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芸能クラスに人気アイドルの双子がいるひとりぼっちな同級生は、俺にだけ姉に負けない素顔を見せてくる。  作者: ななよ廻る
第1部 第3章

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第8話 プラネタリウムよりも、暗がりで観る君の横顔

 映画館を思わせるように並んだ椅子。でも、映画館とは違い見上げた天井は半球になっていて、男の子心くすぐる見た目をした無数に穴の空いた球状の機械が中央に鎮座していた。

 外から見た球状の建物部分がこの部屋だったのか。

 プラネタリウムと言われれば納得の形だ。むしろ、それ以外に球状の建物なんてなかなか思いつかない。野球ドームとか、どこかのテレビ局とか……結構あった。


 五十はあるだろう席数に対して、客は俺とユウさんを含めて五人しかいない。座席の指定はなく、館長だった受付の男性に好きなところに座っていいと言われてたので、できるだけプラネタリウムの機械に近い位置に座らせてもらう。

「おぉ」

 近くで見ると、よりメタリック。宇宙だ、と感じるのは空想上でしかないUFOと似た雰囲気を感じるからだろうか。穴からレーザーでも撃ちそう。おーかっちょいー。


「よかった」

 手すりから乗り出す勢いでプラネタリウムの機械を見ていたら、後ろからそんな安堵の声が聞こえてきた。振り返ると、「うぇ」とユウさんが悲鳴を潰したような声をもらした。

「や、あの」

 聞かれると思ってなかったんだろう。でも、ここは都会から離れた森の中のように静かだった。手首に触れなくても、脈の音が聞こえてきそうなぐらい。小鳥のさえずりのような囁かな声量でも拾えてしまう。


 椅子に座って、逃げ出すこともできない。結局、彼女が選んだのは困ったように俯くことだった。来客は少ないとはいえ、騒ぐような場所ではない。それはいいのだけど、よかったというひとりごとは俺の中に残る。

 これはもしかしなくても、俺が喜ぶか不安だった、とか?

 ユウさんならありそうだ。肩をこわばらせて背中を丸める姿は長い黒髪も相まって丸まった小動物を連想させる。そうした姿を見ると、ありそうが、これだなという確信に近くなる。


 やたら目的地を教えてくれなかったのも、不安の裏返しだったなら納得ができた。喜んでくれるかな、でもつまらないって思われたらどうしよう。そんなところだろうか。

 気の小さいことで。

 呆れるけど、臆病ながらもこうしてここまで連れてきてくれた勇気は称えるべきだろう。椅子に深く腰掛け、背中を預ける。まだなにも映っていない真っ白な天井を見上げながら、正直な気持ちを伝えておく。


「楽しみだし、楽しいよ」

「……あ」

 と、漏れ聞こえた声はなにを思ってのものだったのか。

 訊けないまま、館長の声が星観の始まりを告げる。 

 来場のお礼を告げる挨拶から始まって、日が暮れるようにゆっくりと室内の明かりが消えていく。隣にあるプラネタリウムの機械から光が伸びて、天井に映し出される夕暮れ空。

 円を描くように建物が並び、この辺りから見える空だとスピーカーから流れる館長の解説が教えてくれる。


 最初から星空を観るのかと思っていたけど、ゆっくりと時間が流れていくらしい。西の空に浮かぶ太陽が落ちていき、建物の影に隠れて見えなくなってしまう。

 ここにいるよと主張する夕日の名残である茜空も、次第に藍色に溶けていく。そうした日の変わり目。夜とも夕とも言えない空に一つの星が輝き出す。

 一番星。あれはなんて星だったろうか。

 抱いた疑問の答えは、また館長の解説が教えてくれる。

『――あれは宵の明星の金星――』

 そうだった。宵の明星。


 漫画かゲームか。

 なにかは忘れたが、どこかで聞いたことがあった。夕暮れに見える一番星。そして、明け方に見える明けの明星。同じ金星でありながら、観える時間によって名前の違う星。

 なんとなく、格好いいからという理由で覚えているのは、俺が男だからだろうか。ロマンチックとは程遠い。他に知っているのはスピカとか、夏の大三角とか。遠い昔、小学生の頃の自由研究かなにかで教えてもらったのをうっすら記憶してるぐらいだ。自由研究って、懐かしさしかない。


