73.エピローグ1
いや、あいつ駄女神かっ!?
母親に怒られて涙ぐむ少年を庇うようにわんわん吠えたてる
犬の姿を見て思わず瞳孔を細くする猫は思った。
その犬の姿は記憶する小さな姿に戻ってはいたが
その内包する魔力はあっちの世界にいた頃のままだ。
結局、女神の意見一派が折れて少年はあちらの世界で得た
全てを忘れてこの世界に犬と猫と共に帰ってきた。
いつもの犬の散歩から帰ってきた少年は
この子すごいんだよ!!僕を乗せて家まで帰ってきたんだ!!
という話に、母親は顔色を変えるとこの子を虐めるな!!と怒った。
いい!?犬は人を背に乗せちゃいけないのっ!!
母殿、それは至極まっとうな意見なのですが
こいつはまともな犬じゃないんです・・・
ものすごく言葉を発して少年をフォローしたくなったが
ぐっと堪えた。
不服そうではあったが、その意見を折った女神は全てを
忘れさせて少年をこの世界に帰したはずだ。
『それでも、私はこれからこの少年を全力で贔屓しますからねっ!!』
頬を膨らます女神の子供じみた様に意見の対立は
置いておいても思わず群れからは笑みが漏れた。
でもこれでは話が違うだろうが、あの駄女神がっっ!!!
少年が全てを忘れて元の日常に戻る―――
あっ!?
言ってない!!!
この子も元に戻るなんて少しも言っていない!!
自分がやったことでご主人様が怒られているなんてことは
ちっとも理解していない犬は少年の母親にわんわんと
猛抗議していた。
あ~あ・・・
そりゃ言ってはいないけれどさ、その辺のことは
ちょっとくらいは考えてくれても良いじゃないか・・・
少年のことを気の毒に思うけれど何もできない猫がふと空を
仰ぐと時空を超えた場所で慌てふためく女神の姿が見えた。
ごめんなさいっ!!こんなはずじゃ・・・
狼狽える女神の、自分の家族の姿に思わず猫は今まで
出したことも無い声を出して噴き出した。
その聞いたことも無い不審な音の元を探って
ふと我に返って冷静になった母親は涙ぐむ我が子の頭を優しく撫で――
次からは気をつけなさいね・・・
その言葉にいつもの愛情を感じた少年は泣いたカラスが
もう笑うように微笑むと母親に謝罪した。
いや、全くもってその謝罪は要らないのだけれどな・・・
猫と女神は同じことを思って心の中で少年に謝罪した。
良く解らないけれど、いつもの優しいご主人のママに戻った
母親の姿に嬉しそうに飛びつきそうになる犬を猫パンチで
叩き落とすと
『この子も元に戻せるかい?』とアイコンタクトを
送った女神が『ごめん、無理』とその目が言っているのを
猫は直ぐに理解した。
そういやこの子だって神に匹敵する力をあっちで得たんだっけな・・・
この可愛い舎弟だってあっちの過酷な世界を共に生き抜いたのだ。
どうしてぶったのっ!?
そう言いたい様に今度はこちらにわんわんと抗議する犬に
普段は魔力を抑えろっていうことを教えるのに
一苦労した時以上にこれからのことを教えることに
苦労することになるであろう自分の事を思って
なのに何故か込み上げる嬉しさと共に猫はため息をついた。




