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66.【女神】のぬいぐるみ

しばらくするとテラスの片隅に設けられた台座に

皆のぬいぐるみが並べられた。


自らの分身たる、このぬいぐるみたちはずっと

この場所で群れの家族たちと一緒にこの群青の景色と

共に在り続けるのだろう。

皆で感慨深く、それを眺めた。


「それでもいつかは風化してしまうからのう」

「そうならぬようにワシが厳重に封印しておこうかの」


リッチが魔力を練り始めたところで・・・


「あの・・・」


歌のぬいぐるみが申し訳なさそうに皆に声をかけた。


ぬいぐるみが動いたっ!?


皆でぎょっとすると歌がローブの通訳を介して

そういえばちょっと忘れてたけど、さっき魔力を込めたら

この子が動き出したんだったということを伝えた。


「女神です・・・」


何か邪魔できない空気で、ずっとぬいぐるみモードに

なってはいたが、やっと落ち着いて言葉を交わせる様に

なったのに封印されてしまってはこっちに移った意味がない。


『あんた、なんでずっと喋らなかったのさ!?』


「やればできるんじゃないですか」


「ぬいぐるみをどうやって操っているんじゃ??」


『ふむ・・・』

『確かに自分のぬいぐるみにそれぞれ魔力を込めるのも良くないか??』


『おばかっ!!』

『今はそんな事、言っている場合じゃない!!

 ・・・んだけど、それ良い考えね?』


「私も元は布地なので解るのですが」

「そうすれば込められた魔力によって風化は避けられるでしょう」


「更に主の封印があれば完璧と言ったところか」


この世界の人間たちに急速に信仰され始めているとは言え、

この群れの【女神】への信仰はとっても薄かった。

思い思いに女神を前にして自由だった。


「ごめんなさい・・・」

「この良い雰囲気を壊したくなくって・・・」


最初の謝罪の言葉とは違った意味で申し訳なさそうに

猫の問いに応える女神の姿に皆は逆に申し訳なく思った。


『ああ、謝ることなんて無いよ・・・』

『何かほったらかしでこっちこそ悪かったね・・・』


「ごめんなさいっ!!」


またも謝る女神にそんなに畏まる必要ないって―――

と皆が声をかけようとしたところで女神の予想もしていなかった

言葉が響いた。


「ゴールなんて無いんです」

「いえ、解らなくなってしまったんです・・・」


・・・は??








・・・はぁ、なるほど?


女神はこの凄惨に思ったこの世界を救うために

少年や犬と猫を派遣したのだが、いざ信仰されて

力を得て、そして改めてこの世界を見てみれば

何が正しいか解らなくなってしまったらしい。


最初は信仰を得てこの世界で力を行使できれば簡単に

どうにかできると思っていた。

期待通りの少年や犬と猫の活躍はこの世界で【女神】への

信仰は深まり・・・

当初の目標は実はとっくに達成されていたそうだ。


強くなりすぎた2匹にそれを伝えるのは本当に

遅くなってしまったが、実は女神はもうとっくにそれを

少年に伝えていて元の世界に帰そうとしたのだが

少年自身が頑なに拒否したそうだ。


「まだやらなきゃいけないことがあるんだ」


少し大人びた少年は夢枕に立つ女神に言った。


「皆を、この世界を幸せにしたい」

「それまでこの旅は絶対に終わらせない」


あ~まぁおチビちゃん、意外と頑固な性格だからなぁ・・・

中途半端に投げ出すなんて、そりゃしないよな~





「正しい事って何なんですか?」

「どうやったら皆が幸せになれるんですか?」

「私は一体この世界で何をしたら良いんですか?」

「どうやったらこの世界を救えるんですか?」


ぬいぐるみは所詮ただのぬいぐるみだ。

決して涙などは流すことは無い。

それでも声の主の慟哭だけが響いた。






『・・・そうだね』

『その答えは皆で考えてみようか・・・』


「いえ・・・」

「すみません、取り乱してしまいました」

「この答えは必ず自分で見つけなくては・・・」


猫の優し気な言葉に涙声で答える女神に


『別にあんたが見つける必要も無いんじゃないの?』


魔王の言葉は続いた。


『うむ・・・』

『別に我とて地上の美しさを自分一匹で見つけ出した訳では無い』


『私たちだって万能じゃないからね・・・』

『あんただってそうだろう?』


『うぬのおかげで我らは地上に出られたのだ』

『そして何よりうぬのおかげで我らはこうして出会えたのだ』

『我らは助力を惜しむ気はない』


アンデッドたちが更に言葉を続けた。


「一人で考え込んでも最良の答えが出る訳では無い」

「そうじゃな・・・わしもこの出会いによってそれを学んだのじゃ」

「お主もそれを学ぶべきかもしれぬのう?」


「きっとその出会いが無ければ」

「私は今でもダンジョンの中を何の考えも、」

「いえ、考える力も無いままに彷徨っていたことでしょう」

「私が今こうして存在しているのも貴女のおかげです」


「友が悩んでいるのであれば身命を賭して協力する」

「騎士として当たり前のことではあるな」




―――えっ?


俯いていた女神のぬいぐるみが弾かれる様に顔を上げた。

その様子を訝しんだ歌から


「(あれ・・・?)」

「(よくわかんなんないんだけど・・・)」

「(こうやって言葉を交わし合って

 話し合うのって」

「もう友だちだからなんじゃないの・・・?)」


え!?違うの!?とびっくりした声がかけられた。






―――友だち


女神はたった一人で孤独にその生を歩み続けていた。

その道は何もかもうまくいかなくて、挫折しかなくて

その無力感から自己否定するばかりで・・・

その心は悲鳴をあげ続けていたけどそれでもその思いを

吐露する相手なんてずっといなくて・・・


初めてのその出会いに女神の心の壁は遂に崩壊した。

ただただ女神の泣きじゃくる声がその場に響いた。


その嬉しくも悲し気なぬいぐるみをどうして良いか

解らない犬は慰撫する様にそのぬいぐるみを

一生懸命に舐め続けていた。




「とりあえず兎にも角にも・・・」

「あなた自身のぬいぐるみも作る必要がありそうですね」


歌の身体を得体のしれない何かに乗っ取られてから

ずっと不敬な態度だった少女は呟くように言った。


















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