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09.【犬】vs【目】

毛むくじゃらの魔物は群れで行動するようになっていた。


同族たちは知らぬ間に一人また一人と未知の何かに

食われていった。その遺骸の傍で聞いたこともない

狂猛なうなり声と咆哮を耳にしたものがいるらしい。

どうやら、そのまるで悪魔のような生物は一人きりになると

襲ってくる。

その見えない悪魔を恐れ、毛むくじゃらは徒党を組んで

行動していた。それでも何らかの理由で群れを離れたものは

例外なく殺されてしまった。


一方の犬はというと困っていた。

久々の獲物を捕らえ、お腹いっぱいになったはず

だったのだがそれでもすぐに空腹はやってきた。


当然だった。魔物というこれまでにない

豊富に魔素を含んだ肉を食らい、

犬の魔力は強化された。

強化された魔力は犬の牙や脚を更に強くし、

そしてそれは更に体内に取り込まれた

魔素を消費することとなった。

その繰り返しだった。


毛むくじゃらがあまりにも群れはじめたので

犬は狩りが難しくなった。群れからはぐれるものが

いなくなってきたのだ。集団の怖さは知っていた。

ずっとその群れに張り付いていても仕方ないと犬は

次の獲物を探し始めた。


布きれ、おそらくレイスがひらひらと宙に舞っていた。

何だって、風もないのに布切れが飛んでいるんだろう?

犬は布切れをぽかんと見つめていた。

と、布きれがこちらに近づいてきた。

思わずうなり声が犬の口から洩れると、その布切れは

その場でふわふわと停止した。

こいつはいったい何なんだろうと不審気に鼻をひくつかせて

正体を探っていると、布切れが妙な動きをしながら

震え出した。

途端に犬は嫌な予感がして身構えた。


布切れから炎が発せられた。

犬は迫りくる炎に驚愕しながらも容易く躱して見せた。

野生動物は火を怖がるものだが、犬は冬の寒い日に

少年の腕に抱かれながらよくストーブで暖をとったものであった。

ストーブが無くても少年の腕の中にいるだけで犬は満足だった。

それは幸せな時間だった。

そのためか犬は火に対しそこまで恐怖心がわかなかった。

それでもいきなり降りかかった炎は犬を十分に驚かせてはいたが。


犬は一目散に逃げ出した。

途中別の布切れが目の前に現れたが止まることなく噛みつき、

そのまま犬の口の中でボロボロと崩れていったが

そのまま犬は逃げ続けた。

布切れは主人と引っ張り合うおもちゃにはなりえど、

狩りの対象になるはずがなかった。

おまけに、それは魔法とよばれる現象ではあったが

炎を発するのだ。

訳の分からない現象に犬はただひたすらに逃げた。


それからも犬はよくわからない大きい一つ目を持つ獣や

うねうねと這いずる蛇の様な何かや、腰が曲がっている割に

よく動いて騒がしく群れる小さい人型の魔物を見つけては

問答無用で襲い食らっていった。

一つ目や蛇は、もはやそれは猪などよりはるかに大きく、

今までの犬ならば襲うのを躊躇わせるはずだったのだが、

極度の飢餓感は犬に恐怖心を忘れさせた。

小人は群れていたが小さかったので恐れずに襲い掛かり

まとめて腹の中に入れた。

出だしは不調だったが、ダンジョンの中の狩りは

順調だった。

何故か食べているのに強烈にお腹がすくこと以外は。


ふと開けた場所に犬はたどり着いた。

美味しそうなニオイを感じ取ったからだ。

そこにたどり着くと犬はぎょっとして吠え出した


そこには花が咲き乱れていた。

遠目に見れば、その光景は息を飲むほど美しい

光景であっただろう。

近づけばその花は紫色の花弁の中心に

赤く血走った目のような花柱があった。

その目が、そこに咲き乱れる眼が一斉に

自分を見た気がしたのだ。

でもいくら吠えても花は花なので何も起こらなかった。


何も起こらないので、犬は花の一つに近づき

くんくんとニオイを嗅いだ。良いニオイがした。

咥えてみようかとしたその時、後方に気配を感じ

そちらに注意が向いた。先ほどの犬の吠声が

何かを引き付けたのかも知れない。

いつの間にか、そこにはいつぞやに狩った大きい一つ目の

四つ足の魔物がいた。以前狩った獲物よりも大きい。

そこにある花のように血走った大きな一つ目で

犬を捕らえていた。

犬は向き直ると大喜びで一つ目に向かっていった。

今や犬は文字通りの飢えた獣だった。


一つ目がその強い目力に更にぐっと強い力を込め始め、

次の瞬間にその眼からは黒い雷が犬に放たれた。魔法だ。

狂猛にまっすぐ襲い掛かっていた犬は被弾し、

たまらず悲鳴をあげた。

全身に激痛が走ったが、飢えた獣相手にその痛みは

追い払うどころか闘争心を煽る結果となった。

いっそう狂暴な顔となり犬は一つ目に襲い掛かった。

一つ目はまたその目に魔力を集中させ始めたが、

犬も我知らず自らの脚に魔力をより集中させ、

そして瞬発的に加速すると一つ目の喉笛に食らいつき

そのままその巨体を引き倒した。

脚をバタつかせ喘ぎ苦しむ一つ目は自らへの被弾も

恐れず犬に魔法を放った。

痛みでどんどん狂暴になっていく犬は牙に更に力を込め、

そのイメージする魔力の巨大なマズルの牙は

一つ目の首をかじり飛ばしていた。


大物を仕留めた犬は大喜びで一つ目の肉を漁った。

お腹がいっぱいになるような減っていくような感覚に

我も忘れて食べた。その姿は狂暴な獣そのものだった。

犬と比較にならない程に大きいはずの一つ目を

残らず平らげると犬は血で汚れた自らの身体を清め、

次の獲物を求めてその場所を後にした。


2匹の獣の戦いを観戦していた花々は立ち去る犬を

ほっとしたような目で見送っていた。

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