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芸能クラスに人気アイドルの双子がいるひとりぼっちな同級生は、俺にだけ姉に負けない素顔を見せてくる。  作者: ななよ廻る
第1部 第3章

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第5話 顔を合せづらかったから……

「落ち着いてからでいいよ」

 いろいろ気になる点はあるけど、荒い息に赤い顔を見ると心配が先に立つ。ごめんと息も絶え絶えにユウさんはいつもより割増ふくよかに見える胸を押さえて、呼吸を整える。


 髪はやや乱れ、微かに濡れている。スカートの腰回りからシャツが裾がぴろんっと半端に顔を出していて、慌てて着替えてきたのが見てわかる。

 ユウさんも女の子だ。少し顔を出すだけだろうと、だらしない格好は見せたくないんだろう。結果、半端なことになってるし、なんで制服なのかはとんとわからないけど、そこを指摘する真似はやめておく。これ以上はわわっとされても困るし。


「お、お待たせしました……」

「平気?」

 頷く。

 上げた顔はまだ赤いけど、ここで時間をかけてもしょうがない。さっさと用を済ませてしまおう。

「はい、忘れ物」

 長い髪を手櫛で撫でているユウさんに鞄を差し出す。両手で受け取ったユウさんは「あ、ありがと」と小さくお礼を口にしたが、なにか聞きたそうにちらちら俺の顔を窺っては、また視線を泳がせている。


「どう、やってここに?」

「あぁごめん。

 説明いるよね」

 家の場所なんて教えていないのに、男が訪ねてきたら不安にもなる。俺だって、いきなりシノが来た時は怖かった。ほんと、どうやって知ったんだか。


「本当は天津姉に届けてもらおうとしたんだけど、直接届けろって言われて。

 で、教えてもらって来たの」

 教えてもらったというか、一方的に押し付けてきたんだけど、そこまで語る必要もないだろう。

 双子の姉妹だ。

 シノの名前を上げればなにがあったかなんてだいたい察してくれる。そう思ったけど、どうにも反応が鈍い。


「お姉ちゃんの連絡先を、……知ってるの?」

「え、……あーうん」

 固い声。

「そう、なんだ」

 と、僅かに顔を俯かせる。へその辺りで手遊びをしだして、どうにも微妙な態度。

 これは、なんだろう。

 考えるけど、思い当たる節なんて一つしかない。


「体調悪いんでしょ?

 もう帰るよ」

「う、ううん!

 元気、元気だから!」

 ユウさんの手が伸びてきて、俺の手を掴む。咄嗟の行動だったのか、「ごめんっ」と慌てて離す。一瞬の接触だったけど、手に残った熱を感じながら、ふむと首を傾げる。


「あ、あの……どうか、した?」

「元気って、今日学校休んでたよね?」

「…………あ」

 漏らした声が、なによりの答えなのだろう。


「もしかしてサボり?」

「…………午後になったらなお……ごめんなさい」

「謝る必要はないんだけど」

 嘘を突き通すふてぶてしさはなかったのか、すぐにしゅんっとなって謝ってくる。困ったは困ったけど、俺に謝ることではない。

 ただ、

「ちょっと意外だなーって」

 そう思う。


 もっと真面目というか、サボりなんてするタイプだとは思ってなかった。それはサボりはいけないことという善性もあるのだろうけど、どちらかといえば罪悪感に苛まれるイメージ。午前中は開放感でウキウキ、でも午後は皆が授業してる中わたしは……って気落ちする、そんな性格だと思っていた。

「行こう、とは思ったんだけど、今日はちょっと、無理で……」

「無理?」

「顔を、合わせづらく、て」

 ユウさんの顔が見る見る赤くなって俯いていく。


 顔を合わせづらい……。

 指先で頬に触れる。そのまま顎をなぞるように撫でながら考えて……これ、もしかして俺のせいか?

 昨日家に来たこととか、名前で呼んだこととか。

 家に帰ってから恥ずかしくなったとかそういう。

「あーその……ごめん」

 謝ったら余計に下を向いてしまった。なんだか悪いことをした気持ちになる。


「うんでも、風邪とかじゃないならよかった」

「そ、……れは、そうだけど、ここまで来てもらっちゃって」

 俯かせていた顔を上げて、上目で見てくる。

 熱はないはずなのに、浮かされるように潤んだ琥珀の瞳にどきりとする。

「……上がって、く?」

 家に、という主語は言葉にせずとも伝わる。


 深い意図はないのだろう。ただ迷惑をかけたから、休んでいってというだけ。とはいえ、その誘うような表情を見ると勘違いしそうになる。

 ユウさんは風邪じゃなかったのに、感染うつったように体温が上がる。胸の内で違う違うと繰り返す。

 俺の勘違いはともかく。

 どうあれ、男を部屋に上げるなんて勇気のいることだ。できれば応えてあげたいところだけど、懸念を確認しておく。


「上がるまでどれぐらい待つ?」

「…………い、一時間ください」

 だよねぇ。

 気まずそうに顔を背けたユウさんに「今日は帰るよ」と丁重にお断りを申し上げる。空は茜になり藍に染まり始めている。お茶する程度ならともかく、一時間も待っていたら夏とはいえ暗くなってしまう。


「せめて、なにかお礼を」

「そこまで大袈裟にしなくていいから」

「でも……」

 ユウさんの眉が下がる。

 そんな困った顔を見せられると、断る方が悪い気がしてくる。

 行動に対する対価。これも一つの義務かと折れることにする。ただなぁ。


「今週末で夏休みだから、予定が合うか」

 あと四日もすれば夏休み。

 ユウさんと会える機会は残り三日だ。鞄を届けたお礼ぐらい、購買で飲み物の一つでも奢ってもらえればいいんだけど、こっちから提案するのは気が引ける。

 とはいえ、そう構えることもない。どうにでもなるかと結論に至ったところで「な、なら」とユウさんが声を上げたのでそっちを見る。


 床に置いた自分の鞄を開ける。中からスマホを取り出す。

 それを胸の前でぎゅっと握って、両手で差し出してくる。

「連絡先を、こう、かん……しよ」

 対抗心。

 少し前にシノに言った言葉がどうしてか、俺の脳裏に浮かぶ。


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