64.想起
あれ?この世界に何しに来たんだっけ?
この旅の始まりを思い出してみようか・・・
【女神】にこの世界を救ってほしいと言われた
おチビちゃんがこの世界に送られて、
こっちで会ってそれを間違いなく確信したけど、
おチビちゃんに会いたい意外、別にその後のことなんて
何も考えて無かったおバカちゃんがその後を必死に追って・・・
まぁ、この子が後のことを考えている姿なんて一度も
見たことが無いけれど。
で、強い強い私が2匹を守ってあげなきゃってこっちに送って貰って―――
あ!?ゴール聞いてないっっ!!
猫が急に瞳孔を見開いて背の毛を逆立だてるその姿に、
その表情は読みにくいものだがその受けた衝撃を
その群れたちは簡単に理解することが出来た。
怪訝な面持ちで自らを見る群れの皆にその浮かんだ疑問を
猫はそのままに打ち明けた。
友を通り越して、もはや群れと言う家族とも呼べる存在になった
猫と犬はいつかは元居た世界に帰らなければならないことは
最初から聞かされていた。
それは本当に寂しくて、心のどこかではそのいつかは
訪れなければよいとさえ思っていた。
だが珍しく狼狽える姿を見せる猫に今は皆もその考えを
頭の片隅に追いやった。
『そりゃあ、他にゴールを聞かされてた子から聞けば・・・』
黒蛇が言葉と共に、もしかしたらゴールを知っている
かも知れない寝息を立てていたはずの犬を見やると
大事な姉貴分の異様な気配を感じ取って
目を覚ました犬が猫を心配そうに見つめていた。
不安そうにか細く鼻を鳴らす犬の幼気な姿は思わず群れの
皆が安心させるために笑みを零しながら、その頭を優しく
撫でてしまうものではあった。
が、実際のところ内心は全く安心できたものではない。
この子に皆にわかる説明を求めるのはきっと難しいし、
そもそも聞いていたとしてもそれを理解しているかどうかも怪しい。
そんな考えを嗅ぎ取ったのか、犬は余計に悲しそうに
鼻を鳴らした。
それでも皆のその思いが嬉しかったのか、しっぽは
ブンブンと振り回されていたが。
「結局、その少年に聞いてみるしかないのであろう?」
首の無い騎士の意見はいつも短絡的な様で実は本質を突いている。
あーだこーだ予測を立てたところでその答えはきっと一つしかない。
この世界を救う―――
抽象的すぎていまいちピンと来ない。
そりゃ思い返せば確かにそれぞれに色々とあったけど・・・
最初に群れに加わった歌はその姉たちを2匹に食べられた。
勿論、その時は怒りと悲しみでどうにかなりそうだったけど
でも最初に食べようとしたのは自分たちの方だった。
飛竜と黒蛇はもともと敵対し合っていたが、
この群れの皆と出会ってからは本当のケンカなんてしたことが無い。
勿論、ほかの群れの皆ともだ。
アンデッド達はデュラハンこそ最初は犬と戦ったが
別にそれでどうこうあったわけでも無いし、
その是非を問う気も無いが研究ばかりだった日々は
終わりを告げた。
そしてそれはローブという新しい家族を産み出した。
こうして何かの【縁】があって巡り合った皆が一緒に
笑いあいながら進む本当に大事な宝物とも呼べるこの日々を
与えてくれたこの世界は本当に素晴らしいと思う。
その世界を救う?
この世界はその生に新しい彩り与えてくれるばかりで
むしろ救われてばかりだった。
そんな世界を救わなければならないのであれば
勿論やぶさかではないのだが、この世界は
一体何からどうして何を脅かされているといのだろう?
そしてそれをどうやって守らなけばならないのかなど
誰も皆目見当もつかない。
結果的に今抱えている課題のハードルは上がってしまった。
少年からゴールを教えて貰わなければエンディングに
辿り着けやしない。
それを知るためには少年との対峙は最終的に絶対に友好的なもので
なければならないだろう。
きっと少年も敵対しているものに目的を教えてやるほどに
お人好しでもないし、そうあって欲しくも無いし、
でもそうあっちゃうかも知れないからこそニンゲンという
一つの好ましい種族でもあるのだ。
予想できないだけに立てるべきプランはいくつあっても足りない。
きっと、そのエンディングはこの群れの別離を齎してしまう
悲しくて辛くて本当は訪れて欲しくもないものなんだろうけれど・・・
あべこべな考えのままに原罪に縛られながらも
それをどうしても願ってしまって苦悩してしまう人間たちと違い、
賢者たるその群れはそれをすんなりと飲み込んでいた。
永遠なんてもんは無い。
だけどこの群れで過ごすこの瞬間だけはその生が終わるまでは
永遠にその心に刻み込まれるものなんだろう。
でもそれで良い。
たったそれだけで良いんだ。
そのエンディングは、もう随分と近くなってしまって
そしてそれを少しでも想像してしまえば思わず
家族との別離が頭に過ってしまい、思わずその考えに
どうようもなく悲しくなって、だけど家族の願いが叶ったことは
本当に嬉しくて・・・
その思いは本当にぐちゃぐちゃになって、
何でか互いに泣き笑ってしまうのだけれど、
それでも今この瞬間をきっと自分たちにとっての永遠としよう。
そのぐちゃぐちゃな思いで、全員で犬の様に鼻を鳴らしていた中、
「本当に・・・」
「本当にごめんなさい!!」
歌が言葉を発した。
それはいつも歌が話す言葉とはまるで違って
「はぁっ?」と不審げに群れのその目を集中させるには十分だった。
そこには言葉にならない想いに溢れて、それでも自分なりに
頑張って噛み砕こうとしていたら、いきなり自分の口を突いて出た
その言葉の意味すらをもそもそも理解できずに困惑している歌の姿があった。




