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72.都合の良い未来へ

「この世界に魔獣が現れたのは地上の魔花が取りつくされて

 しまったからだ」


まぁ、ある意味では間違ってはいないか・・・


王都に広がる話を聞いた猫は思った。

実際のところ、その呪いを世界に振りまいているものが

紫色に変色したその魔花自身だということは置いておいても

その話は結局はそういう事なんだろう。


あれから幾分か時が経っていた。

この世界の英雄たる少年が夢枕に立ったという女神から

伝え聞いた話は瞬く間にこの世界に広がった。


実際に少年の夢枕に立った女神はこの世界の真実を

偽らずに、だけど都合の良い事実だけを

まぁ、ちょっとだけは脚色したけれど全て伝えてきたらしい。


『ふふっ・・・』

『私も狡くなりましたね』


最初の頃より随分と表情豊かになった女神は

悪戯っぽく笑った。


【魔王】と呼ばれる存在は世界のその現状に心痛め、

この世界を救うために魔花を乱獲するニンゲンたちを

駆逐しようとしていたらしい。

女神の眷属である聖獣がその寸前に魔王と対峙し、

それを食い止めると魔王は王都の象徴たる聖山に封印された。

聖山に立ち込める人を惑わす霧はその封印が何人にも

破られぬように張り巡らされた防御壁のようなものであったらしい。


『この花がこの世界の最後の希望となるでしょう・・・』


目覚めた少年の手には夢で女神に託されたという

絶滅したはずの一輪の青い魔花があった。

その存在はその少年の話を裏付けるには十分な効果を持っていた。





『まぁ、こうなったら仕方のない事なのかも知れないけど・・・』


『それでは我らはずっとここに缶詰状態となるのか?』


封印されているはずの魔王が世界をうろついていたら

それは大問題だろう。


『心配はいりません』

『今の私の魔力ならばおふたりを【隠蔽】することも

 できるはずです』


そんなローブを纏った歌がその旅に同行すれば

まだ見ぬ世界の情景を探す旅も続けられるそうだ。


『まあ、ワシらもいるしの』

『何とでもなるわい』


寂しいけれどこの群れの別離はもう目の前に来ている。

犬と猫が少年と共に元の世界に帰ったら残りの群れは一緒に世界を

見てまわる旅を続けることになっていた。


『それでも・・・』

『私たちの【家】はきっとこの場所なんです』

『たまには帰ってきたいですね・・・』


群青の景色を前に呟く少女の言葉に

それは勿論と全員で同意した。


『ワタシ等も偶にはここに帰ってきたりできるのかい?』


猫の言葉に促される様に女神を見やると女神は途端に破顔した。


『望めばいつでもここまでの道を創りますよ』


信仰を得て力を得た女神からすれば訳の無いことだ。


『でも【帰る】っていう表現は面白いですね』


意地悪く微笑む女神は随分と俗っぽくなったなと思う。

それは群れからすれば好ましい変化であった。

揚げ足取るんじゃないよと軽口を叩きながら笑う猫も

その変化を好ましく感じつつ、今話し合っていたことを続けた。


この世界中からダンジョン内の魔花の全てを外の世界に

連れ出すことは難しい。

何年も何十年もかければあるいはできるのかも知れないが

あえてそれをすることは無い。

何故ならその方が逆に都合が良いからだ。

そうやってこの世界から魔花の呪いが無くなってしまえば

また地上の魔花たちはニンゲンたちに駆逐されてしまうだろう。


誰かが笑えば誰かが泣く。

何かを喰らうことでその生命を繋ぐ。


光と影のようなこの動物界での当たり前をあちらの世界の住人に

押し付けるのは本当に申し訳ないなと思う。

ある意味で捕食される側となる紫色の魔花たちには

どう謝罪していいのかも解らない。

それでも長い議論の果てに得た群れの結論は決まっていた。


決まっていないのは―――

元の世界に帰った後のことだ。


『ですが、それでは私の気が収まりません』

『それに努力は報われるべきでは無いのですか??』


少年のこの世界での経験を全て無かったことにして欲しいと言う

猫の願いに女神は反対した。

この世界に来て何年もたっているが、元の世界では一瞬のことだった

なんて都合の良い事もできる女神としてはこの世界で頑張ってきた

少年のこれからの生に輝かしい未来を約束したかったのだ。

自分の願いを叶えてくれたどころか、友だち――もはや家族とも

言える存在を与えてくれた、孤独から解放してくれたあの少年は

女神にとってもある種の英雄であってこの世界での経験や得た力を

もとに元の世界でもその力を振るって幸せになって欲しかった。


『まぁ・・・』

『それもわかるよ・・?』

『わかるんだけどさ・・・』

『非凡であるってことはそれはそれで辛いことなのさ・・・』


猫又である猫は元居た世界ではひとりぼっちだった。

この世界にきて真の意味で家族と呼べる群れを授かったが

それまでずっと感じていた、別にそれを寂しいとは思わなかったんだけど

あのどこかずっと心のどこかで感じていた孤独な気持ちを少年に

味わって欲しくも無かったのだ。


それに平凡であるってことは裏を返せばそれはそれで

得難い幸せなことでもあるのだ。


裏からその幸せをひっそりとちょっとだけ手伝うくらいで

ちょうど良いんだって言う猫の意見も同様にずっとひとりぼっちだった

女神にも勿論わかる。わかるんだけど・・・


群れの意見も二分し、少年の物語の結論が出ぬままに悪戯に時は過ぎていっていた。













あと数話で終わりますので物語の最後まで

お付き合い頂けますと幸いです。




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