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芸能クラスに人気アイドルの双子がいるひとりぼっちな同級生は、俺にだけ姉に負けない素顔を見せてくる。  作者: ななよ廻る
第2部 第2章

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第1話 既読無視に傷付いたのでアイスを食べる

 繰り返すうちに、それが当たり前になってしまうのだろうか。

 昨日同様、ユウさんを家に送り届けてそんなことを考える。

 一人で家に帰すのは心配だから。

 そんな理由で送っているけど、そのうちそんなこととは関係なく、一緒に帰るのが当たり前になったりするのだろうか。嫌ではないけど、それはどうなんだろうと思わなくもない。年頃の男女的に。


 些末……というには、思春期には嬉し恥ずかしなことを考えながら歩いていると、家の前に到着していた。

 行って帰って。

 相応の時間がかかっているけど、空は赤らんでいるだけで、陽はまだ沈みきっていない。暑さだけでなく、昼間の長さも夏の名残を感じる。

 けど、気温も、時間も。

 段々と下がって、短くなっているのは間違いなく、そのうち登下校を彩る山の青々とした新緑も、紅に染まっていくのだろう。


「ただまー」

 誰もいなさそうな家の中に向かって帰宅したぞと告げる。

 手を洗ったり、うがいしたり。

 最低限の身だしなみを整えて、二階の部屋に上がる。そのまま、ベッドに腰を落ち着けて、はぁっと脱力。


 学校からユウさんのアパート。

 ユウさんのアパートから俺の家。


 まだまだ真夏と変わらない炎天下で、一時間近くも歩き通しというのは健康的な男子学生であっても辛かった。

 運動系の部活動に励んでいるわけでもなし。

「体力不足はあんだろうけど」

 よ、とさっそくエアコンのスイッチを入れて、扇風機を回す。彼らは九月に入ってもまだまだ現役で、そのうち過労で倒れないか心配だ。


 部屋が涼しくなるのを待つ間に確かめてしまおうと、無造作に床に置いた鞄からスマホを取り出す。

 ずっと気になっていたけど、ユウさんの目の前で確認するわけにもいかなかった。

 それは、彼女とスマホどっちが大事なの? という、恋人にありがちな嫉妬や優先度の話ではない。そもそも、ユウさんとはそういう関係でもない。

 ただ、連絡相手が彼女の姉だったからだけで…………隠れて姉と連絡するとか、浮気みたいでなんか嫌だな。もちろん、ユウさんとはそういう関係以下略。


「返事ないし」

 通知のないスマホに顔を顰める。

 一応、メッセージアプリを開いてみるけど、昼休みに送ったメッセージは既読すら付いてなかった。

 忙しくて見てない?

 でも、アイドルは辞めたはず。いや、その確認をしたくて連絡しているんだけど。


「気付いてない? いや、既読無視か?」

 うん、なんかそんな気がする。妹関係のメッセージは即レスだもの。

 なので、最近買った流行りのミニキャラスタンプで『みろ』と送る。

「……」

 既読なし。

 スタンプ連打連打。

 返事なし。


「…………」

 段々とイライラしてきて、通話をかけてみる。でもやっぱり、どれだけ待っても出てくれない。ぶつりと呼び出しが切れて、くそぉぅっと画面を睨む。

 絶対に無視してる。

 もしかしたら、本当に返答も、通話にも出れない状態なのかもしれない。

 でも、たぶんそうじゃない。俺の勘がそう告げている。


 諦めて背中からベッドに倒れる。そのままスマホを投げ出す。

「……誰とも話したくないとか、そういうこともあるのかな」

 アイドル引退。

 それがどれほどの覚悟がいるのか、俺にはわからない。

 世間は大騒ぎしているけど、シノならば飽きたからやーめたという軽いノリの可能性もある。性格的にありえなくはない、と俺は思っている。


 でも。

 逆に相当思い詰めて、ということも、

「なくはないんだろうなぁ」

 あけすけで、遠慮のない性格をしているけど、だから繊細じゃないとはならない。本人を前にしたら鼻で笑うだろうけど、気にしいなのは間違いないと思っている。

 特に妹のことについては。でなければ、わざわざ妹と知り合いっぽいからという理由だけで、顔見知りでもなかった俺をバーに連れ込んで問い詰めたりはしない。


 大雑把に見えて、なにくれとなく周囲を気にかけているのだろう。

 利己的ではあるけど気遣い屋というか……どうあれ面倒な性格をしているのは間違いなかった。

「そっとしておくのがいいんだろうけど」

 熱に浮かされたような、気の抜けたユウさんを思い出すと、待ってはいられないか、と脱力する。


 自然と元気になってくれればいいんだけど、その兆しはない。

 うりうりと構えば少しは気を持ち直しはするが、一時的なものでしかなかった。根本的な解決をするなら、やはりシノに事情を訊くしかないのだろう。

 ただ、

「俺がそこまでやるべきか」

 結局、他人事でしかない。

 余計なお世話かもしれない。さらにこじれるかもしれない。

 時間が解決する、なんて安易で平易だけれども、確実に効果があるのもまた時間でしかない。


 ほっとけばいい。

 そんな気持ちもないではないが、

「やるって決めたしね」

 ユウとシノの顔を思い浮かべて苦笑する。やれやれ。いつの間に俺はこんな熱血キャラになったのか。

「面倒事に首を突っ込むたちじゃなかったんだけど」

 自分自身に辟易する。


 ただ、やると決めたところで、問題のシノと連絡が取れないのでは話にならない。俺がどれだけやる気を出したところで、このままではから回ってばかりだ。

 そうでなくたって暑さでバテそうなのに、無為無策で走り回っては俺が先に参ってしまう。

「シノと否応なく連絡を取る方法……」

 なんか、なにか、あー…………あー。あるか。一応、二つは。


 一つは自宅訪問。

 家まで行けばそりゃ会える。最初にやってきたのはシノだし、こちらがやり返しても文句は言えまい。言いそうだけど。

 確実性はある。

 けどなぁとも思う。

 放課後はユウさんも家にいるだろうし、事情がハッキリしないまま俺がコソコソ嗅ぎ回ってると知られたくはなかった。他に方法がないのならやるが、できるなら避けたい方法だった。


 となると、残った方になるのだが、

「でもなぁ」

 嫌だなぁ。

 さっきから、口からも心からも後ろ向きな言葉しか出てこない。だってやだし。


 かといって他の方法は思いつかない。

 そして、やると決めてしまった以上、やるしかないのである。

「今から諦めたい気分」

 でも、仕方ない。やるか。

 腹を括る。


「アイス食べよう」

 今にも心折れそうな軟弱な精神を、前倒しのご褒美で補強していく。

 これは、明日頑張るために仕方のないことなのだ。ダッツのバニラとチョコのダブルが食べたい。うまうましたい。


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