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芸能クラスに人気アイドルの双子がいるひとりぼっちな同級生は、俺にだけ姉に負けない素顔を見せてくる。  作者: ななよ廻る
第2部 第3章

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第2話 放課後、双子の姉とバーに行ったと口にしたら拗ねられた

「いらっしゃいませ……?」

 営業前でも、笑顔で出迎えてくれたマスターさんがこちらを見て目を丸くする。

「どうかしたの?」

「いやぁ……ははは」

 なんと説明したものやら。

 頭の後ろをかきながらちらりと隣を見れば、ユウさんがほっぺたをぷくーっと膨らませていた。


 お姉ちゃんのことを知っている人。

 山を下りきって、商店街に入ったところでもしかしてと思っていた。路地を曲がって、その予想は確信に変わり『マスターさんか』とこぼしたのがいけなかったのだろうか。

 それとも、もっと前。

 シノとバーに来ていた時点でこうなる運命だったのか。


『お姉ちゃんとバーに来てたんだ』

 と、気付いたら拗ねられてしまっていた。

 もう店の前。

 機嫌を取る暇もなく、出迎えてくれたマスターさんを驚かせることになってしまった。いや、俺も驚いているんだけど。

「なにか怒らせてしまったんですか?」

「どうなんでしょう」

 俺からすると急に態度が急変したとしか。

 シノとバーに来ていたというのが、頬風船を膨らませている中身っぽいのだが、だからなに? となってしまう。


「驚かせたかった、とか?」

 慣れてきたけど、本来バーなんて学生が行っていい場所じゃない。そこに連れてきてビックリさせたかった、というのはあるかもしれない。

「……もうそれでいい」

 違うらしい。

 ではなにが正解だったのか。顎に手を添えて、首を傾ける。その間にユウさんがマスターさんに挨拶をしていた。


「お久しぶりです。急にごめんなさい」

「いいえ。構いませんよ」

 でも、とマスターさんの目が一瞬こちらを見る。

「まさか、ユウちゃん()男の子と一緒に来るなんて驚きました」

「……お姉ちゃんとはもう来てたみたいですけど」

 からかいの交じる声で笑うマスターさんに、ぶすっと頬を膨らませたままユウさんは応える。

 あまり刺激したくないので、含みのある接続詞は使わないでほしかった。


 切に願いつつ、ちょっと意外な光景にきょとんとなる。

 シノと親しかったのだから妹ととも顔見知りでもおかしくはないのだけど、やり取りに気安さがあるのには驚くというほどでないものの想像もしていなかった。

 学校では友人と呼べるような相手がいないユウさん。外でもそうだ、とどこか無意識に思っていたらしい。いくら人見知りで大人しいからといって、そりゃ親しい人の一人や二人はいるか。


 そう思ってもなんだか物珍しく、二人が談笑するのを眺めていると、パッと振り向いた琥珀の瞳とばったり合う。

「どうかした?」

「や、仲いいなぁと思っただけ」

 心の声がそのまま出たような、素直な感想だった。

 それを口にすると、微笑みを絶やさないマスターさんをちらりと見て、「そう、だね」と頷いた。

「よくしてもらってるから」

「ありがとうございます」

 マスターさんが丁寧に頭を下げると、「大げさ」と苦笑する。うむ、やっぱり仲よさそうだ。


 いいことだと思う。

 俺が友達と呼べるかともかく、仲よくしている相手が一人だけというのはあまりにも交友が狭すぎる。

 友達の数が幸福の数とは言わないけども、ユウさんにはもう少し気軽に話せる相手がいてもいいはずだ。

 ……なんだか、彼女相手だと目線が親のようになる時がある。同い年なんだけどなー。精神の老成化が進んでいるのか、ユウさんが子どもっぽすぎるのか。

 遠い目をしていると、不意にマスターさんが耳元に顔を寄せてきて驚いた。耳をくすぐる吐息に、心臓の鼓動が速くなる。


「二股はダメですよ?」

 こしょ、と。

 綺麗な年上お姉さんからの耳打ちにドギマギしていると、そんな根も葉もないことを言われる。

 二股って、天津姉妹のことを言っているんだろうけど、

「そんな関係じゃないですよ」

 二人とも友達……のようなものだ。そうした艶のある関係ではない。だから、ハッキリと否定したのだけど、「それならいいんです」と笑顔で躱されてしまう。

 どうにも信用してなさそうな反応だった。そんなに軽薄に見えるだろうか。カウンターに並ぶグラスに映る顔を見てもよくわらない。


「いつもの奥の席ですか?」

 ユウさんの肩がぴくりと跳ねる。

 なにやら不穏な香りがして、「今日はカウンターで」と急いで席に座る。くすくすと笑みをこぼすマスターさんは最初からわかっていたのか、「かしこまりました」とスムーズな応対をしてくれる。

 またわけもわからずほっぺたを膨らまされては敵わない。

 横顔を見ても、ユウさんの頬はしゅっと流麗な線を描いている。今回は不発に終わったようでなによりだった。


「それで」

 マスターさんが手元でグラスに氷を落とし始める。なにをするのかわかるけど、ここで止めたり財布を出せば話の腰を折ってしまう。気にかかるけど、ぐっと唇を結ぶ。

「私に訊きたいこととはなんでしょうか?」

 やっぱりわかってるじゃんと、今度は俺が頬を膨らませたくなる。

 可愛くないからやらないけど。


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