 この機に少しは覚えようかなと解説に耳を傾けると、静けさの中であっても聞き逃してしまいそうな声を拾う。

「……昔はお姉ちゃんと観に来たな」

 昔を懐かしむような、羨むような声に惹かれてそっと隣を窺う。ユウさんは光で再現された天井の夜空から目を離してはいなかった。ただじっと、人工の夜空を瞳に映して目を離さない。

 プラネタリウムの僅かな光に浮かび上がる、憂うような横顔を見ていると、解説の声が遠くなっていく。

 星ではなく、ただ隣に座る彼女を見てしまう。綺麗だな、と素直に思う。

 ……物憂げなユウさんを見てそんなことを思うなんて罪悪感があるけれど、見入るように目が離せなかった。



  ■■


「どう……だった?」

「あ」

 正面に座るユウさんの問いかけが、プラネタリウムの感想だと気付いたのは一拍遅れてからだった。さらに遅れること一拍。返すべき感想がないことにも気が付いて「あーっと……」と目が泳いでしまう。


 プラネタリウムの上映が終わって、ユウさんと一緒に館内にある小さなカフェテリアで昼食を兼ねたお茶をすることになった。入口から地続きに繋がったカフェテラスは、壁のように大きな窓が並んでいて外の広場が眺められる。

 窓際の席に座って、とりあえず紅茶を頼んだ。

 シノはバーでカクテル、ユウさんはカフェテリアで紅茶。性格と飲み物にも関係性があるのかな、なんて思っていたところに、訊かれて当たり前なのに、頭からすっぽり抜けていた質問をされて内心焦る。


 まさか、ユウさんの横顔ばかり見ていて、プラネタリウムをほとんど観ていなかったなんて言えない。せっかく連れてきてくれたのに、そんなことを口にすれば残念がるだろう。あと、素直に口にするには恥ずかしい。

「楽しかった、よ」

「……そっか」

 噛みしめるように笑うユウさんを見ると、うっと罪悪感が湧いてくる。余計に正直に話せなくなる。

 今度、改めて観に来よう。

 せめてもの罪滅ぼしにと再来館を決意する。だから、「また来るよ」と伝えたのだけど、どうしてかユウさんの顔が見るからに曇った。


「あれ? なにか問題ある?」

「……、ここ、閉館するの」

 あっさりと決意の再来館予定が立ち消える。

「閉館」

「うん。お客さんが減って、維持が難しいからって」

 確かにプラネタリウムの来客は俺とユウさんを含めても五人しかいなかった。カフェテリアに浮島のように並ぶ丸テーブルにも客はおらず、紅茶のカップを置く音がやけに響く。


 経営難か。

 駅を降りた時から人の少なさは感じていたけど、そうなのか。残念だと思うと同時に、しょうがないよなぁとも思ってしまう。人が来ないのであれば、どこであれ廃れ、失くなっていくのは世の常だ。


 でも、とユウさんを見る。

 内気なユウさんが曲がりなりにも受付の館長さんと話せていた。館長もユウちゃんと呼んで親しげな雰囲気があった。もともとここら辺に住んでいたのかはわからないが、それなりに足を運んでいたのは察せられる。

 思い出の場所なんだろう。

 今日初めて来た俺とは違って、しょうがないなんて簡単に受け入れられないに決まっている。通った年月が長いほど、寂しさもひとしおだろう。


 そんな思い出の場所に、閉館間近に俺を選んで連れてきてくれた嬉しさはある。けど、

「たぶん、来るのは今日が最後、かな」

 思い、憂うように紅茶の水面を見るユウさんを見ると嬉しさは霞み、余計だとわかっていても確認の言葉が口をついてしまう。


「よかったの?」

 最後の相手が本当に俺で。

 主語のない、短い確認。口にするかも悩んで、半端な言葉しか声にならなかった。ただ、言葉にせずとも察してくれたらしい。

「うん」

 と言って、上げた顔に陰りはない。

「最後は、わたしを観てくれる人と来たかったから」

 俺と来れてよかったと微笑むユウさんに、再び口を開こうとしたけど躊躇ためらって、「そっか」と相槌を打つことしかできなかった。



  ◆第3章_fin◆

  __To be continued.


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