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落とし物

 夜21時すぎ。私は5階の廊下を歩いていた。「お湯が出ないんです」とお申し出のお客様に、別なお部屋をご案内したところだ。


 角を曲がって、何か落ちているのに気がついた。


 カードケースだ。中身は交通系のICカード。修学旅行生の落とし物にしてはやや渋い山吹色で、裏には細い字で「四位冬美(ふゆみ)」とあった。

 あのお客様だ。


 手元の端末で宿泊者名簿を見る。「523号室 四位冬美」とあった。

 フロントで預かることも考えたけど523号室はすぐそこだ。ノックしてみた。


「夜分に失礼いたします、フロントの者です」


 しばらくして、ドアがゆっくり開いた。


「はい……何か?」

 さっきの女性が、おびえるような目をしていた。


「こちら、お客様の持ち物ではないですか?」

「あっ」

 ぱっ、と目に光が差す。


 四位様は「ありがとうございます、探してたんです!」と声を弾ませて受け取った。ああ、この方もこんな風に笑うんだなと思って、「よかったです」と立ち去ろうとした。


「あの、一つ聞いてもいいですか」

「はい」

「さっきロビーでの話が聞こえて……」


 私はどきり、とする。あのご夫婦のことだろうか。妄想が瞬時に浮かんでしまう。まさか、部屋番号を知りたいとか……。


「池が近くにあるのよね。展望所は夜何時までなのかしら」

「……展望所でございますね」

 私は拍子抜けしながら、冷静を(よそお)いその後を続ける。


「公共の施設なので特に営業時間はございませんが、ここ碧水館は基本的に23時には入口の鍵を閉めます。もし夜間に行かれる時は念のためフロントにお伝えいただき、お気をつけて行かれてください」


「わかったわ。ありがとう」

「この後お出かけになられますか?」

「ううん、今日は大丈夫。ありがとうございます」

「おやすみなさいませ」

「おやすみなさい」


 私はまた端末を開いた。念の為調べると四位様は東京から、中年ご夫婦のご住所は九州からいらっしゃっている。接点があるとは思えなかった。

 どうして四位様はご夫婦を気にしていたのだろう。


──いけない、フロントに戻らなきゃ。


 頭を振って歩き出そうとして、廊下の向こうの人影に気づいた。

 女の子が二人、こっちを見ている。

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