10.生徒会、初仕事!(side 双子たち)
アスタリテがライドールと図書館に向かったころ、闘技場ではハディート・ギュナスと双子が剣の練習をしていた。
正四角形の闘技場を貸し切った打ち合いは、もしも観戦者がいれば一対二の鍛錬に見えただろう。細身でありながらしっかり筋肉質な将軍子息にあしらわれ、双子のセザール公爵子息たちは悔しそうに剣を繰り出している。
三名はさかんに何かを喋っているが、客席に声は届かない。攻撃が客席に及ぶのを防ぐため、遮断結界が張られているのだ。爆音や派手な打撃音ならいざ知らず、話し声程度は漏れにくい作りになっている。
双子の性格を知る者ならば、それはちょっと弛んだ文句であったり、手加減を求める口上に思えたかもしれない。
が、じっさいは――――たいへん器用なことに、剣で打ち合いながらの会談だった。
「あんまり長居しても不自然だから手短に済ませよう。調べたところ、コレル・アローにその後、あやしい動きはない」
「どう……ッ、だか!」
「お、いいぞカルマ。その踏み込みだ」
「どうも」
渾身の突きを軽くいなされたカルマが低い声で礼を言う。
「じゃあ何か? アロー先生はなぜあんなことを」
「シュラト、左ががら空きだ。無意識に弟がいる側を無防備にするんじゃない」
「うっ」
試合用の小手をぴしりと打たれ、シュラトは呻いた。
――さすがは将軍子息。
闘技場の結界内なら誰にも傍受されずに会話ができるぞ、と持ちかけたわりには本気である。
シュラトは若干うらめしそうに上背のあるハディートを睨む。
「だとしても、わざわざアロー先生の話題をここで切り出した。ファビアン殿下のお調べでは、まだ疑いありなのでしょう?」
「殿下は、根が慎重だからなぁ」
カルマが果敢に打ちかかるあいだにシュラトが問う。ハディートは軽々とカルマの剣を避けていた。
「もともと魔法の研究が趣味みたいな人物だから、たまに問題を起こすんだ。学園に無断でゴーレムを生成しようとしたり、余暇に実家で精霊召喚を試みたり」
「……問題だらけでは?」
「そのつど実家側で潰されてる。管理が行き届いてるんだ、アロー侯爵家は」
「管理……」
「次期当主でもある長兄殿が清廉潔癖な魔法騎士団長だからな。いたずらはできても悪さには至らない」
「っ、入学して間もない少女に魔法攻撃をしかけるのは、いたずらですか」
「そうは言っていない。ただ――不可解な行動はある」
「? たとえば?」
眉間に皺を寄せたハディートは、今度は上向けた手のひらの人差し指をちょいちょい、と動かした。シュラトを挑発したのだ。
その隙にカルマは脇に退き、息を整える。
ガン、カァン! と、シュラトと剣で火花を散らせるあいだに、ハディートはますます苦い顔になった。
「堅物で有名なあの教師が、夜歩きをするようになった」
「は?」
「家人が寝静まったあと、たびたび屋敷を抜け出しているらしい。行き先は不明。使用人たちの噂では、近ごろコレルの部屋で見たこともない花が育てられるようになったとか」
「……魔法以外に恋人でもできたってこと?」
「わからない。だから、判断に困っている――っ、と」
「うっわ!!」
キィン! と高い金属音のあと、シュラトの剣が大きく弾かれた。
カルマが飛び退いてそれを避けると、ハディートは腰に手を当て、からからと剛毅に笑う。
「『鍛錬』は、以上だ。ふたりとも、本戦に出たくないからって手を抜くんじゃないぞ」
「「は〜い」」
やれやれと肩を下ろし、双子はくたびれた様子で返事をした。
結界を出たとたん、三名はちりりとうなじを炙るような視線を感じた。
――――青天の闘技場内は無人のまま。
誰もいなかった。
***
生徒会に戻った剣術組の三名は、扉の前でちょうど図書館帰りの魔法組のふたりと落ち合った。
シュラトとカルマは煉獄で女神に逢ったかのように生き生きと喜び、我先にアスタリテに走り寄る。
「アスタリテ嬢、ただいま!」
「僕たちはハディートにボコボコにされたけど、きみはライドールに虐められてない? かわいそうに、こんなに荷物を持たされて」
「えっ、いえ、あの」
両手に資料を抱えたアスタリテは防御姿勢をとることもままならず、なすがままとなった。
すなわち頭を撫でられ、遠慮なく抱きつかれたのだ。それを見咎め、ライドールが手にした冊子でふたりの後頭部を殴る。
双子はたいして痛がりもせず、どさくさでアスタリテの荷物を奪って離れた。
カルマは悪びれず、しれっとライドールに流し目を送る。
「何をするんだ。乱暴な」
「どの口が……? はぁ。大丈夫かい? アスタリテ嬢」
「は、はい。申し訳ありません」
「貴女が謝ることなど何もないと思うけど……まぁいい、入って。お茶でも淹れさせよう。ハディート、シュラト、カルマ。ちゃんと手を洗っておいで」
ハディートは実直&やや脳筋。
ライドールは意外におかん属性でした。




