量のオスが争い、最後の1匹になるまで暴れます」

 まぁ、よくある話だな。 流石に生死を賭けるところまでやる生き物はあんまり居ないが。

「その際は見境がなく、目につく生き物全てに襲いかかるので『ジーザス』と呼ばれています」

 なんてことだ!ってか? なんというネーミングセンス。 それに、川なのにロブスターなのか。 一応ロブスターもザリガニの仲間で、和訳すると『海ザリガニ』だ。 海のザリガニなのだ。 ちなみに普通のザリガニの英訳は主に『クレイフィッシュ』だ。 どちらかというと『クローフィッシュ』と言う方がイメージし易いかもしれないが、と、そんな事は今関係ないか。

「で、もしそのジーザスだとしたら今はどういう状況なんだ?」

「多分、個体であればメスではないかと。 どちらかと言えばメスの方が問題なのです」

「どういう事だ?」

「メスは大量の卵を産卵しますが、その際には膨大な栄養が必要となります。 そのため、手当たり次第に周りの生物を喰い荒すのです」

「それって、今この辺に殆ど魚が居ない事に繋がらないか?」

「はい。 そして、食べた生物を排泄すると同時に自分が体内に溜めていた毒素を大量に放出します。 卵に毒素が回らないための構造なのでしょう。 その物質は確かにこの裏側の地上には存在しないものかと。 それに、産卵をする前に何とかしないと―」

「繁殖したらそれこそジーザス……笑えないな」

「はい。 早いところ手を打たないと」

「しかし、メスが産卵前の状態だとしたら、オスはどこだ?」

「オスは交尾の後メスに捕食されます」

 カマキリか? どちらにしても状況証拠が揃っている。 そのジーザス・ロブスターというのが居る可能性が高くなった。

「しかし、そんなモンが生きてる表側の川はまともに魚が住めないんじゃないか?」

「その辺は上手く順応していまして、繁殖期になると他の水棲生物はどこかへ居なくなります。多分上流へと逃げるのでしょうか」

 なるほど、ちゃんと環境に適応してる訳か。 それで、逃げ遅れた魚だけ食ってる訳だな。

「まぁ、表側の人も増えすぎないように繁殖期の前にある程度捕獲してますけどね。 美味しいですよ?」

 「食うんかい!」

 まぁ、でもロブスターだし、確かに美味そうだな。

「さて、どうするんだ?」

「ジーザス・ロブスターは水中では最強です。 ですが、水から陸へと引き揚げてしまえば後退しかできません」

 もろザリガニじゃないか。

「つまり、陸に引っ張り出せば何とかできるのか」

「はい。 陸へと揚げてしまえば私の能力であるアクア・キャノンで急所を打ち抜けるはずです」

 アクア・キャノン!名前が厨二病っぽいが、そこが何かカッコイイ!見たいなそれ。

「どちらにしても一度準備が必要だな。 よし、一旦帰ろう。 狩りの準備だぜ!」

「何か乗り気ですね。 まぁ、やる気なのは嬉しいのですが……何か策があるのですか?」

「まぁな。 釣るんだよ、ジーザスを」



 家に帰るとそれぞれ支度を始める。ミナモは部屋でビキニもとい水の加護の付与された衣装へと着替えた。

「マモルさんは何をしてるのですか?」

「ああ、ザリガニ釣りの準備」

「その機械がですか? 釣りというので、てっきり釣り竿を用意してるのかと思ったのですが」

「は?3mくらいあるんだろ? 釣り竿なんかで揚がるような相手じゃないだろ。 コイツで引っ張るんだよ」

 向こうの世界には無いんだろうか? ミナモはいまいち理解ができていないようだ。 まぁ、こっちでもコレで釣りなんかしようとは思わないだろうが。

「エサは前に釣って来てそのまま冷凍してたコイツだ。 そして、針は多分必要ない。ザリガニだからハサミでガッチリホールドだ。 よしミナモ、こいつで行くぞ。」

「これって、自動車って乗り物ですよね? 乗るのは初めてです」

「前から気にはなっていたが、お前達の方の世界って文明はどうなってんだ?」

「どうと言われましても、何と説明すれば良いか分かりませんが、こちらの世界よりは発展してませんね。 自動車は無いので移動は馬に乗ります」

「いつかこの目で確認したいものだ」

「はい。 頑張って表側へぜひ来て下さいね」

「チッ!」


 現場に到着するとオレは準備を始めた。 まず、川に向かって車を停車、オレの自慢の軽四駆に取り付けてある機械ウィンチのワイヤーにエサであるイカを付けた。 これにザリガニが喰らいつかないはずがない。 さきいかをエサにしてザリガニを釣る、子供の頃にした遊びがヒントとなった。

「そっちの準備はいいか?」

「はい、いつでも行けます」

「よーし。 狩りの時間だ!」

 まず、ミナモが水に潜り偵察をする。

「マモルさん、やっぱり居ました。 間違いなくジーザス・ロブスターです。 しかも、あんなに大きい個体は初めて見ました」

「ん?そうか」

 大きいとはいえ、流石にオレの車は軽とはいえ四駆だし、重量もそこそこあるから大丈夫だろう。 これで引っ張られるようならそれはもうモンスターだ。

「じゃぁ、次はコイツを頼んだぞ」

「はい」

 次にワイヤーにつないだエサをザリガニの鼻面までミナモが運ぶ。 そして即離脱。

「運びましたよ! 後はお願いします」

 後はエサに喰らい付いたジーザスを地上に釣り揚げれば、っと、早速キタ!!

