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74.エピローグ2

美しい歌声が響く中、それは突然に起こった。


その場にいた者たちは決して感知能力に優れた

種族という訳では無かった。

それでも外から流れ込むその気配の強さは

圧倒的な何かがこのダンジョンの外に降り立ったのを

その場にいる誰しもに理解させた。


何かが訪れる前触れであることをその場にいるものが

理解するのは容易かった。


誰からともなく地底湖に飛び込むと注意深く全員で

その気配を窺った。


「(ただいま~~~っ!!)」


地底湖に歌の大きな声が響き渡った。

その声の主は確かに記憶していた頃より雰囲気は変わっていた。

それでもその気配は片時も忘れたことの無い懐かしい気配を、

それは愛しい存在を思い起こさせ・・・


姉たちは弾かれる様に湖から飛び出すと

我先にと歌に抱き着いた。


魔物たちは魔素より産まれ、その濃さとその環境が

その種族を左右する。

魔物たちはもともと血を分けて生まれてくるわけでは無かった。

それでもセイレーンたちはずっと家族の様に過ごしてきたのだ。


ずっと前にこの地底湖に現れた見たことも無い2匹の獣に

食べられてしまったと思っていた妹の帰還に姉たちは美の化身に

あるまじき程に顔をぐちゃぐちゃにしてその無事を喜んだ。


旅立ちの後に産まれた歌の妹たちはきょとんとその様を

見つめていたが、つられるように恐る恐るとその歓喜の輪に加わった。



驚くべきことにこの大事な妹、あるいは姉は

あの恐ろしい2匹の獣と共に地上を旅してきたのだという。

大事な姉が食べられた敵討ちとあの獣たちを追って地上に出ると

その美しさに魅入られて何故か仇であるはずの獣たちと

仲良くなって勢いのままにそのまま共に旅立ってしまったのだそうだ。


「(ごめんね・・・)」


その謝罪の言葉は心配させたことに対するものだ。

同族を喰らったものと仲良くなったことに対するものではなかった。

食うか食われるかは自然の摂理であって、それに対する非難などは

魔物たちは人と違って持ち合わせていなかった。

当然、その倫理を持たない姉たちもその謝罪の言葉をそう受け取ると

無事にあなたが帰ってきてくれたんだからそれで良いんだよ・・・

と優しく抱きしめた。


歌は地上で出会った大事な友だちたちを皆に紹介したいと言った。


きっと急に皆で押しかけたらびっくりしちゃうからと、

そもそもがその地底湖の入り口は飛竜が通れるほどに

広くは無かったのだが歌は群れの仲間に外で待っていてくれるように

お願いしていた。


外からは相も変わらず恐ろしい程の気配が醸し出されている。

それでもこの子がそれを友だちと言うのであればそれは

脅威と呼べるものではなく、むしろ大事な家族を自分たちの

代わりに今まで守ってくれたお礼を言うべき存在たちなのだろう。




ぞろぞろと入り口まで来るとその気配通りに巨大な双頭の影に

恐怖心を感じてしまいつつも、それでももう叶わないと

思っていた再会を齎してくれたその存在に全員で頭を下げて

礼を示した。


『礼など不要よ・・・』


『その子の歌―――』

『その・・・う~ん・・・?』

『何ていうか、その、すっごくキレイなのよね』

『もしかしたらもう地上の世界と張れるくらいにね?』


旅の間にその地上を讃える歌に何度、感嘆の息を吐いたことか・・・


言葉の違いで姉たちに伝わるはずも無いであろう言葉でも

予期していなかった友だちのその称賛の言葉が少し気恥ずかしく、

思わず歌がその言葉を遮ろうとしたところで


「(その歌は我ら不死者ですら魅了したのだからな・・・)」

「(謙遜する必要はなかろう?)」


「(度を越した謙遜はただの嫌味じゃからのう?)」


大きな影に思わず目を奪われていたセイレーンたちは

同性しかいないはずの同族の言葉が異性の声で

発せられたことに驚いて目を向けると

そこには自分たちの魅了の力が通用することは無いであろう

アンデッドの魔物たちがいた。

天敵とも呼べるその存在にギョッとすると

そこにいた一人の少女が歩み出て


「(私は・・・)」

「(そう、歌も確かにステキなのですが)」

「(私は貴女様方の家族である歌どのの)」

「(その人となりを何よりも美しいと思ったんです)」


こいつ、一人で美味しいところを全部持っていきやがったと思う

その群れの姿に、ふふんと得意げな顔をする少女の姿に、

それはこの旅で得た同族とはまた違った別の家族、群れの皆を

もうここに全員は居ないんだけど、それは本当に愛おしくて

大事なキラキラと輝くその宝物に―――


「(私もマスターを本当に美しいと思いますよ)」


ローブの言葉に応える様に


「ア・・・リ、ガトウ」


一緒に過ごして、ずっと自分の言葉で群れの皆に伝えたかった

その想いが、ずっとこっそりと裏で練習してやっと発音できるようになった

皆にもきっと伝わるこの感謝の言葉が、もうここにはいない群れの家族にも

どうか届きますようにと願った。






魔力を抑えれば魔物も外の世界に出ることができると知った

セイレーンたちがまるでニンゲンの様に地上でその生息域を広げ

そして交雑することで新たに生まれた種族がこの世界の繁栄に

貢献していくのはもう少し経ってからだった。















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