77.エピローグ5
女神からの集合連絡に世界各地に散らばって
終わらない旅を続けていた群れはそれぞれに
家を目指した。
世界を旅して得てきた新たな構想を形にしようと
ここ数年はダンジョン最下層の研究室に籠っていた
アンデッド達は直ぐに転移してくると
酷いケガをしたククと人間の子供を見て
大慌てに手当てに取り掛かった。
そもそも致命傷には程遠かったククとその主だったが
不死者である3人にまともな手当てなど
出来るはずも無く、包帯ぐるぐる巻きにされて
身動きが取れなくなって床に転がってもがいていた。
その元気にもがく様を前に
ふう、一安心と胸を撫でおろすと
どうやってこの子たちがここにきたのかを不思議に思った。
リッチご自慢の隠蔽の力も全員で協力して
築き上げた封印も突破された形跡はない。
ククのことは勿論わかるが、その連れ立ちも
その感じさせる気配はかつてこの群れの一員であった
あの子たちの子孫だろう。
この怪我・・・
ああ、女神がきっとこの子たちの危機に手を
差し伸べたんだろう。
世界のバランスが狂うからこれからは
絶対に特定の誰かを、例え群れのみんなでも
特別扱いはできない。
私はきっと一人前の神となってこの世界を、
この世界に生きる皆を救ってみせる!!
と声高々に宣言してからも
この最後に群れに加わったこの子は結局はいつもこうだ。
まぁそんな優しいこの子だからこそ、この世界を
任されたのかも知れない。
同時にその答えに至って微笑みながら
顔を見合わせて自らにその目線を移す3人の姿に
女神は何か見透かされたような気がして
むぅと頬を膨らませてそっぽを向いた。
ずっと研究室にいたこともあって、ここ数年は
しょっちゅう会っていた女神とアンデッドたちだが
他の群れの家族たちと会うのは本当に久しぶりだった。
一陣の風が吹いた―――
おそらく家に近づいてその懐かしくて安心できるその気配に、
そしてそこに感じる我が子と我が子同然だった者たちの気配を
前に、はやる気持ちをそのままに辿り着いた魔王たちの眼に
ぐるぐると布に包まれてもがいている気配の元が目に入った。
ええっ!?
どういうこと??
ちょっと状況を理解するのに時間が必要だった
魔王の背から不審なぬいぐるみのモデルとなったであろう
立派なローブを纏った人物を背に、この世界では見慣れない
獣を頭に乗せた同じく見たことも無い巨大な四つ足の獣が
降り立った。
四つ足の獣はわんわん吠えながらももがいている
2人との再会を祝うように嬉しそうにペロペロと舐めた。
犬と猫は元の世界で少年の平凡で幸せな一生を
見届るとそれを機に、こちらの世界に移住してきていた。
元の世界に帰った犬は普段は力を抑えろと猫に
教え込まれてはいたが、テンションのままに
つい全力で走り出したり、それで車に轢かれてしまえば
車の方が大破して犬は無傷だったりと一応頑張って
抑制していたつもりだったのだろうが度々騒ぎを起こしては
鎮火に女神の力を借りることになっていた。
猫や女神がこっそり夜中に連れ出して
その全力の散歩に付き合ってあげてはいたが
犬にとってはストレスの溜まる生活だっただろう。
それでも犬は生涯の主人たる少年と一緒にいたがった。
少年との永遠の別れにどうしようもない程
泣き叫ぶかのように遠吠えを繰り返す
犬の姿に胸を痛めた猫にお願いされて女神は
犬と猫をこの世界にまた連れてきた。
猫は残っても良かったのだがそろそろ本格的に
化け猫扱いされ始めたし、ここにいるのも潮時だろう。
不思議な獣にペロペロと舐められると
驚くべきことにククとその主の怪我は
まるで無かったかのように、千切れてしまっていた
尻尾すらも一瞬で治ってしまった。
そんな高度な魔法なんて聞いたことも無かった
2人は目を丸くした。
ようやくぐるぐる巻きの包帯から助け出された
ククは久々の両親との再会を喜んだ。
魔物たちは魔素より産まれ、その濃さとその環境が
その種族を左右する。
そんな魔素がない地上で生活し始めた魔物たちは
卵生胎生で地上にその子孫を残す様になっていた。
そうやって地上で産まれた魔物たちは魔族と総称され
ダンジョンで産まれる魔物たちと比べれば
魔力は低くなるもののその代わりに少しだけ
地上での魔力の行使を可能としていた。
特効薬が見つかった魔獣と変わってその新たな種族たちは
差別対象となるかに思われたが実利もあって
比較的友好的に人の世界に受け入れられた。
魔獣化が抑えられたことで魔素の需要は高まり
その収集人たる冒険者たちは以前とうって変わって
讃えられるようになっていた。
むしろダンジョン内でその力を増すその種族たちは
冒険者として熱烈に歓迎された。
その裏ではそうなるように奔走した女神の姿が
あったのだが、その甲斐もあって笑いあいながら
手を取り合った二つの種族の姿に
『初めて神らしいことができたのかも知れません』
ふんすふんすと鼻息を荒くしていた。
それでも―――
世界から差別が無くなったわけでは無かった。
貧富の差、権力の差、才能の差・・・
埋めることのできない格差は絶対にある。
過去にはむしろその力に託けて人間を差別しようとした
魔族が現れたくらいだった。
それらはあっさりとこの群れに狩られてしまったが
それもまた一方的な力の差別と呼べるものなのかもしれない。
食べなきゃ動物は生きていけない。
捕食される側に回る者は必ず絶対に存在する。
この世界ではきっとずっと誰かが泣き続ける。
