65.【ぬいぐるみ】
訝し気に皆の視線が集中する中、自分で何を
口走ったかもわからなくてオロオロしている
歌の頭で声が響いた。
「(ごめんなさい)」
「(少しの間だけ、お身体をお借りいたします)」
えっ!?誰??
と思う本人の意識を余所に歌からは言葉が続けられた。
「私は【女神】です」
皆で一瞬きょとんとした後、驚愕の声が漏れた。
「歌どのはご無事なのですか??」
心配したゾンビの少女が真っ先に声をかけた。
「歌さんには本当に申し訳ないです・・・」
「この方は私と波長が合うようなので」
「少し身体をお借りしています」
「あなた方と言葉を交わすにはこんな方法しか思いつかなくて・・・」
知らない言葉が自らの意思に反して放たれる不思議現象に
いよいよテンパって謎ムーブすら始めた歌にローブが
その言葉の内容を伝えると、ちょっとは落ち着いたようだったが
『ちょうど良かったよ!!』
『おチビちゃんと合流したら私らは何をしたら良いんだい?』
「どうやって身体を操っているんじゃ?」
「特におかしな魔力は感じんのじゃが・・・」
「歌どのが困っております」
「すぐに歌どのの身体から離れてください!!」
『違う世界ってどこにあるの?』
『私でも感知できないのよね・・・』
「わんわんっ!!」
皆に一気にまくしたてられて目を白黒させていた。
何かを問えば歌を介して【女神】が応えようとしても
その度に大事な群れの家族である歌が困惑してしまう。
ああ、ごめんごめん歌に言っているんじゃなくて―――
いやでも【女神】に聞きたいことはいくらでもあるんだ。
場は大混乱に陥った。
まずはこの状況を何とかしようか。
『あんたはその子の口からしか喋れないのかい?』
【女神】の説明ではこの群れはそれぞれの魔力が極端に強すぎて、
人間の幼い兄妹は逆に魔力が無さ過ぎて
波長の合う歌の身体を借りるのが精いっぱいだったらしい。
強いと言われてえへへと全員で身体を貸している歌も含めて
照れて笑って見せたが何の解決にもならない。
何かを問うたびに歌から焦燥感を露わにされては気の毒になって
会話にならないし、歌自身だって聞いてみたいことがあるだろう。
何かを思いついたゾンビの少女はリッチと一緒に
研究室に転移すると直ぐに戻ってきた。
その手に抱きかかえられていた生地であっという間に
歌をモチーフにしたぬいぐるみを作ってみせた。
「さあ、」
「身体が必要というのであればこちらにどうぞ」
少女としては困惑している大事な大事な友だちから
早くその【女神】とやらに出て行って欲しかった。
そんな事言われましても・・・
別に外見が大事ってわけじゃ・・・
逆に女神が困惑している間に歌が目を輝かせて
自分を模したぬいぐるみを抱きあげた。
「(わ~、じょうず~)」
そんなつもりじゃなかったんだけど喜んでくれて良かった。
思わず少女から笑みが零れた。
『ふむ・・・』
『確かにうまいものだな』
「せっかくだし、全員分つくってみたらどうじゃ?」
「確かに全員分をここに飾りたくなるな」
「そうすれば皆がずっと一緒にいられるだろう?」
いやいや、今はそうじゃなくて・・・
なのだが、その考えに皆で目を輝かせた。
抱きしめられたぬいぐるみには歌の魔力が
意図せずとも付着した。
――――!!
「(歌さん)」
「(このぬいぐるみに魔力を込めてくれませんか?)」
喧騒の中、自分の口から自分でもわかる言葉が発せられた。
皆でエンディングの話になってから散々、感情が動きまくって
疲れて果てていた歌はもうなるようになれ~っと言葉の通りに
自らの魔力をぬいぐるみに込めた。
「(ありがとうございます)」
「(これで落ち着いて話せる様になります)」
自らのぬいぐるみが急に話し出したのに歌は驚愕し、
わっ!?動いたっ!!
と思わず皆の方に共感を求める視線を向けたが・・・
『私、いい感じじゃない!!』
『次は我を頼む』
「私のは是非、マスターのぬいぐるみが着られる様にして下さい」
「わんわんっ!!」
『あんたのおもちゃじゃないからね!!』
『間違っても噛みついて壊すんじゃないよっ!!』
そこには少女に自らのリクエストする皆の姿と
それに応えて一生懸命に裁縫を続ける少女の姿があった。
その皆のぬいぐるみが出来上がってゆく様に歌も
不審に動き出した自らのぬいぐるみを抱きかかえながら
大喜びでその輪に加わった。
きっと群れが離れ離れになってもきっとこの分身たちは
永遠に一緒にいられるのだ。
先ほどまでのぐちゃぐちゃな感情に揺さぶれていた
皆が興奮しない訳がなかった。
・・・あれ?
さっきまで質問攻めだったのに何で!?
急に興味を失われたかの様にほっとかれて
【女神】は歌の腕の中で呆然としたが、それでも
その群れの無邪気な様は思わずその顔に笑みを零していた。
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