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76.エピローグ4

迫りくるマンティコアの凶爪が背に乗る主に

届かぬ様にとククは必死で距離を取った。


ククは地上ではうまく使えない魔力もダンジョン内では

使い放題だった。背に乗る主もその体質が

そうさせるのか、魔素の濃い場所ほど吸収する魔力も大きく

比例する様に使用できる魔力も大きくなっていった。


1人と1匹のコンビはその種族としてから見れば

互いにまだまだ幼かった。

幼さ故の蛮勇はそのコンビに無謀にも下層へ足を踏み入らさせ、

ククの感知能力の外からマンティコアに襲い掛かられると

劣勢のままに追い回される結果となった。


「クク、無理しないで!!」

「一緒に戦うから!!」


迫りくるマンティコアに魔法を放ち、牽制しながら主は叫んだ。

ククの尻尾は大きく千切れ、その羽もズタズタにされてはいたが

それでもその全力を持って翔び続けた。

その背に乗る主も決して五体満足では無かったが

それでもその主は傷つきながらも自分を庇いながら必死に逃げる

大事な相棒の姿などは見たくはなかった。

今までだってどんな困難も共に乗り越えてきた。

これからだって乗り越えられるはずなのだ。


ククはその感知の外から襲ってきた捕食者の姿を捉えてみれば

その感知能力で相対する敵が自分たちでは絶対に敵わない相手だと

否応なく理解できた。

下層の魔物たちはそれまでに相対してきた相手とは想像を

超える程にケタが違いすぎた。


相棒がここで死ぬくらいであれば自分が

ここで死んだ方が遥かにマシ。


かつての冒険者たちを思わせるその絆は互いを互いに

自分自身以上に気遣わせ、自身の死の恐怖よりも

相棒を失うかもしれない恐怖にその心を染めあげた。




急に目の前に現れた光の道に飛び込む・・・

というより全速のククはそのまま突っ込むしかなかったのだが

あまりにもいきなり景色が変わりすぎたので急停止すると

1人と1匹は傷だらけになった顔を見合わせた。

後ろにあったはずの追いつかれそうだったマンティコアの

恐ろしい気配も消え去っていた。


『そのまま・・・』

『そのままその道を進んでください』

『ごめんなさい』

『当時の私たちが張り切りすぎたせいで』

『今の私でもここに直通することは難しくて・・・』


その不思議な優しげな声にまた顔を見合わせると

今はその言葉に従うしかないことが互いに互いの酷いザマを

見て理解できた。


その光の中の道は長かった気もするし短かった気もした。

その出口から出て、眼下に広がる景色を前に――

2匹、あるいは2人からは言葉が出なかった。

ただ息を飲むことしかできなかった。




中層に届いた頃だろうか?

ダンジョン内で背筋が凍るほどに怨嗟のこもった目で

自分たちを見つめる紫色に変色した魔花たちを見る様になったのは。


下層を目指せば目指すほどに群生するその魔花たちは

地上で聖花と呼ばれる魔花たちとうって変わって

憎悪のこもった血走った目でこちらを睨んだ。


その氷の様な視線はいつまでたっても慣れないもので

遠くからその群生地を見つければ、先に進むために

そこを通らなければならないことに気が滅入ったものだった。


今、目の前に広がるその景色は

ダンジョンの様に群生するその視界に映る魔花は

地上の聖花そのものにその青を咲き誇り

そして穏やかな視線を1人と1匹に向けていた。


その視線から感じる穏やかな気配は、

その青は本当にあまりにも綺麗で―――――

でも何でか何故か自分たちが直視することが憚られる様で

思わず視線を逸らすと


は・・・?

ぬいぐるみ??


視線を逸らしたその先で場違いすぎる

不審すぎるものが目に入ってそれに目を奪われた。


まるで祭壇に祀られる女神の様に立派な台座に

鎮座するその全部で12体のぬいぐるみたちは

1人と1匹に視線を逸らさせる程に美しい

その景色を来訪者に目もくれぬ様に真っ直ぐに

見つめていた。


永遠―――


そんなものは無いのであろうが、それを感じさせるほどに

そのぬいぐるみたちは仲良く寄り添いながら目のくらむほどに

眩しい青を前にして微笑んでいた。




『全く、もう・・・』

『無理は、めっ!!ですよ?』


思わずその目に映るものに奪われた意識の外から

かけられた言葉に振り返ってみれば

そこには言葉を発す不思議なぬいぐるみの姿があった。


『私だって特定の誰かを贔屓なんてしちゃいけないんですから』

『きっと、たぶん、これがええっと・・・』

『うん、これがきっとたぶん最初で最後になるんですからね!!』

『うん、たぶん、きっと・・・』


最後の方は消え入りそうなほどに何故か

自信なさそうな言葉を発するその怪しすぎる

ぬいぐるみにそのコンビは目を奪われた。


『でも・・・』

『ここまで来た最初の存在が・・・』

『あなたたちだったってことを本当に嬉しく思います』


『う~ん・・・?』

『これは久々に皆呼ばなきゃなんですかね?』


いや、何で疑問形・・・?

そんなこと聞かれましても何のこっちゃという

顔を見せるコンビの姿が目に映らないかのように

勝手に話を進めるぬいぐるみは嬉しそうに言葉を続けた。


『う~ん・・・』

『何時ぶりだったっけ?皆で揃うの・・・』

『まぁ、あなたたち酷い怪我しちゃってるし、

 しょーがないですよね?』

『いや、理の外からあなたたちを癒すことだって

 実は私にはできちゃうんですよ?』

『それに私だって神なんですから我侭なんて

 言っちゃいけないんですから』

『でも・・・』

『これは仕方のない事なんです・・・』

『うん、だってこれは不可抗力、

 だって仕様が無いですよね?』


自分たちにかけられているのかいないのか、

その訳の解らない誰に対する言い訳なのかも

まったく解らないその言葉の最後に


『ねぇ??』


否定を許さない様にぬいぐるみから発せられた

その同意を求める言葉に

コンビは頷くことしかできなかった。




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