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69.一つの答え

食べ物が食べられるときに何を考えているかなんて

考えたことも無かったな・・・


まぁ、どんな世界でも弱肉強食だってのは

変わんないのかもねぇ・・・


ふむ・・・?食べるとはそんなに難しく考える程の

事だったのか??


いやいや、ワシらだって別に捕食しなくても

生きていけますけど??

あれ・・・?生きてたっけ・・・??


各々が女神の言葉をかみしめる中、続く沈黙の場に

女神がすこし俯きながら不意に言葉を続けた。


『私の・・・』

『私自身の考えを初めて口にしてみました』


言葉にすることで言葉にならない想いを、自分自身の思考を

噛み砕いて初めて消化できて理解することだってある。


友を得たことで初めてその行為を試した女神は

自分はそうあるべきだと信じ、理想を掲げるだけで

空回りするだけだった、かつての自分自身の姿を思えば

こうも冷酷もあるその判断を下せる様になったその成長を、

それを産み出した自身の感情を良くも悪くも理解した。


感情をもつとは、自分自身を持つということは

はたしてこれは進化なのか退化なのか・・・


いずれにせよそれに振り回されつつも

そこに後悔を感じることは無く、

むしろ誇らしげに自分の成長を噛み締めて

自分のその思いをそのままに口にした。


『何と言うか―――』

『不思議な感覚ですね・・・』


『ごめんなさい』

『困惑させてしまいました』


そしてその決意の様にその顔を力強くしゃんと上げてみれば

その視界に移った景色に思わず目を奪われ、そして笑みが零れた。


『ふふっ・・・』

『でも、もしかしたらそんなに難しく考えることも

 ないのかも知れません』

『私が悩みぬいて得たこの答えを・・・』

『もうとっくに、もしかしたら生まれながらに

 理解していた方もいるようです』


その視線の先には、お昼寝のために快適な寝床を造ろうとして

魔花ごと地面をほりほりしてそれらを蹂躙しつつも、

その相手の彩りとそのニオイを楽しんで、ペロペロと舐めて、

お礼を言っているこの矛盾だらけの動物界の姿を体現したかのような

犬の姿があった。


この子はすごく単純な生き物だ。

何時だってどんな時にもただただ全力でその瞬間を生きる

その生命は―――あまりにも全てから自由すぎた。


酸いも甘いも、原罪なんてそんな言葉を知らなくても。

この一瞬一瞬を、そしてその傍らにいるものを

ただただこの世界を、それらを愛してその生を

一生懸命に歩み続けることだけしか知らないし、

この子にとってはきっとそれだけで良いんだろう。


この世界は酷くて綺麗で楽しくて辛いんだけど

だけどすっごく胸が躍って仕方が無いんだ。


犬がその思考を口にできるとすれば

幸運にも恵まれたその世界しか知らない犬から

出る言葉はただ世界に対する感謝だけだっただろう。


女神のその視線を追えば、単純にその世界でその命を

全力で進み続けるだけしかできない、

でもそれはたった一つの世界の真理である様な・・・

視線の先には一つの生命の完成した形があった。


大好きな群れの皆の視線が急に集中して

よくわかんないんだけど、ただただ何か嬉しくなって

しっぽをゆったりと振る犬の姿があった。




思わずその姿に頬を緩ませてみれば、

自らの生きるこの世界を女神と同様に

愛おしいと思った。


『そうだね・・・』

『これは私らのただのエゴだ』

『同情もするし、むしろあいつらに謝罪したいくらいさ』


『だけど世界を救うために』

『あいつらにはこの世界から退場願おうか・・・』

『だってこの呪いを分離する方法なんて無いんだろ?』


魔素の専門家たるリッチも、世界の理から外れた存在である

女神すらもこの世界で変化してしまった魔素から呪いを抽出する

方法なんて無いと思った。


ならば・・・何の罪も無い存在である魔花を

自分たちの都合で排除する事を心に決めた時に


『いや・・・』


『あるけど・・・??』


魔王たちのその言葉に「はぁっ?」とその群れの視線が集中した。




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