「おらぁ!」

 オレはウィンチを作動させつつ、車をバックさせる。 が、

「お、おぉぉ!? マジか、車がビクともしねぇ!!」

 想像以上にヤツの力が強い。 それどころかジリジリと川の方へ引っ張られていく。 ウソだろ?こっちの車は軽四とはいえ800kgはあるんだぞ!?

「マモルさんっ!! だから大きいと言ったではありませんかっ!」

 必死にアクセルを吹かし、オレはヤツを引っ張る。 だが、河原が砂利という事もあり、タイヤが空転するばかりでまるで歯が立たない。 こうなるとウィンチは逆効果である。 オレはウィンチをオフにし、ひたすら堪える。

「ミナモ!! お前はそのまま待機してろ! コイツを引きずり出したらトドメを刺すんだろ!?」

「ですが……! 本当に大丈夫ですか??」

 オレは必死に抵抗するが、むこうの力には一歩及ばない。 そうする間にも川岸があと数メートルという所まできた。

「やっべぇぇ!!引きずり込まれるっ!!」

 もう無理だと思ったその時だった。 ガクン!という衝撃が伝わり車がどんどん後退し始めた。

「何だ!?急に動き出した……って、あれ?」

「何か楽しそうな事してるねぇ? お姉さんも混ぜてよ!」

「ヒカリ先輩!?」

「先輩は距離感じちゃうなぁ。 今はオフだぞ? それにこの前まであんなにラブラブだったじゃん?」

 ラブラブって、今時言う人居るんだ。 そんな事より何がなにやら分からなかったが、いつの間にか先輩、元カノで会社の先輩のヒカリさんのデカい四駆がオレの車にワイヤーを掛けて引っ張っていた。

「だから軽四じゃなくて大きいのにしなって言ってるのになぁ」

「だから、オレは、軽四が好きなんです、って!」

「おやおや?敬語はナシって言ってるじゃん」

「今それどころじゃ……!あ、前!前っ!!」

 ヒカリ先輩と2台で引っ張り流石に力負けしたのか、ジーザス・ロブスターが勢いよく水揚げされる。 体長は6m以上はありそうだ。 オレの軽四よりもはるかに重そうなヤツだ。 ミナモさんの言う通りこりゃ確かにデカいわ。

「行きます! アクア・キャノンっ!!」

 ミナモがすかさず水を圧縮して硬化した弾丸をジーザス・ロブスターに打ち込む。 まるで戦車の主砲の如く撃ち出された水の弾丸は、パーンという音を上げ見事に急所を撃ち抜いた。 貫通すると同時に大きなハサミが両腕共に吹き飛び、ジーザス・ロブスターは紫色の体液を吹き出し倒れ込み、動かなくなった。

「一撃……だとっ!? アクア・キャノン強ぇ!!」

「やりました!」

 いや、ジーザスもデカかったけど、それよりも水の弾丸喰らって爆散とかマジこえぇ。 アクア・キャノンはマジでアブナイよミナモサン。 想像以上でした……。

「なにこれー!でっけーザリガニ!新種!?ねぇマモちゃんこれって何??」

「えっと、これは……」

「マモルさん、この方は?」

「オレの会社の先輩で仕事の師匠の―」

「ヒカリお姉さんです! で、マモちゃんこの子は? さっき凄いのパーン!って打ってたよね!」

「ミナモ、どうするよ?」

「初めまして、ミナモと申します……あのー」

「そかそか、ミナモちゃんか。 んー、ナモちゃんだね!よろしくぅ♪」

「ナモ……ちゃん?」

「私は気に入った子には愛称を付けるのさ!てか、ナモちゃん美人さんだねぇ!お姉さんの妹にならない?」

「え?え??」

ヒカリさんが犬をワシワシするかのようにミナモをこねくりまわす。

「諦めろ。 ヒカリさんはこれが平常運転だ」

「ところでナモちゃんはあっちの子でしょ?」

「「え??」」

「その格好さ、加護付きの装束だし、さっきのあれって水の弾丸だよね? 聞いてはいたけど実際に水の力使う所初めて見たよー!」

「ちょっと待て、ヒカリさん表側の事知ってるのか?」

「まーね。 私が知ったのは最近だけどそうだね、半年くらい前かなー?」

 半年前?

「じゃあ、もしかして」

「そうだなー。 君と別れたのは丁度その後だね」

「やりたいことってもしかして……」

「うん。 表側の世界と関係あるよ。 そかー、やっぱり君もこっちに来たか」

 ん?やっぱり?君も?ってどういう事だ?