それをもちろん良しとは思ってはいないけれど・・・
いつか二つの種族が手を取り合えた様に全ての存在が
笑いあって・・・な~んて都合の良い世界が仮に
訪れたとしたらその後に全員で仲良く餓死することになる。
そんな本当に優しい世界を生きることが許されるのは
あの同じ世界で生きる違う世界の住人たちだけだろう。
それでも、そんなどうしようもないおかしな
こんな世界だからこそ必死に生き抜こうとするその生命の
輝きが本当に眩しく、愛おしいと女神は思った。
ククは再会を喜んだ両親はその成長した力の使い方のコツを
伝授したり、別れたあの日からククがずっと一族を
守り続けていた話を聞いた。
『すまんな・・・我らの言葉がずっとうぬを
縛り付けていたか・・・』
『自由に生きても良いんだよ?』
と伝えられた。
『・・・?』
『ルカといるのほんとうにたのしいよ?』
『これからもルカといっしょ』
『そうか・・・』
どうやら友と呼べる存在を見つけたらしい
我が子にかつて魔王と呼ばれた存在たちは
満足そうに頷くとその力をククに分け与えた。
一方、ルカと呼ばれたククの主人は
リッチ式魔素バッテリーから自らの器官の様に
自由に魔力を出し入れする姿を感心されていた。
「ほぉ~??」
「時を経てそんな使い方ができる様になったか・・・」
「全く、生命とは時に予想だにしない進化を遂げるのじゃな」
魔素に弱すぎるその体質のための御守り替わりの
つもりだったが逆にその体質とかみ合ってその力は
この世界では異質なほどの力を振るっているだろう。
『ほれ・・・』
『最新式のリッチ式魔素バッテリーじゃ』
『これを使えばお主ももっと強くなれるじゃろ』
手渡された新しい宝石にルカが目を輝かせていると
「そのままじゃ持ち運びしにくいでしょう?」
ゾンビの少女が器用にデュラハンがひとっ走りして
狩ってきた下層の獣の皮を使って首にかけられるように
細工してくれた。
それに万が一でも誰かに奪われたら事だからと
ローブが一族以外に見えない様に隠蔽の魔力を
込めてくれた。
それを首にかけてご満悦のルカと新しい力を与えられて
はしゃぐククの姿に女神は頬を緩めつつも
『もう~駄目ですよ!!』
『あんまり私たちは世界に干渉しちゃいけないんです』
今や女神の眷属とも呼べる家族たちを全く威厳を
感じさせない様で怒っていた。
そういえば、この動く不思議なぬいぐるみは?
その質問がされるのが解ったのかぬいぐるみは
問われる前にそれを止める様に手を差し出して応えた。
『もし、自分たちの力だけでまたここに来れたら
私の正体を教えてあげます』
『さあ、今は家にお帰りなさい』
光の道がまた顕現されるとククとルカはあっという間に
家に送り出された。
結果、後に【女神の少年】と比較される程の伝説の英雄となる
【クク】と【ルカ】のコンビは今はルカの両親に
こっぴどく怒られてすっかりしょげかえっていた。
ええ~?せっかくだしもうちょっと話したかったけど??
不満そうな眷属たちの言葉も放たれる前に女神は制止すると
『大丈夫ですよ』
『あの子たちならきっとまたここに辿り着けます』
『話はその時に・・・』
『それにだって今ここに来たのはズルですもん・・・』
この群れの生命のリレーのバトンを受け取って
今、その先頭を走っているあの子たちならばきっと
またここに辿り着ける。
そのズルをしたのが自分だと言うことを棚に上げて
女神は言い訳していた。
『でも、こうして久しぶりに皆揃ったんです』
『あの子たちはもういなくなってしまったけど・・・』
『その血脈がここに辿り着いたんです』
『これは久々にみんなで集まってお祝いしなきゃでしょう?』
たぶん相変わらず何も解っていない犬が唯一わんわんと吠えて
女神に同意していたが
『いやいや、あんたが皆で集まりたかっただけでしょうが!!』
猫のツッコミを他の皆が支持しつつも、
それでも会いたかったのは自分たちも実は一緒で―――
軽口を叩きあって笑いあうその群れのその姿を
青の景色の中から魔花の穏やかな瞳と
あの日から全く変わらずずっと一緒に寄り添って
それを見つめ続ける12体のぬいぐるみたちが
微笑みながら見守っていた。
この物語に少しでも目を通して頂けました
皆様に心より御礼申し上げます。
書き始めた当初に思っていた話の全てを書いていては
無駄に多趣味なせいで恐ろしく遅筆な作者では
ネバーエンディングストーリーになる事に気がついて
大幅に端折ることとなりました。
初めて書いてみましたが小説を書くということは本当に
難しいのですね。
異端者扱いにはもう慣れっこですが作者は色々あって
思うところもあり、SNSの一切を絶って何年も過ぎています。
そうなりますと宣伝もままならず、
それでもこの連載を始めた当初に幸運にも7つの
ブックマークを頂くことが出来ました。
少なくとも7人の方がこの物語を読んでくれるだろうと言うことが
本当にうれしくなって、今やその2倍になったブックマークや評価に
本当に励まされて自分の紡いだ物語を最後まで書ききることが出来ました。
応援頂けました皆様にどうか作者の心からの感謝が少しでも
伝わりますようにと願ってやみません。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
追記
【リッチ】なおじいちゃん~不死者による生者の孫育て~
新しく小説を書き始めてみましたのでそちらにも目を通して
頂けますと幸いです。




