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芸能クラスに人気アイドルの双子がいるひとりぼっちな同級生は、俺にだけ姉に負けない素顔を見せてくる。  作者: ななよ廻る
第1部 第4章

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第6話 女の子を家に誘って断られるのは堪えるものだ。

「……お、おはよう」

「うん、おはよう」

 肩を内側に寄せて、顔を俯かせて。

 ユウさんらしい内気な反応は、いつも通りを窺わせた。

 躓く挨拶も平常運転で、俺も普通に挨拶を返す。


 いつも通り。だからこそ、他の異常が際立つ。

 早すぎる時間。夏休みの制服。

 今日は長い髪を三つ編みでまとめ、大きな眼鏡をかけた文学少女モードで、教室で見慣れた姿だ。でも、玄関前で見るには違和感が強い。


「こんな朝早く、どうかした?」

「……ど、どうかした、というか、ただ、会わなくちゃと思ってて、確認で、えっと、……お姉ちゃんが違うって、でもわたしは」

「混乱してるのはわかったわ」

 やっぱり、いつもとは違うらしい。

 常に緊張と焦燥を混ぜた反応をしているからか、なにかあっても違いがわかりにくいのかもしれない。

 平常時と、緊急時の差が少ない。常日頃から防犯ブザーを鳴らしているせいで、いざ必要な時に信じてもらえないような、そんな感覚。ちょっと違うかも。でも、近い。


 要領を得ないたどたどしいユウさんの説明はまだ続いていて、なにを言いたいのかよくわからない。理路整然とはかけ離れた、思いついたまま話しているような説明だ。

 泣いている子どもみたい。

 もしかしたら本当にそうなのかもしれないと、こすったように赤くなった目元を見て思う。うちは駆け込み寺だったっけか。そんなことを思いつつ、ぱんっと手を合わせる。

「っ……!?」

 びっくり。

 と、なにやらぼそぼそ口にしていたユウさんが目をパッチリ見開いて顔を上げる。注目を集めたいならやっぱり音だよね。


「事情はよくわかんないけど、とりあえず上がってく?」

 ユウさんの長いだけの話は大半が右から左に抜けていったけど、俺に会いたかったというのだけは脳に引っかかって残っている。

 記憶に残った理由は……なんだろう。

 たまたまそこだけ聞き取れたのか、それとも、会いたかった、なんて。そんなことを言われて、無意識に都合のいい部分だけを拾ったのか。

 理由を挙げた時点で答えは明確なような気もするけど、そうだと確定させることはせず、曖昧なままにしておく。なぜなら、恥ずかしいから。


「星観くんの……家」

 うちを見上げて、ふるふると小さく首を左右に振る。

 断られた。

 この流れでそうなるとは思わなくって体が固まる。まさか……怖がられてる?

 男の家に上がるのに抵抗があるのはわかる。その警戒心は正しいけれど、そもそも前回上がってるし。今、家には母親もいるから一人ではないし。

 なんでと思う。思って、思ったよりショックだった。

 そういえば、前は向こうから言ってきたから、誘ったのは初めてだった。


 内容はともかく、女の子を誘って断られるのは、存外心にダメージがあるんだなと知りたくもなかった現実を知ってしまった。告白してないのに振られたぐらいのダメージはあると思う。

「い、嫌とかじゃなくって」

 俺の顔を見て悟るものがあったのか、頑張って手を振って否定してくる。

 ただ、それがどうにも慰めにしか見えなくて、「……うん、わかってるから大丈夫」としか言えなかった。大丈夫、と言って本当に大丈夫な人なんているのだろうか。あははー。


「行きたい、場所があるの」

 願うようにぎゅっと手を合わせる姿には嘘はないように見える。心にかかっていた負荷が少しだけ軽くなった。

 すると、余裕も生まれて、疑問が浮き上がってくる。

「それはいいけど、俺に予定があったらどうするつもりだったの?」

 こんなに朝早く来て。

 家にいたところで、誘いを受けるかどうかはわからなかったはずだ。

 なにか考えがあったのかな。そう思ったけど、

「あ……」

 と、わかりやすい反応に、あ、うん、となる。考えなしだったのね。


「無理なら帰る……」

 見るからにしょぼくれて、夏の朝日の下で濃い雨雲を背負い出す。そのままざーっと一雨が降り出すのを見てみたい気もするけど、かわいそうなのでやめておこう。

「そんな顔しないで。

 暇だからいいよ」

「……!」

 すると、パァッと朝日に向いて咲く向日葵のような笑顔を浮かべる。

 可憐な顔は、長い前髪や大きな眼鏡で隠されているのに、それでも表出するあどけない愛らしさに口元を隠す。


「どうか、……した?」

「……、なんでもない」

 疑問符を頭に乗せて上目遣いで見てくるのはやめてほしい。

 まさか、ニヤけそうになる口を隠したなんて言えるわけもない。無垢も時には武器だなと、その無自覚な凶悪さが恐ろしくなる。

 朝から刺激が強い。

 頭の隅っこに残っていた眠気もすっかり覚めた。これ以上はただの毒でしかない。極力、ユウさんの顔を見ないようにしつつ、門を開けようとして……あ、となる。


 ユウさんと同じように上げそうになった声を喉元で抑える。そして、自分の姿を見下ろす。

 寝間着にしているTシャツと短パン。

 誰に見せるものでもないしと、着古した服はよれよれで伸び伸びだ。

 足元もサンダルで、なにより直してない寝癖もあって寝起きそのままの格好だった。

 近所のコンビニならいいけど、こんな朝早くから訪れて誘ってきた場所がそんな手軽なはずもないだろう。


 がりがりと頭をかく。

 待たせるけど、急に来たのはユウさんだ。そこは我慢してもらおう。

「準備してくるから待ってて」

「う、うん」

 控えめにユウさんが頷く。

「三十分でも、一時間でも待ってる」

「高級カップ麺ぐらいで戻ってくるよ」

 言って、家に戻ろうとしたけど、後ろから聞こえてきたひとりごとのせいで玄関扉に頭をぶつけてしまう。

「高級カップ麺……何分だろう」

 五分だよ。

 シャレも通じない素直さに額が赤く、痛くなる。


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