「え?ヒカリさんって、もしかして、最近表側の世界に来た裏側の天才技術者のヒカリさんですか!?」

「あれー?ナモちゃん私の事知ってたの? いやぁ、天才は言い過ぎだよー」

「いえいえ、裏側では数々の問題をあっさり解決したって事でもはや伝説になる勢いです! まさかこんな所でお会いするなんて……」

「ちょ!持ち上げすぎだぉ!」

 ミナモがすっかり飼いならされてしまった。 流石ヒカリ姉さん、スゴいっす。 てか、裏側から表側に行ける人ってこの人か。 何かすげぇ納得した。



 何とか落ち着いた所でヒカリさんに事の経緯を簡単に説明した。

「……と、まぁ、こんな感じで」

「なるほどねー」

「はい。」

「いやぁ、私が偶然通らなかったら危なかったねぇ」

「「いや、全く面目ないです」」

「ところで、ヒカリさんはどうやって表側を知ったんだ?」

「私は、何か不自然な風が吹いてるなーって気になって、出所はどこだろーって調べてて、何もない空間に何かあるような気がしたから触ってみたらいきなり表側の人が出てきた、ってそんな感じ?」

「え?」

「ん?」

「風って、もしかしてソヨカお姉さんですか?」

「うん。そうだよー? え、何?もしかしてソヨちゃんの妹だったりする?」

「はい。ソヨカお姉さんは私の姉です」

「ソヨちゃんが言ってた水の能力が使える妹さんってナモちゃんのことかー!姉妹揃って美人さんか!いいねー。 ますます私の妹にしたいわぁ」

 ミナモの姉さんか。ヤベぇ、絶対美人じゃないか!一度会ってみたいものだ。 それはそれとして、表側の人間に触る事が表側の世界に接触する条件なのだろうか? 先輩もオレと似たような感じだな。

「ちなみにその姉さんは今どこにいるんだ?」

「ああ、普段は私と暮らしてるけどさ、今は忙しくて活動してるよー。 ほら、この時期ってさ、中国大陸から黄砂が飛来するでしょ? 5月だからそろそろ終わりだけどさ。 それを少しでも海に落とす為に西に向かってひたすら風吹いてるさ」

「あー、何というか、聞かなきゃ分からんくらい地味な活動だな」

「そんな事ないよ? これ、そのまま放置すると黄砂が積もるくらい飛来して日本中のあちこちが鳥取砂丘みたいになっちゃうんだよ?」

 地味って言ってサーセンッシタ! 表側の人はそうやって感謝されずとも日々活動してるって訳か。 少しは感謝しなければ。

「ソヨカお姉さんは風を操って操作してるんです。 言われてみれば確かに3月から5月はいつも疲労困憊ですね」

「なるほどな。 ってか、同じ姉妹でも属性が違ったりするんだな」

「うちの家系は代々強い精神力を持って生まれてくるのですが、どの能力を持って生まれるかは分からないんです」

 さしずめエレメントガチャか。 水、風、他には何があるんだろう。 盛り盛りMP家系か。 

「今の話からすると、ひょっとして表側の人間全員が能力を使えるって訳じゃなかったりするのか?」

「いえ、能力自体は殆どの人が持っているのですが、能力はあっても精神力が大抵はごくわずかなんです」

 つまりMPが少ないって事か? 魔法は覚えてるのにMP不足で使えないとはなんという不遇。

「今MPって考えたっしょ? ゲーム脳な君の事だ、お姉さんには分かるぞ♪ まぁ、君が想像した通りだよ。 だからこの子達は結構優秀なんだよー?」

 っく、やりずれぇぇ。

「なるほどな。 とりあえずよくやったよ、ミナモ」

「そんな、マモルさんとヒカリさんが陸に引き揚げてくれたから退治できたんですよ」

「ほうほう。 マモちゃんがデレるとは、ミナモさんなかなかやりますな」

「ちょ!余計な事言うなよ……全く」


 とまぁ、色々とあったが何とか川の生態系を守る事ができた。これで少しはキレイな川になるといいんだがな。 (続)

 ここまで読んでいただきありがとうございます。 上流での異変は、表側からやってきたモンスター級の水棲生物でした。 とはいえ、文章にしてみるとあっけなく退治されてしまいました。 まぁ、初めての敵ですのでこんなもんでしょう。 ジーザス・ロブスターやミナモの能力であるアクア・キャノン、私はネーミングセンスが壊滅的ですので、あんな名前しか思いつきませんでした。 まぁ、イメージしやすいから許してください。

 前回のマモルの回想に出てきた先輩のアカリさんが登場しました。 アカリさんは、この物語では今後もとても重要な立ち位置になる人物です。 また、自由奔放な性格ですので上手く動いてくれると良いのですが……。

 次回、閑話休題『インターバル~ショッピングデート+元カノ付き』です。では。


※11月27日 一部誤植を訂正しました。

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