70.違う道と同じ空
いや、あるんかい!!
それは断腸の思いで一つの種族を自分勝手に滅ぼす覚悟を
決めた途端に別に違う道もあるけど?と事も無げに
示した魔王たちはかつての経験を話した。
群れの仲間であるニンゲンの幼い兄妹は
呪いはおろか魔力に対する耐性すら持っていない。
それなのに何故こんな世界で魔獣化していないのか?
今は群れでその呪いから守っているから当然のことだが
考えてみれば当然の疑問だった。
『この子たちと出会った時に見ちゃったのよね』
『あの青い花たちはその呪いを吸っておったぞ?』
自分たちを一方的に迫害した憎き存在であるはずの
ニンゲンから魔素をその呪いごと青い花が
抜き取る姿を魔王たちは目撃していた。
まったくの別種の存在の植物である魔花が
自らの同種が作った呪いを吸い取る理由なんて
知るはずも無い。
でもそれはこの世界を救う答えなのかも知れない。
・・・・・
その沈黙は先ほどのものと違って群れの悲壮な覚悟を
示すものではなく、むしろポジティブな感情からくる
沈黙だ。皆は一つの種族を滅ばすことなく
この世界を救う絵をその頭に思い思いに描き出した。
どうやらこの自分たちの心を奪ってやまない青い花たちは
その世界を救うかも解らない程に可能性に満ちた
存在であったらしい。
ただただ一方的に利用するだけで
そのお礼すらどうすれば良いのか永遠に解る訳はないが
それでもこの青い花たちには精いっぱいの感謝と敬意を。
それからの議論はきっとこちらの自分勝手な考えだとしても
如何にこの世界に青い花たちを定着させるかに集中した。
信仰され始めた女神の名のもとに保護するべきなのか
地上の美しさを知った魔物たちが保護してやるべきなのか
そもそも万物の根源たる魔素の採取に困らなければ
その美しさ故にその生存の心配をする必要すら無くなるのか・・・
きっとこの二大区分である動植物はその考えやその歩む道が
交わることは決してない。
それでもこの同じ世界の同じ空の元で生きる生物なのだ。
植物だってその子孫を残すために時に受粉のために
動物の力を借りるのだ。
共存する道はきっとあるだろう。
新しく芽生えた希望の道はまだどう進めば良いのかわからない。
それでもさっきまでの鬱屈とした議論よりは随分と明るい声に
なっていた。
その答えが出るのにはもう少し時間がかかるだろうが
ふと猫の頭にはきっと同じ考えでこの世界で歩んでいる
少年のことが過った。
『そいや、あんたずっとここにいるけど』
『おチビちゃんと連絡は取れるのかい?』
女神からすれば訳のないことだ。
やろうと思えばこの場にその意識だけを召喚して
この議論に参加させることだってできる。
その答えに猫はその必要はないことを伝えた。
その代わりにこうなれば理解したこの世界の全てを
少年に伝える様にお願いした。
自分たちには自分たちにしかできないことだってあるし
あの少年にもあの少年にしかできないこともあるだろう。
『おチビちゃんに言ってやんなっ!!』
『この世界を救って一緒に帰るぞっ!!てな』
『それまでは別行動だ』
面持ってこの世界で頑張ってきた少年を労いたい気持ちもあるが
あと少しでこの物語は終わるだろう。
全部終わった後にあの少年の頭を撫でてやるとしようか。
よくわかんないんだけど難しそうに話していた
群れのみんなの声色が明るいものに変わったことが
嬉しくて犬はわんわんとそのしっぽを振り回して吠えた。
この議論する時間がこの瞬間が本当に愛おしく思えて
女神のその心は温かさで満ちた。
知らず知らず笑みを零す女神はこの世界を認識した
瞬間の様に―――
唐突に全く持って違う世界を、生物の壁すらをも超えた
その次元を認識した。




