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芸能クラスに人気アイドルの双子がいるひとりぼっちな同級生は、俺にだけ姉に負けない素顔を見せてくる。  作者: ななよ廻る
第2部 第1章

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第6話 心配してと思うだけでは、誰も心配してくれない

 教室に行っても、やはりというか当然というか。

 話題は昨日と同じだった。放課後からそのまま時間が繋がっているような錯覚を覚えるぐらいに、なにも変わっていない。ただ、外から入り込む明るさだけは違って、白い斜光が差し込んでいる。


 不安、心配、興味。

 混じり合った感情が教室の中で渦巻いているのがわかる。ほとんどの人は一方的にシノを知っているだけで、直接話したこともないだろうに、こうも心をかき乱されるものなのか。


 そんなことを考えながら、席に鞄を置く。置いて、来るかと身構えたけど、近寄って来ないことに拍子抜けする気持ちと、大丈夫かなって心配する気持ちが交錯する。

 気になって後ろを見ると、ユウさんは登校していた。自分の席に大人しく座っている。昨日のようにそばに寄ってくる気配はなかった。


 俺が登校したのに気付いていないというのもあるだろうけど、その大きな胸の内をシノが占めているのだろう。本人に訊いたら否定するだろうけど、普段と違うのは目に見える。

 大人しい性格だ。

 友達と話すところなんて見たことはなく、ひっそりと席に座っているのは変わらない。でもやっぱりどこか意識が散漫で、ぼーっとしている。

 たぶん、他の人にはわからない些細な違い。

 それがわかるようになっているのを喜ぶべきか、恥ずかしがるべきかはわからないけど、今はそうしたむず痒くなる心の動きから目を逸らしておく。


 気付くことで心配になる。

 知らなければよかったなと思えないのは、それだけユウさんに気持ちが偏っているということなのだろう。仲良くなった、という表現が一番丸い気がする。


 ともかく、そんなユウさんを黙って見ているというのは心情的に難しかった。

 教室に着いて早々、鞄だけを置いて席を離れる。

 昨日とは真逆。

 今度は俺の方からユウさんの席に向かっている。そのことに、気後れするような感情が芽生えるけど、幸い同級生たちは旬な話題に気を取られていて、こちらに目を向けることはなかった。


 話題を掻っ攫われたことにだけは感謝するも、そもそもユウさんが落ち込んでいる……? というか、様子がおかしいのはシノのせいだ。どっこいどころか、だいたいシノが悪いのだから、感謝の気持ちは返上してもらおう。


「おはよう」

 ユウさんがのろのろと顔を上げて、「……あ」と今気付いたというような声を上げる。戸惑うように目を泳がせて、結局なにも思いつかなかったのか「おはよう」と控えめに挨拶を返してくれた。

「……」

 それきり、困ったように黙ってしまう。


 昨日、一緒に下校した時は、少しは調子を取り戻したかなと思っていたけど、一晩経って元に戻ってしまったらしい。考える、というか、思い悩む時間だけは沢山あったのだから、仕方ないのだろうけど。

「心配?」

「……そんなんじゃない」

 誰をとは言わないまでも尋ねてみると、ぐっと下唇を持ち上げて突っぱねてくる。まだ意地を張る元気があるようだ。そのことに安堵しつつも、このままというわけにもいかないよなとも思う。


 ユウさんは華奢だ。精神的にも強いとは言えない。

 そのうち心に引っ張られて体調を崩すんじゃないかと心配になる。なにより、このまま見てみぬふりをして放置をするなんて真似ができるわけ……とまで考えて、首を捻る。

 いや、そうでもなかった、か? と。


 少し前なら、誰が気落ちしていようがここまで気にしなかったはずだ。大丈夫? とその場では心配しようとも、その心配ごとを解消しようと行動を起こすなんてしなかった。

 ドラマの中ならともかく、実際の人付き合いなんてそんなものだ。心配してほしいと思ったところで、誰かが気にかけてくれるなんて稀だ。


 その稀なることをしようとしているのはなぜなんだろうと思っていると、「……どうかした?」とユウさんが消え入りそうな声をかけてきた。

 急に考え込んだ俺を心配したのだろうか。金色にも似た琥珀の瞳が僅かに揺れている。

 俺はその瞳を受け止めながら、「なんでもない」と気軽を装って返す。


 どうしてほっとかないのか。

 その正確な理由までは俺自身わからないけど、こうして俺の顔色を見て心配してくれる人に優しくしたいというのは間違いではないはずだ。  


  ■■


 昼休みになって、一緒にお昼を食べようとユウさんを誘う。

 彼女が控えめに頷いてくれたので、そのまま一緒に教室を出る。お弁当なんて洒落た物は持ってきていないので、いつものように購買部に寄ってからだ。


 その途中で「ちょっとトイレに」と、少しだけユウさんから離れる。

「こんなコソコソと隠れるような真似、したくはないけど」

 本人に言うわけにもいかない。

 そんなことする必要はない、と強がられるのがオチだ。


 むすっと唇を尖らせるユウさんを想像しつつ、スマホでメッセージを送る。

『話したいだけど、どこかで会える?』

 と、渦中のアイドル様で、ユウさんの姉に。



 ◆第1章_fin◆

 __To be continued.


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